内田洋行と東京学芸大学が「包括的事業連携協定」を締結 「1人1台端末」の次を見据えて(1/2 ページ)
小中学校に通う全ての児童/生徒に1人1台端末を──日本の教育現場は、GIGAスクール構想が掲げた1つのマイルストーンに到達した。しかし、その端末の3割は“使いこなせていない”という。その状況を打破すべく、国内で最も多くの付属学校を持つ東京学芸大学と、古くから教育現場を支援してきた内田洋行がタッグを組む。
内田洋行と東京学芸大学は2月13日、包括的事業連携協定を締結した。締結式は東京学芸大学付属竹早小学校(東京都文京区)の「SUGOI部屋(すごい部屋)」で行われ、本協定の意義と、文部科学省の掲げる「GIGAスクール構想」において1人1台端末が実現した“その先”の見通し、両者が実施/構築した学習空間における授業内容などについて説明があった。
調印式の舞台「SUGOI部屋」は何がすごい?
協定の調印式が行われたSUGOI部屋は、東京学芸大学の協働プロジェクト「未来の学校 みんなで創ろう。PROJECT」の一環で、内田洋行と東京学芸大学が2022年に設置したICTを活用した学習のための空間だ。
SUGOI部屋は、内田洋行がフレキシブルなオフィス空間を実現すべく開発した空間構築ユニット「SmartInfill(スマートインフィル)」の技術を活用して構築されている。SUGOIは「Smart(洗練された)」「Unlimited(制約を受けない)」「Growing(成長する)」「Open Innovation(開かれた革新)」の頭文字を取ったものだという。分野にとらわれず、優れた技術やノウハウを取り入れている。
教室の前方には、巨大なスクリーンと2台のプロジェクター、スピーカーが設置されている。スクリーンはホワイトボードとしても利用できるようになっており、2画面のミラーリングや拡張表示、1画面表示、2画面を連結した「パノラマ表示」などを行える。
教室の机と椅子には、軽い力で動かせるキャスターが付いている。学習の内容に応じて、レイアウトを自由自在に変えられるようにするための工夫だ。
この部屋を、どのように児童の学びに活用しているのか――竹早小学校の幸阪創平教諭が、デモンストレーションを交えて解説してくれた。
例えば、「雑草を調べてみよう」という校外学習を実施する場合、事前学習で児童1人1人が持つ端末を使って検索させる……のではなく、前方にある巨大スクリーンをパノラマ仕様にして、「Google Earth」で学校近辺を表示し、全体を見渡して「ここには雑草が生えていそうだから、もう少し拡大して場所を絞ろう」などと指導していくという。こうすることで、学習に出かけた際に、集団での移動もスムーズになるそうだ。
また、他校の同学年の児童、あるいは食育に関連した農業従事者とオンライン交流などをする際にも、このスクリーンを活用している。「小さい画面より、大きいスクリーンの方が相手の表情も分かりやすいし、オフラインのようなコミュニケーションがしやすい」からだ。
そう聞くと、「せっかく学習用端末が1人1台あるのに、このような空間が必要なのか?」と疑問に思うかもしれない。しかし、手元に端末があるからこそ、子どもたちは“個”が一層強くなる傾向も見られる。幸阪教諭も「(児童が)下を向くことが多くなったような気がする」と語る。
「(全員が見るべき映像を)前方にあるスクリーンに投影することで“共視”が実現し、学習への関心や意欲を高める効果がある」のだ。
気になる操作性だが、幸阪教諭によると「SUGOI部屋を使うときに、教員用PCで『かんたん設定』を立ち上げておけば、1画面表示や2画面表示などの切り替えがスムーズに行え、迷うことなく操作できる」そうだ。
SUGOI部屋は教員の教育にも活用されており、外部向けのセミナーを定期的に行っているという。「ハイブリッドで学ぶ環境を、どのように生かすのかについても発信している」そうだ。
「こんなにすごい部屋があっても、使いこなせないのでは?」という声もありそうだが、東京学芸大学と内田洋行との協力関係もあって、うまく使えているようだ。
こうしたICT教育を行いやすい学習空間の導入は理想的だが、当然ながら導入に当たってはコストが掛かる。公立学校であれば、一義的にはこうした予算は自治体が確保しなければならない。
自治体によっては予算を確保できず、結果として教育格差が広がるのではないか――筆者はこう思っていたのだが、内田洋行の青木栄太部長(学びのコンテンツ&プロダクト企画部)によると、「1人1台端末が実現した今、以前の『PC教室』とは異なり、このような空間を作るのに大したコストはかからない。(デスクオルガンを1人1台配備するタイプの)音楽室に比べれば、はるかに低コストで導入できる」そうだ。
このSUGOI部屋は、最小限の設備とコストで“できること”を検証する役割も担っている。
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