1993年生まれのパソコン「FMV」がイメチェン 狙いは「国内重視」と「顧客拡大」(2/2 ページ)
富士通クライアントコンピューティング(FCCL)が、個人向けPCブランド「FMV」を刷新する。その狙いはどこにあるのだろうか?
コロナ禍を経て変わった「PCの役割」 FMVも変わるべき
ここまでの経緯を見ても分かる通り、FMVというブランドは現在FCCLが販売する国内の個人向けPCにのみ使われている。富士通やエフサステクノロジーズが取り扱う法人向けモデルでは、製品ページやカタログを含めて「FMV」という文字列は使われていない。
このタイミングでFCCLがFMVのブランドをなくすのではなく、むしろ強化する方向でリブランドするということは、ある意味で日本市場により“集中”するというメッセージとも受け取れる。語源となったDOS/Vが「死語」となった今、なぜFMVというブランドを一新するのだろうか。
FCCLの大隈健史社長は、その目的を以下のように語る。
コロナ禍を経て、オンラインでの仕事や授業、行政サービスが普及し、社会は大きく変化した。この変化に伴い、我々のPCは日本の暮らしや働き方に欠かせないツールへと再定義されたと捉えている。こうした背景を踏まえ、FMVも変わる時が来たと判断し、ブランドをリニューアルすることにした。
日本における社会の変化を受けてブランドを一新することで、FMVを一層“日本の”ブランドとしてより強固な存在としたい――そんな狙いがあるようだ。
新生FMVが目指す“頂”とは?
ブランドの刷新だが、「シンプルで分かりやすいこと」「現代の価値観に合うこと」「日本の暮らしを応援すること」の3つが基本コンセプトだという。
シンプルさの面ではロゴの刷新とシリーズ/モデル名の刷新が分かりやすい。従来のFMVロゴは全体的に“太め”で、「FM」がやや小さく「V」がやや大きめというバランスだった。それに対し、新しいロゴは“細め”のフォントで「FMV」のいずれも等しいサイズとなっている。これは「未来志向の象徴」だという。
一方で、FMVの特徴である幅広い製品ポートフォリオは維持し、その1つ1つについて個性を際立たせるという。一見すると、シンプルの逆を行く方針にも思えるが、シリーズ/モデル名のルールをシンプルかつ一貫性を備える形に改めることで対処する。
ノートPCは「FMV Note」、デスクトップPCは「FMV Desktop」とシンプルなブランド名に改めた上で、シリーズ名も1文字とすることで分かりやすさを改善する(なお、法人向けモデルのシリーズ名は以前から1文字)
現代の価値観という観点では、FMVの技術的象徴でもあるモバイルノートPC「FMV Note U(旧LIFEBOOK UH)」シリーズと、若者向けの「FMV Note C(旧LIFEBOOK CH)」シリーズが分かりやすい。
FMV Note Uは「軽いのに性能が高く、頑丈」というコンセプトが特徴だ。今回の新モデルは従来のコンセプトを踏襲しつつ、AIの処理能力を高めるNPUを統合した「Core Ultra 200Vプロセッサ」を採用することで、昨今のオンデバイスAI処理へのニーズに応えている。
一方、FMV Note Cは、大隈社長直轄の「FMV From Zero Project」が主導ことでZ世代が考えた、Z世代に向けたノートPCに生まれ変わった。その外観は、FCCL/富士通が発売した直近5年のノートPCを知っていると「え、これって富士通(FCCL)のノートPCなの?」と首をかしげてしまうほどに、LIFEBOOKのアイコニックなデザインを避けている。
FMV Note Cの開発に携わった開発に携わったFCCLのベテラン社員によると、このデザインは「(Z世代の)プロジェクトメンバーがFCCLの持つ技術を生かしつつ、良い意味で“らしくない”ノートPCを追い求めた結果」だという。つまり“新しい”FMVの姿(の1つ)を体現すべく意図的にやったということだ。
新たな顧客層を開拓すると同時に、会社の風土や文化を進化させる――FMV Note Cは想像以上にFCCLの“社運”を賭けた製品でもある。
FMV Note U(旧LIFEBOOK UH)の新モデルは、FCCLとして初めての「Copilot+ PC」準拠製品となる。国内メーカーは最新CPUの採用が遅れがちだが、本製品の投入によって“キャッチアップ”を図ったともいえる
FMV Note Uの新モデルは、カスタマイズ(CTO)モデルを含めて全構成が「Intel Evo Editionプラットフォーム」に準拠している。その代わり、今回は“世界最軽量”の追求は行っていない……のだが、Copilot+ PCとしてはダントツで軽い約848gという重量をマークしている
FMV Note Uが“今まで”を踏まえて強化したモデルであるのに対して、このFMV Note Cは“これから”のFMVを示す1台となっている。本文でも述べた通り、このモデルは従来のLIFEBOOKとは一線を画したデザインを“意図的に”採用している
違いが一番分かりやすいポイントはキーボードだ。従来のLIFEBOOKでは方向キーを半段下げて、その下方にカーブのアクセントを設けていたが、本製品では「デザインに“ノイズ”を出さない」という観点から半段下げを廃止している。また、同じ目的のもと電源キーもキーボード内に収めている。ただし、いわゆる「誤爆」対策の観点で、電源キーは周囲のキーより押し心地を固くしている
FMV Note Cをきっかけに、従来の大学との協業活動を発展させた「Good Campus Life Project」も立ち上げる。FCCLとして「現代の大学生の価値観を深く理解し、社会や大学生を応援する意思を明確に示す」(大隈社長)というコミットメントだ
日本の暮らしを応援するという観点では、本社(川崎市幸区)における製品の企画/開発体制や、島根富士通(島根県松江市)における製品の生産体制を維持/強化していくという。企画から生産/サポートまで国内で行うことのメリットを追い求めるということだ。
FCCLが今回発表した内容を総じて見ると、FMVのリブランドは国内ビジネスへの集中と新たな顧客開拓を目的としていることがよく分かる。今までのFMV(LIFEBOOK/ESPRIMO)が培ってきたものを生かしつつ、新たな時代の日本に適したPCを出していこうという意思もうかがえる。
このリブランドは、今後のPC業界にどのような影響を与えるのかは未知数だが、個人的には国内PCメーカーが今後、日本に“閉じて”いってしまうのではないかと不安を覚える。「それも戦略だ」と言われればそこまでだが、世界に日本のPCの良さを伝える機会がなくなることだけは避けてほしいと思う。
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