「13インチiPad Pro」(M5モデル)を使って分かった、タブレット×オンデバイスAIのもたらす“新しい生産性”:本田雅一のクロスオーバーデジタル(1/2 ページ)
Appleの「iPad Pro(M5)」がまもなく発売される。筆者は発売に先駆けて試してみたが、先代のM4チップモデルを上回る可能性を見いだした。その一部を紹介したい。
約5.1mmの薄さに、約444gの軽さ――Apple M5チップ搭載の「iPad Pro 13インチ(M5)」を手に取った瞬間、筆者は「あ、これは知っているデバイスだ」と感じた。外観はもちろん、「Ultra Retina XDRディスプレイ」の輝き、「Apple Pencil Pro」が側面に吸い付く感じ、「Magic Keyboard」との一体感に至るまで、2024年春に英国・ロンドンで取材した際に手にした「iPad Pro 13インチ(M4)」と全く同じなのだ。
しかし、電源を入れて使ってみると、M4モデルとの明らかな違いを感じる。Apple Pencil Proでスケッチを描き、手書き文字を加え、iPadOS 26の「ライブ翻訳機能」で即座に他言語に変換するという一連の作業における、作業のリズムを崩す“待ち時間”が消えた。実際にはゼロにはなっていないだろうが、思考のリズムを妨げない速度で進んでいく。もちろん、熱の問題もない。
「性能向上」と「電力効率向上」を両立する――「M1チップ」からApple Siliconの一貫したコンセプトが、ファンレスであるiPad(タブレット)の中で一番薄型の本機ではより生きている。
フルスペックAI向けSoCをタブレットに
iPad Pro 13インチ(M5)が搭載している「Apple M5チップ」の最大の改良点は、各GPUコアに専用の「ニューラルアクセラレーター」を統合したことだ。M4チップと比較して、GPUを使ったAI処理スループットは4倍以上になったという。
このおかげか、画像生成や音声へのAI処理といった実際のAIワークロードにおいて、従来なら数秒かかっていた処理がほぼ瞬時に完了するようになった。
ここでポイントとなるのが、iPad ProのM5チップが新型の「MacBook Pro」「Apple Vision Pro」など冷却ファンを持つシステムと同じ“フルスペック版”だということだ。
CPUコアは、パフォーマンスコア(Pコア)4基に高効率コア(Eコア)6基の合計10コア構成となっている。同一構成のM4チップと比べると、公称でマルチスレッド性能が最大20%高速になったという。
ユニファイドメモリの帯域幅は最大で毎秒153GBに達し、こちらもM4チップ比で約30%向上している。これはデータスループットがパフォーマンスの向上に欠かせないAIワークロードの急増に対応するための改善だという。最大で約2倍高速になったフラッシュストレージへのアクセス速度も、時代の流れを受けた改善だ。
AIパフォーマンス向上のために設計されたM5チップの実力は、実際の利用シーンでも分かる。iPadOS 26の「Image Playground」でテキストプロンプトから画像を生成する場合、M4モデルでは数秒の待ち時間があったが、M5モデルではほぼ瞬時にプレビューが表示される。待ち時間の消失は、使用時のリズムが悪かったこの機能を再び使いたくなるものにするだろう。
なお、Appleが独自に行ったベンチマークテストでは、「Draw Things: AI」で20億超のパラメータを持つ「Quinnモデル」を使って画像生成をすると、M5モデルはM4モデルの最大2倍、M1モデルの最大4倍の速度で処理できたそうだ。
Apple C1X+Apple N1でワイヤレス接続のパフォーマンスも向上
iPad ProのM5モデルは、Apple独自のワイヤレスチップ「Apple N1」と、独自のセルラーモデム「Apple CX1」(Wi-Fi+Celluarモデルのみ)を搭載している。これらはいずれも「iPhone Air」に採用されたものだ。
Apple N1は、Wi-Fi 7(IEEE 802.11be)、Bluetooth 6.0、そしてIoTデバイス向けのThreadプロトコルでの通信に対応する。N1搭載デバイス同士の通信はより高いパフォーマンスを発揮するというが、他社製チップを採用するモデルとの通信でも速さは向上するという。
試しにiPad Pro 13インチ(M5)からM5搭載14インチMacBook Proに、AirDropで10GB程度のProResファイルを転送してみたところ、確かにプログレスバーがスムーズに進行し、途中で詰まることがない。計測値の揺れがやや大きいため数値は記載しないが、確かに従来よりも高速化されているようだ。
今後のスマートホームを考えると、Thread対応も重要な意味を持つ。Threadは低消費電力で安定した通信を実現する。iPad Proをスマートホームのコントロールハブとして使う際、応答性の向上につながる。
同じ回線を使った場合、Apple C1XモデムはC1X非搭載モデルと比較して実効通信速度(スループット)が最大50%高速になる一方で、消費電力を最大30%抑制できるという。Wi-Fi+Celluarモデルを使う人は、モバイル回線を使った際のバッテリー駆動時間を延ばせるだろう。
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