M5チップがもたらした新型「Apple Vision Pro」のさらなる“現実感” 第一印象は“成熟”:本田雅一のクロスオーバーデジタル(2/3 ページ)
Apple Vision Proが、最新のApple Silicon「M5チップ」を搭載してリニューアルされた。しかし、その変化はSoCだけにとどまらない。
グラフィックス性能の向上が変えた視覚体験
中でも、体験の質という面で最も大きく寄与しているのはGPU性能の向上だ。M5チップのGPUコアは新世代アーキテクチャを採用しており、Vision Proとしては初めてハードウェアベースのレイトレーシング処理とメッシュシェーディングに対応した。
これにより、ゲームや3Dレンダリングでリアルタイムの高度な光の反射/影表現が可能になるが、実はもっと細かな体験の質も向上している。
M5チップのGPUは、メモリ利用効率を高める「ダイナミックキャッシング」の第2世代が盛り込まれているが、これはM2チップにはない要素だ。これにより、両眼4Kパネルの膨大な表示画素の演算に少しだが余裕が生まれた。
その余力を生かしてか、新モデルではヘッドセット内のマイクロOLEDスクリーンの描画ピクセル数が従来モデル比で10%増加している。従来は視野全域をネイティブ解像度で描画せずにスケーリングしていたが、新モデルでは視野のほぼ全域をパネルのネイティブ解像度でレンダリング可能だ。
テキストの鮮明さや映像の細部表現も改善し、特にMacの仮想ディスプレイとして使用する時はその効果を実感しやすい。Vision ProをMacのディスプレイ代わりに使う際にありがちだった、文字のにじみや読みにくさが軽減されることで、長時間の作業における実用性は格段に向上する。
「GPUの性能はもっと高まっているのでは?」と思うかもしれない。実はその通りで、ディスプレイのリフレッシュレートも最大120Hzまで引き上げられたので、より滑らかな視覚体験が得られるようになった。
手のジェスチャー操作や視線入力も、より高精度かつ低遅延で反応するようになっている。手指トラッキングのフレームレートが最大60Hzから最大90Hzに向上したためだ。素早く手を動かすVRゲームなどでも、認識の遅れが少なくなっている。
AI処理性能の向上は、制約の多いVision Proでメリットが大きい
M5チップの最も革新的な特徴は、GPUの各コアにニューラルアクセラレーターを統合したことだ。これにより、AI推論処理の性能が従来比で大幅に向上している。同時にメモリ帯域幅も、毎秒100GBから毎秒153GBへと拡大され、AI処理に必要な大量のデータを高速に処理できるようになった。
この設計変更の意味は、単なる性能向上の数字以上のものがある。GPUコア内でAI処理が完結することで、データの移動に伴う遅延が劇的に減少し、より複雑なAIモデルをリアルタイムで動作させることが可能になった。
実際、新型のVision Proでは、ユーザーのPersona(デジタルアバター)のキャプチャー処理や、写真からの空間シーン生成といったAI機能が最大50%高速化されている。中でも実用的と感じたのが、リアルタイム翻訳機能の実現だ。
visionOS 26では、FaceTime通話中に相手の発話を即座に字幕表示する機能が追加された。日本語話者と英語話者がVision Pro越しに会話する場合、お互いの発言が即座に翻訳字幕として表示される。重要なのは、この処理が全てデバイス内で完結することだ。クラウドに音声データを送信することなく、プライバシーを保護しながら、低遅延で翻訳を実現している。
しかし従来モデルでは、新モデルと比べて文字起こしの質がそもそも低く、“隔世の感”もある。AI処理能力という新たな価値軸で進化させたM5チップと比べるのは酷というものだが、象徴的な現象だろう。
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