「マウスコンピューターはPCの会社である」 小松社長が創業30周年を迎えて断言する理由:IT産業のトレンドリーダーに聞く!(2/3 ページ)
不安定な世界情勢が続く中で、物価高や継続する円安と業界を取り巻く環境は刻一刻と変化している。そのような中で、IT企業はどのようなかじ取りをしていくのだろうか。大河原克行氏によるインタビュー連載の第11回は、マウスコンピューターの小松社長だ。
新ブランド「NEXTGEAR」はユーザーと一緒になって挑戦する製品
―― 新たなことへの挑戦の中でも、公式ECブランドのゲーミングPC「NEXTGEAR」を発表したことは大きな挑戦の1つですね。
小松 当社は早いタイミングからゲーミングPC市場に参入してきましたが、ここ数年、この市場が拡大する中で、十分にシェアを伸ばせていないという反省がありました。課題を分析する課程で、その要因の1つとして挙がったのが、よりコストパフォーマンスが優れた製品を用意すること、それをお客さまに届ける仕組みを用意することでした。
先行する「G-Tune」シリーズは、ハイパフォーマンスPCとして評価されていますが、若年層を中心になかなか手が出しにくいとの声もありました。そこで、新ブランドのNEXTGEARによって、若年層にも対象を広げることができるコストパフォーマンスの高いゲーミングPCを用意したわけです。
さらに若年層を対象とすることから、SNSなどを通じた発信を増やしたり、広告展開もSNSを強く意識したりといったことに加えて、ユーザーと一緒にブランドを作り上げていくというコンセプトも打ち出しました。
例えば、シャシーデザインやロゴデザインに関しては、X(旧Twitter)を使ってユーザーアンケートを行い、約9000人の声が集まりました。それらの要望を反映した結果、フロントパネルはソリッドなクロス形状とデルタ型のメッシュパネルが特徴的なデザインを採用しましたし、フロント上下のメッシュ部分にはLEDケースファンが搭載できるBTOメニューを用意しました。
また、NEXTGEARのノートPCにブルーグリーンのボディーカラーを採用したのも、ユーザーの声を反映したものです。実は、現場の社員にとってみると、想定外の意見がかなり多く寄せられ、アンケートの答えをそのまま製品に反映してもいいのかどうかという点で相当悩んだようです。
しかし、「集まった声に沿ってやらないのならば、何のためにユーザーに聞いたのか。ユーザーの要望ならば、やってみたらどうか」と、私が最後のひと押しをして(笑)、ユーザーのみなさんの声をしっかりと反映することにしました。
NEXTGEARのボディーデザインも、これまでのマウスコンピューターにはなかったものです。長年に渡って踏襲してきたのは、シンプルでコンサバティブなデザインでしたからね。NEXTGEARは、ユーザーと一緒なって、さまざまなことに挑む製品であるともいえます。
―― メーカーの立場からすれば、これまでの経験値がありますから、ユーザーの声をそのまま反映するのには、かなりの勇気が必要だったことが推察されます。
小松 現場の社員はそうだったでしょうね。しかし、これも、私たちにとって新たな挑戦の1つですし、ユーザーから多くの意見をいただいているのに、それを反映しないなんて、これほど失礼なことはありません。まずは、これまでの殻を破って、やってみることに大きな意味があります。
G-Tuneは、PCメーカーである当社が提案するプロフェッショナル向け製品であるのに対して、NEXTGEARはユーザーの意見を積極的に取り入れながら、進化を遂げる製品だといえます。NEXTGEARで高い評価を得た取り組みであれば、それをG-Tuneに反映するといったことも出てくるでしょうし、クリエイター向けの「DAIV」やスタンダードな「mouse」、さらにビジネス向けの「MousePro」といった他のブランドに展開していくこともあると思います。
―― NEXTGEARの反応はどうですか。
小松 いい手応えを感じていますし、数字も伸びています。若年層からもいい評価を得ています。ただ、私の期待値はもっと高いですから(笑)、まだまだこれからですね。
―― NEXTGEARではAMDのCPUを採用していますが。AMD搭載モデルのブランドと捉えてもいいですか。
小松 それは違います。NEXTGEARのコンセプトの1つである優れたコストパフォーマンスを実現する上で、現時点で最適なのがAMDのRyzenであると判断しました。Intelのプラットフォームでもコストパフォーマンスに優れていると判断すれば採用することになります。制限はありません。
―― 今後、NEXTGEARはどんな進化を遂げることになりますか。
小松 G-Tuneは、プロフェッショナルゲーミングPCとしての側面がより強くなります。その一方でNEXTGEARは、先にも触れたようにコストパフォーマンスを追求したゲーミングPCとして進化を遂げていくことになりますし、ユーザーとともに作り上げていく製品として進化していきます。デザインやカラーリングだけでなく、新たなプラットフォームに対応する際にも、SNSを通じてユーザーとの対話を行い、方針を決めていきたいですね。
―― ちなみに30周年記念モデルはありませんでしたね。
小松 正直なことを言うと、企画はしていたのですが30周年モデルとしては中途半端なところがあり、私が差し戻した経緯があります(笑)。当社が投入する30周年モデルに対してはユーザーの期待値が高いですから、それを裏切るような要素が少しでもあるのならば、出さない方がいいと判断しました。
―― 社外に向けて30個の新たな挑戦をしましたが、社内向けにも新たな挑戦はありましたか。
小松 実は、公表はしていませんが、社内に向けても30個の新たな挑戦をしています。これは社員がもっと働きやすく、もっと働きがいのある会社にしていきたいということ背景に取り組んだもので、その1つとして、かなり大胆なフレックス制度を導入しました。
社員の業務内容によって若干の違いはありますが、在宅勤務が可能な社員を対象として、基本的には各社員が月に定められた時間を勤務をすれば、都合に合わせて出勤・退勤時刻を調整できるという仕組みにしました。この仕組みを使えば、週休3日の勤務も可能になります。
従来は勤務時間が決まっており、テレワークを行う際には上長への事前申請が必要でしたが、コロナ禍においてテレワークを行いながらも、パフォーマンスを落とすことがなかったという成果を元に働く仕組みを大きく変えました。この変更も社員からの提案がベースになっています。
また、子育てサポート企業としての取り組みを評価していただき、2023年10月には厚生労働省の「くるみん」の認定を取得しました。育児休暇の取得率も上昇していますし、全ての社員に育児休暇を取ってもらいたいと思っています。
さらに、社員を対象にした30周年記念イベントも全国の拠点ごとに行ったというのも、新たな取り組みの1つですね。
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