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インタビュー

新「FMV」に込めた不退転の決意 学生から「パソコンはいらないよ」と言われても王道を行く理由 FCCLの大隈社長に聞くIT産業のトレンドリーダーに聞く!(3/4 ページ)

不安定な世界情勢が続く中で、物価高や継続する円安と業界を取り巻く環境は刻一刻と変化している。そのような中で、IT企業はどのようなかじ取りをしていくのだろうか。大河原克行氏によるインタビュー連載の第18回は、富士通クライアントコンピューティング(FCCL)の大隈健史代表取締役社長だ。

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学生から「パソコンはいらないよ」と言われて分かった外の空気

―― そして、3つ目は「日本」を意識したコンセプトになっていますね。

大隈 3つ目に「日本のお客さまを見つめ、コンピューティングテクノロジーで日本の暮らしを応援すること」としたのは、あえて日本ということを強調する狙いがあります。

 海外市場への展開は以前にも行っていましたし、私が2021年4月に社長に就任してからも、海外8市場を対象に事業展開をしました。しかし、結果としてはあまりうまくいきませんでした。ここは真摯に反省し、今は海外からは完全に撤退し、日本市場にフォーカスして事業を進めています。

 FMVが単独のブランドとして生きていくには、徹底して日本の市場に焦点を当てることが、より重要になります。グローバルメーカーはコスト競争力が高く、素晴らしい製品を開発して日本に投入していますが、あくまでグローバルで多くの人が利用する平均的な製品を作る傾向が強くなります。

 日本の意見も大切ですが、北米や中国のユーザーの意見も反映しなくてはなりません。私自身、以前はレノボグループの海外拠点で働いていましたから、その点はとてもよく理解しています。FMVは日本のお客さまの声を聞き、日本のお客さまの声にだけ反応した製品を作ることができます。

 これは、日本のお客さまの暮らしを応援することになり、それはFMVにしかできないことだと思っています。FMVは、日本に設計/開発チームがあり、日本に生産拠点があり、日本にサポート拠点があります。その体制を生かして、日本のお客さまを応援することができるブランドであるということは、新たなFMVでも打ち出していくべき重要なポイントであると考えています。

―― 3つのコンセプトの中に、「安心感」や「信頼感」といったFMVが培ってきた強みを示す言葉が含まれていません。これはなぜですか。

大隈 信頼感や安心感というのは、ユーザー体験の結果として得られるものです。それを私たちが訴求するのは、主客転倒です。3つのコンセプトを突き詰めていけば、結果として安心感や信頼感は醸成されていくものです。もし、私たちに安心感や信頼感に課題があるのであれば、むしろそれをコンセプトの1つとして掲げた方がいいでしょう。

 しかし、FMVは国産ブランドの中でも最も安心感があり、信頼感があり、顧客満足度も高い。それを言語化して、コンセプトの柱にするより、お客さまの立場に立ち、日本にお客さまのために現代の価値観に合って、シンプルなパソコンを提供することを掲げることの方が重要であり、それが実現できれば、自ずと安心感や信頼感が作れると考えています。

富士通 クライアントコンピューティング FCCL FMV Note C LIFEBOOK ESPRIMO Note

―― 2025年1月の会見では、今回のFMVのブランドリニューアルを、「ロゴや製品を刷新だけでなく、会社の風土や文化を進化させるものになる」と位置づけていました。

大隈 これまでのFMVのモノ作りは、どちらかというと技術主導やプロダクトアウト、インサイドアウトというアプローチに寄ったものでした。私は、こうしたモノ作りは決して間違ったものだとは思っていませんし、他社では到達できない高見までFMVが到達できるのは、高い技術力があり、それを中心に突き詰めていくことができるからです。

 ただ、それだけではなく、別のモノ作りのアプローチがあり、製品によってはそのやり方へと軌道修正をしていく必要があります。マーケットインやアウトサイドインというようなアプローチに振り切った方法など、1つのやり方だけでなく、別のアプローチもできる体質を持ちたいですね。

 また、お客さまのクレームや量販店のバイヤーからいただく意見は、次のモノ作りにおいて重要なものですが、それだけでなく、もっと隠れた声を拾っていく必要があると思っており、それができるような会社でありたいですね。

 パソコンに対する不満はあるが、それを言うほどではなかったり、あえて言う必要がなかったりという意見がたくさん埋もれています。先ほど、大学生にFMVに駄目出しをしてもらったという話をしましたが、新製品のプロジェクトチームが大学生の声から導き出した結果が、「若年層にとって、パソコンは興味がなく、意識の外側にあるプロダクト」というものでした。

―― パソコンメーカーの社長としては、かなりショックな結論ですね(笑)

大隈 パソコンを作っているメーカーが、「パソコンはいらないよ」と言われたわけですから本当にショックですし、とても悲しかったです。また、私自身はパソコン少年で、学生時代もパソコンを自作したり、徹底的に使い倒したりしていたので、「今の大学生って、そうなの?」と驚きましたよ。

 とはいえ、よく考えてみると大学生はスマホを手に持ち、それを日常的に使っています。それなのに大学に入学し、授業に必要だから、どうしてもパソコンを使わなくてはならなくなって「また、新しい操作を覚えなくてはならないのか」と思えば、ちょっと嫌にはなりますよね。しかも、スマホよりも重たいですし(笑)。

 FMVは、パソコンが好きな学生にだけ販売していればいいというのではなく、興味がなく、仕方なくパソコンを使い始めるという学生に対しても、正面から向き合っていかなくてはいけないと考えたのです。

 同様に、パソコンはいらないと判断してしまったお客さまは、なぜそう思ったのか。私たちは、こうした本音を知ることが大切です。耳が痛いリアリティーにも、しっかりと耳を傾けることができる文化を定着させたいですね。

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