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インタビュー

シャープがEVを売りたい理由 CTOに聞く、“シャープらしさ”を取り戻すために今考えていることSHARP Tech-Day(5/6 ページ)

シャープが、操業111周年を記念して2023年に行ったイベント「SHARP Tech-Day」が、装いも新たに2024年も開催される。本イベントの狙いやこれまでの取り組み、そして未来への挑戦を同社CTOの種谷元隆氏に聞いた。

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AIの利便性を享受できる世界を作る「Act Natural」

―― シャープ独自のエッジAIであるCE-LLMは、2023年のSHARP Tech-Dayで発表されて話題を集めました。この1年でどんな進化を遂げましたか。

種谷 2023年はCE-LLMを発表し、概要をお伝えすることが中心となっていましたが、2024年は一気に「実装」の段階にまで入ってきています。CE-LLMの役割は、より重要性が増していますし、私自身、その手応えを強く感じているところです。2023年はぼんやりしていた部分も、2024年になってかなりクリアになり、視界が晴れ、これからはさまざまなものがローンチできると考えています。

 CE-LLMは、エッジAIならではの特徴を生かした提案ができます。例えば、ユーザーからの問いかけに対し、ChatGPTなどのクラウドAIで答えるのがいいのか、それともローカルLLMなどのエッジAIのどちらで処理するのが最適かを即時に判断し、スムーズで自然な会話のやりとりを実現することができます。

 今のAIでは、会話をしていると返答までに時間がかかることがありますが、その間、利用者はちゃんとした答えが返ってくるのかが不安になります。AIが「そうですね」といったような相づちを打ったり、「今、答えを考えているところです」といった内容を表示したりできるようになれば、利用者は不安にならないですみます。これも、クラウドAIに、エッジAIが組み合わせることによって実現できる機能の1つです。

SHARP Tech-Day'24 “Innovation Showcase”シャープ イベント CTO 種谷元隆氏
独自AI技術のCE-LLMもアルゴリズムを改良することで、会話品質や応答速度が向上している。これにより、広範囲のユースケースへ適用可能になった

 さらに、個人に依存するようなプライバシーを守りたい情報はエッジで処理したり、データ量が多いものは一部を切り出してクラウドAIにあげて処理したりすれば、ネットワークへの負荷を削減したり、データセンターでの処理を最小化し、電力を削減したりといった効果にもつながります。

 そもそも、CE-LLMが動作する末端のデバイスは、CPUを始めとして省電力を実現するための工夫が多く盛り込まれています。ここで前処理をすれば、社会全体の省電力化に貢献できるは明らかです。全てをクラウドAIに任せると、エネルギー問題においても懸念があることは多くの人に共通した認識です。

 CE-LLMは、人に寄り添うAIを実現するための要素技術であるとともに、クラウドAIと組み合わせることでAIの価値全体を引き上げることができ、社会問題の解決につなげることができます。

 CE-LLMが「実装」のフェーズに入る中で、今回のSHARP Tech-Dayではコンセプトをより明確にし、価値観をより多くの人に広げ、来年以降の「実用化」に向けたイメージをお見せしたいと考えています。また、CE-LLMでは引き続き、スタートアップ企業との連携も強化しており、その一端も紹介します。

 さらにSHARP Tech-Dayでは、当社のAI戦略の全体像やシャープが提供するAIの価値といったものを発表したいと思っています。新たなデモストレーションもお見せできます。ぜひ楽しみにしていてください。

SHARP Tech-Day'24 “Innovation Showcase”シャープ イベント CTO 種谷元隆氏
シャープはAIを使って“知恵を授ける”のではなく、ユーザーが自然に享受できることを目指す「Act Natural」を提唱する

―― シャープは生成AIによって、どんな価値を提供することができますか。

種谷 端的に言えば「Act Natural」です。Act Naturalでは、AIを利用することで生活そのものが、より自然になることを目指しており、日々の生活の中でAIの利便性を享受できる世界を作っていくことになります。

 ナチュラルな生活の実現が当社流のAIであり、そこに価値を提供します。その点では、知恵を授けるためのAIとは役割が異なります。そして、利用者のそばにあるエッジAIだからこそ、Act Naturalを追求できます。

SHARP Tech-Day'24 “Innovation Showcase”シャープ イベント CTO 種谷元隆氏
人間が、自然な形で機械を操作できるように促すのがAct Naturalの目指すコンセプトだ

 家電には数多くのボタンがあり、複合機も利用手順が複雑だったりします。あるいは、料理中にタッチ操作をしなくてはならないのに、手が汚れていて押せないといった不便を感じたことがある人もいるでしょう。Act Naturalが目指す世界は生成AIを利用することで、こういった余計な操作を排除し、リモコンを手に持つことさえ無くすことができるようにしたいと思っています。

 洗濯の際に、洋服の汚れの傾向や汚れ具合、最適な洗濯時間や洗剤の種類を、その都度、人が判断してボタンを複数回押すのではなく、人と洗濯機の間に生成AIが入って、スタートボタンだけを押せばいいという世界が理想です。もしかしたら、スタートボタンを押すことさえいらないかもしれません。これが、当社が目指すAct Naturalの世界観です。

SHARP Tech-Day'24 “Innovation Showcase”シャープ イベント CTO 種谷元隆氏
エッジAIだからこそ、利用者のごく近いところで価値を提供できるとうたう

 生成AIによって、あらゆるものが変化すると考えています。もっと自然に、もっと簡単にできるものも増えていくでしょう。そこに向けて発想を変えていかなくてはなりません。

 私たちは、TVのリモコンは便利だと思っていますが、本当に便利なのか、本当に自然な操作なのかということを、いま一度考える必要があります。リモコンを持っただけで片手が他のことに使えなくなります。これは果たして自然なのか――。

 生成AIを利用することで、リモコンの役割は明らかに変化します。機械を使うために操作するという感覚すらない、自然な操作が追求できる時代がやってきたといえます。今の操作は本当に自然なのか、リモコンの存在は自然なのかといったように、全てのことを疑いながら、より自然な操作は何かといったことをゼロベースで模索していく必要があります。こうした取り組みが、Act Naturalの実現につながります。

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