新「FMV」に込めた不退転の決意 学生から「パソコンはいらないよ」と言われても王道を行く理由 FCCLの大隈社長に聞く:IT産業のトレンドリーダーに聞く!(2/4 ページ)
不安定な世界情勢が続く中で、物価高や継続する円安と業界を取り巻く環境は刻一刻と変化している。そのような中で、IT企業はどのようなかじ取りをしていくのだろうか。大河原克行氏によるインタビュー連載の第18回は、富士通クライアントコンピューティング(FCCL)の大隈健史代表取締役社長だ。
トップシェアなのに街角でFMVを使っている若者がいない
―― もともとFMVには、たくさんのアプリケーションが最初から付属していて、むしろシンプル路線とは逆の印象があります。
大隈 1つのアプリケーションだけを見ると、ある人には便利だったり、たまにしか使わないにしても、あった方が良かったりというものもあります。この点では、プラスだと判断できます。
しかし、これが50個搭載されると、プラスが50倍になるのではなく、むしろ、どのアプリケーションを使ったらいいのかが分からなかったり、ほとんど使わないのにパソコンのリソースを無駄に使ってしまったりといったことにつながり、多くの利用者にとっては結局はマイナスになってしまいます。
私たちを含めて、日本の多くのメーカーに共通しているのは足すことはとても得意だということです。昨年の製品よりも、今年の製品はここが良くなったということを示すために、機能の追加を繰り返してきました。本当にこれでいいのでしょうか。
結果として、私たちは複雑なものに作り上げてしまっていたのではないかという反省があります。そこでFMVは、一度立ち止まって、シンプルにすることで価値を届けられないかということに着目しました。
そして、本当にシンプルなのかということを自らに問いかけるためにも、1つ目のコンセプトとして、シンプルを掲げました。放っておくと、どんどんシンプルから離れていくのが、日本のメーカーの悪いところですからね(笑)。
―― ノートPCのFMV LIFEBOOKを「FMV Note」に、デスクトップPCのFMV ESPRIMOを「FMV Desktop」に名称変更しましたね。
大隈 これもシンプルというコンセプトに沿ったものです。分かりやすく統一したものとして、お客さまが選びやすくし、ブランドとしての一貫性を向上させました。
―― 2つ目のコンセプトとして、「時代に合った価値観であること」を挙げています。
大隈 これは、2025年という「今」を捉えたものではありません。時代はどんどん変化していきます。移り変わり続けるこということを前提として、「今」という瞬間に合うものをFMVは作り続けることを示しました。
ですから、今年言っていることと、来年言っていることは変化するのは当たり前だと思っています。それが「時代に合った価値観」という意味です。FMVが実現する本質的なものは変わりませんが、常に、時代の価値観にあったものを提供しているのかどうか、ということを自問していくことが大切です。
FMVのエンジニアは、技術志向で突き詰めていきがちです。こうしたエンジニアが多く在籍していることは私たちの強みです。ここに、お客さまが求める価値と合致しているのかどうかという視点が加わることで、2025年という時代の価値観に合った製品が提供できると思っています。
2030年には全く別の価値観が生まれ、私たちはそこにおいても、しっかりと合致した製品を提供していく必要があります。アンテナを張り続けて、そこに引っかかったものに対して、私たちの技術や製品、サービスを組み合わせて、答えとなるものを提供していくことが重要です。
FMVは、エンジニアの独りよがりで作ったものではなく、技術トレンドだけを捉えたものでもなく、時代に合った価値観をベースにモノ作りをしているんだ、というメッセージを込めています。
―― これを実現するためには、どんなことをしていますか。
大隈 今は「もっと外に出よう」と言っています。例を挙げると、先に触れたようにFMVはトップシェアであるにも関わらず、若年層というカテゴリーで見るとナンバーワンではありません。
キャンパスに行ったり、カフェに行ったりしても、FMVを使っている人がほとんどいないのです。それは、なぜなのか。どこにギャップがあるのか。机の前に座って考えても答えは出てきません。出てきたとしても表層的なものでしかありません。
そこで今回は、忖度(そんたく)せずに答えてくれる大学生に直接聞きに行きました。大学生に「FMVに駄目出しをしてくれ」と言ったところ、さまざまな意見をいただきました。それが、新たなFMVのモノ作りに生かされています。
私がFCCLに来て感じたのは、優秀で勤勉な社員が多いのですが、その一方で、極論すれば、外のことをほとんど知らない社員が多いということでした。
同じことをやり続けたり、年齢を重ねたりすると、新しいことに対する感度はどうしても下がりがちになります。慣れ親しんだものを、慣れ親しんだように使い、慣れ親しんだ人と交流をすることが積み重なり、それが快適になると、新しいものに接することがどうしても減ってしまいます。
FCCLは、もともと社員の流動性が低い会社です。それによって素晴らしいチームが構築され、情報伝達のロスがなく、効率的な仕事ができているというメリットはありますが、現在の価値観でアップデートするという点では、情報感度が鈍いと感じる部分がありました。
OpenAIの「ChatGPT」が登場した当初、FCCLのエンジニアたちが、これをあまり使っていないということがありました。だけど使っていなくても、これはどういうものかということを、しっかりと説明することはできるのです(笑)。しかし、時代に合った価値観を捉えるには、この姿勢ではいけません。
時代の価値観を知るには、まずは実際に触れてみることが大切です。「使っていなくても分かる」ということではなく、「使ってみないと分からないことを知る」という方向にマインドセットを変えていかないと、新しいモノを作り出すことはできません。
製品には、これまでの延長線上で進化させるものと、ゼロから新しく作るものがありますが、特に後者の場合には、外に出て刺激を得ること、使ってみて理解することが大切だと思っています。
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