Intelの苦境と変わりゆくデバイス――“AIシフト”の影響を受け続けた2024年のテック業界:本田雅一のクロスオーバーデジタル(4/4 ページ)
2024年も残りわずかとなった。振り返ってみるといろいろあったが、12月初頭のIntelのパット・ゲルシンガーCEOの退任がもっともインパクトが大きかったように思える。
2025年も「AIによる業界変容」は続く
半導体業界の勢力図は、この先1〜2年でさらに塗り替わると予想される。PCやスマホ、XRヘッドセットなどのエッジデバイスの高性能化はもちろん、クラウド/データセンター側のAIの最適化も熾烈(しれつ)を極めるからだ。
各社はNPU(推論演算に特化したプロセッサ)やGPU、そして自社製の「AIチップ」をどう位置づけるか、ファウンドリーとどう連携するかなど、総合的な戦略を組む必要がある。簡単にまとめると、以下のような感じになるだろうか。
- AI向けのIP(知的財産/技術)の取り込み合戦
- GPU/NPU/DSPといった機械学習用ブロックをどう設計して実装するかがカギ
- 「水平分業」か「垂直統合」か
- Appleのように自社設計の半導体や製品をフルに統合し、端末を仕上げるモデルを取るか、MicrosoftやMetaのようにプラットフォームを中心に据えるモデルを取るか
- 「クラウド」と「ローカル」のバランス
- AIモデルをどこまで端末内で動かし、どこからクラウドにオフロードするか(各OSの標準機能にも左右される)
- XRやロボティクス分野への波及
- XRや産業用ロボット、モビリティーの領域でもAI活用は欠かせなくなり、半導体需要の増大に伴う生産能力の“取り合い”が起こるかもしれない
CPUのアーキテクチャは、かつてのPC中心のx86時代から、スマホを始めとするモバイルデバイスが誘因となったArmアーキテクチャの台頭へと大きく揺れた。そして今は、GPU/AI中心にシフトしている。
AppleやGoogleは独自設計の半導体を持ち、NVIDIAやAMDはファブレスで成功を収めている。そんな中、パット・ゲルシンガーCEO退任後のIntelが“どの方向”にかじを切るかで、2025年以降の半導体業界はさらに変化していくだろう。
Intelは、既に米国とドイツで巨大工場を建設している。ファウンドリー事業で他社の受託生産を増やし、TSMCに対抗する路線を進めなければ、投資回収を行えないだけではなく、米国政府に対して約束していた半導体技術の地政学的リスクの分散を始めとする約束も果たせなくなる。
今にして思うと、Intelが「Xscale(Strong ARM)」を手放してしまったことが悔やまれる。AIチップや「RISC-V」などで、Intelの“良さ”を生かせるとは考えにくい。
その一方で、NVIDIAの「一人勝ち」になるかといえば、そうでもないと考える。
NVIDIAの強さは半導体チップそのものの性能が高いことはもちろんだが、最も大きなポイントはAI開発者たちが事実上の業界標準となったNVIDIAのライブラリーとツール上で研究開発を行っているという点にある。
もしもこの構図に変化があれば、パワーバランスも変わるかもしれない。
生成AIは、もはやブームではなく、当たり前に存在する価値/技術となってきた。企業や個人のワークフローに深く浸透し、世の中の動きに組み込まれはじめた段階といえる。
端末(スマホやPC、タブレット、XR)でのローカル推論も当たり前になり、クラウドで稼働するAIとシームレスに連携する世界観が広がるほど、ハードウェアの進化はますます求められる。
NPUやGPUがどれだけ効率よく動作するかが、端末の魅力にも直結するだろうが、この“歴史”はまだ始まったばかりだ。
OSもシステムレベルでAIをサポートするようになってきた。Windowsなら「Windows Copilot」、macOSなどAppleのOSなら「Apple Intelligence」といったように、生成AIを機能として組み込んできたことで、今後10年はSoC/CPUの進化と“二人三脚”で進化が進むだろう。
ローカル推論をどれだけ高速かつ省電力でこなせるか、クラウドとのオフロードをどう実現するか――OSやアプリがAIを当たり前に内蔵し、ユーザー体験がシームレスに進化していく裏で、半導体の設計や生産、そして企業戦略は変わらざるを得ない。
2024年は、その転換点として深く記憶に残る年になったが、2025年以降も地殻変動の続きから目が離せない。
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