合法的な「コンテンツ利用」と「生成AI活用」の実現に向けての第一歩 アドビがクリエイター支援ツールに取り組む理由:本田雅一のクロスオーバーデジタル(3/3 ページ)
アドビが、デジタルコンテンツの来歴を記録するWebアプリ「Adobe Content Authenticity」をパブリックβとして提供を開始した。生成AIが当たり前に使われるように今だからこそ、コンテンツの来歴や権利をしっかり管理することで、クリエイターの新しいチャンスにつなげることが必要だ。
業界全体で「著作権の透明性」を確保
Adobe Content Authenticityは、アドビ独自の取り組みというわけではない。提供元こそアドビだが、その取り組みはCAIやC2PAを通した業界全体の取り組みだ。
先述の通り、Adobe Content AuthenticityはC2PAの規格に基づいて開発されている。その大本となるCAIには4500以上の団体が参加しており、その中にはデジタルカメラのメーカーも含まれる。つまり、デジタルコンテンツが“生まれる”瞬間からデータの中に出自証明情報が埋め込まれるのが当たり前となる未来が、目の前にある。
Adobe Content Authenticityを使えば、Verified on LinkedInによる身元情報も付与できるので、作品をきっかけに興味を持ったクリエイターの出自や履歴を“正しく”伝えることも可能だ。
今後の取り組み
Adobe Content Authenticityを使ったコンテンツクレデンシャルの付与は、現時点ではJPEGファイルとPNGファイルにのみ対応している。今後のアップデートでは、動画/音声ファイルを含むより広範な形式への対応が行われる予定だ。
Adobe Content Authenticityによるコンテンツクレデンシャルの付与は、現時点ではJPEGファイルとPNGファイルにのみ対応している(確認は動画/音声ファイルを含む多形式に対応済み)
アドビ製のアプリでは、PhotoshopとLightroomにコンテンツクレデンシャルを組み込む機能をβ実装している。これを有効にすると、作品を保存した瞬間にクレデンシャルが埋め込まれる(※1)。近い将来、このサポートは「Adobe Creative Cloud」のシステム全体に統合され、クリエイターはコンテンツクレデンシャルの設定を1つ登録すれば全ての制作物にクレデンシャルを自動付与できるようになる。
(※1)Photoshopでは、保存する画像にAdobe Fireflyによる生成コンテンツが含まれる場合、設定に関わらず自動的にコンテンツクレデンシャルが付与される(参考リンク)
デジタルカメラのメーカーもコンテンツクレデンシャルに関する取り組みを始めており、プロが利用する最新ハイエンドモデルにおいて、撮影者のコンテンツクレデンシャルを撮影時に埋め込む機能の実装が進んでいる。
LinkedInでは、Adobe Content Authenticityなどで埋め込まれたコンテンツクレデンシャルを直接確認する機能が実装されている(参考リンク)。写真をシェアできるサービスなどでも、コンテンツの帰属や著作権の信頼度を確かめやすくなるだろう。
さらに「AI学習のオプトアウト」が標準化されれば、コンテンツに対して対価を支払う企業が、クリエイターの意思を尊重しているかどうかについて、納品する業者に透明性を求めるようになることが期待される。
コンテンツクレデンシャルの付与が一般化すれば、デジタル作品がどのように作成/改変されてきたかの履歴が追跡できるようになり、改変前の「原著作権者」をたどるのも容易になると思われる。AI学習のオプトアウトも進めば、「同意なきスクレイピング(データ収集)」に対する能動的な対策として定着するだろう。
合法的な「コンテンツ利用」「生成AI」の実現に向けて
今日の生成AI環境、特に画像生成AIでは権利者が不明確な“イリーガルな”モデルが容易に流通しうるという課題を抱えている。
しっかりと許諾を取った「倫理的なデータセット」を使ってトレーニングを行い、商用利用可能な生成AIモデルを作る。そしてコンテンツクレデンシャルを通して権利関係の透明性を確保し、透明性の低いモデルを淘汰(とうた)する――このようなシナリオを描けるかどうかが、デジタルコンテンツのエコシステムをより透明かつ責任ある、リーガルな方向へと向かう上での“境目”となるだろう。
かつて音楽の世界では、圧縮率が高い割に音質のよい「MP3形式」の登場により、イリーガルな音楽流通が広がった。その後、合法的なダウンロードサービスが普及し、そこからストリーミングによる新しいエコシステムが形成された歴史がある。このことは、ある種の示唆を与えているのかもしれない。
当時は、コンテンツの改変履歴の確認や元となる権利者の追跡が難しかった。しかし、コンテンツクレデンシャルによって改変履歴の確認や権利者の追跡が容易になれば、新しいデジタルコンテンツエコシステムの“着地点”を探す上で、重要な役割を果たすだろう。
しかし、この取り組みは始まったばかりだ。技術の種はまかれたが、対応するデジタルカメラやプラットフォームが全て連携するまでにはそれなりに多くの時間が必要だ。そして世界各国におけるデジタルコンテンツの著作権法整備や業界全体の協力も欠かせない。
解決すべき課題は多く、道のりは長い。だが、Adobe Content Authenticityの提供開始は、問題の解決(あるいは緩和)に向け、業界が一丸となって動き始めた確かな一歩といえるだろう。
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