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「GPT-5」の光と影――革新と混乱の「新世代ChatGPT」 AGIへの大きな一歩だが未成熟な面も本田雅一のクロスーバーデジタル(3/3 ページ)

OpenAIが、新しいAIモデル「GPT-5」をリリースし、早速「ChatGPT」に実装した……のだが、そのことが一部で物議を醸している。どういうことなのだろうか。

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OpenAIは緊急対応を実施

 もっとも、本件に対するOpenAIの対応は早かった。

 リリースからわずか24時間後、アルトマンCEOは一連の問題を「bumpy rollout(でこぼこな展開)」と表現し、パフォーマンスチャートの不正確性を「mega chart screwup(巨大なチャート失態)」と率直に認めた。「私たちは確実にGPT-4oでユーザーが好む要素がどれほど重要かを過小評価していた」話し、GPT-4oを復活させる可能性についても検討が進んでいるという。

 またGPT-5のサブメニューに隠れていた「GPT-5 Thinking」を、通常の「GPT-5」と同列に変更し、推論能力を重要するタスクをこなす際に、簡単に選べるように可視化させている。

 さらに、ChatGPT Plusユーザーの利用制限を緩和(処理可能なトークン数を倍増)し、どの内部AIモデルが応答しているかをユーザーが察知できるようにし、モデルの自動選択機能の積極的な調整を行っていくという。

 これまで、OpenAIはある程度改良ポイントがまとまってからリリースするスタイルを取っていたが、当面の間は毎日のように継続的な改良を重ねていくという。

 年間収益130億ドル、500万人の有料ビジネスユーザーという巨大な事業基盤を持つOpenAIにとって、最新AIモデルをリリースする際の大きなトラブルは「技術的な問題」というよりも、むしろ「経営危機」の端緒となりうる。

 GPT-5の質が高いことは明白だが、結果としての体験レベルが落ちてしまっては企業価値も下がってしまう。緊急対応もやむなし、といったところだろう。

 なお、API経由で利用する場合のGPT-5には、AIモデルの自動選択機能はない。思考の深さは、利用者自身が選択する必要がある(その結果、消費トークンは変化するのだが)。

圧倒的に高い潜在力を備えるGPT-5

 今回の一連の騒動(と言っていいだろう)は、AI開発における「根本的なパラダイムシフト」への試行過程で起きた一時的な混乱といえる。

 事実、GPT-5の潜在力が高いことは、より深い思考をさせたときの高い品質の解答に現れている。単なる性能強化ではなく、AIと人間の関係性そのものを再構築しようとする試みともいえる。

 従来の「ユーザーがモデルを選んで指示を与える」関係から、「AIが自律的に判断し、最適な対応を提示する」関係への移行は、次世代のAI体験の方向性を明確に指し示している。

 かし、この新しい試みはまだ成熟していない。継続的改善モデルの導入で、ユーザーフィードバックや選好率、精度指標に基づくリアルタイムの最適化を実施し、「常に昨日より賢いAI」を提供することで、短期的にはモデル自動選択機能の最適化や、学習のファインチューニングが続くだろう。利用制限の緩和や(モデル選択の)透明性向上も近いうちに結果となって見えてくるはずだ。

 中期的には、複数モデル構成から単一統合モデルへの移行も視野に入る。OpenAIの最終的な理想は、複雑なモデル選択を不要にし、常に最適な知能を提供する“魔法の統合知能”だ。現在は自動モデル選択という形で擬似実装しているが、単一モデルでそれを実現できる日も来るだろう。

 GPT-5は確かに新時代の扉を開いた……のだが、その先に広がっていたのは未完成で混沌とした世界だったかもしれない。しかし核となる技術の基盤は確実に上がった。

まだGPT-5の幕は開いたばかりだ。GPT-4も開発が進むごとに洗練度を増したように、だんだんとその潜在力が発揮されるようになるに違いない。

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