M5チップがもたらした新型「Apple Vision Pro」のさらなる“現実感” 第一印象は“成熟”:本田雅一のクロスオーバーデジタル(3/3 ページ)
Apple Vision Proが、最新のApple Silicon「M5チップ」を搭載してリニューアルされた。しかし、その変化はSoCだけにとどまらない。
想像以上の改善 新「デュアルニットバンド」
ところでハードウェアで唯一の大きな変更が、新たに採用されたデュアルニットバンドだ。頭の上部と後頭部の2本のストラップが一体化したこのバンドは、独自の二重リブ構造によりクッション性/通気性/伸縮性を兼ね備えてしている。工夫されたダイヤル機構によって、それぞれのバンドの長さは個別に調整できる。
後頭部を包む下側のバンド内部には、タングステン製の可動ウェイトが編み込まれており、ヘッドセット本体の重量を後方へ分散する「カウンターウェイト」の役割を果たしている。上下それぞれのストラップの締め具合を細かく調節できるため、長時間の使用でもズレにくく、頭部への圧迫を軽減する効果が期待される。
筆者はこれまでサードパーティーの類似バンドを使っていたが、これで純正バンドでも快適に使えるようになった……のだが、注意すべき点がある。それは本体の重量だ。
新モデルの重量は、装着するライトシールやバンドのサイズによって約748〜800gとなっており、初代の約601〜649gと比較して約150g増加している。重量増の主な原因は、デュアルニットバンドの“デュアル”な構造と、カウンターウェイトによる部分が大きい。
総重量は増えているため、Vision Proの弱点とされる「重さ」の問題が劇的に改善したわけではない。しかし、バンド設計の工夫によりバランスは良くなったので、体感的な負担は軽くなっている。実際の首への負担は少し増えるだろうが、頬骨への圧迫は気にならなくなるはずだ。
なお、このデュアルニットバンドはオプションでも用意されており、従来モデルにも装着可能だ。従来モデルのユーザーは、このバンドの購入(直販価格で1万6800円)を是非とも検討したい。
「実用性」への転換点としての新モデル
Vision Proは発売当初、その革新性と同時に「誰がこれを日常的に使うのか?」という疑問が常に示されていた。59万9800円という価格の高さはもちろん、重量、バッテリー駆動時間、そして限定的なアプリエコシステムが、実用性への障壁となっていた。これらの指摘は、今後も続くだろう。
しかしM5チップの新モデルは、これらの課題に対する“回答”ともいえる。いずれの改善も地味なものだが、その積み重ねがこのジャンルの製品の完成度を高めていく。
Vision Proは、新モデルで「技術デモンストレーション」から「実用的な生産性ツール」への転換を迎え始めている。恐らく次の世代では、本格的に実用性を高めて、普及を狙いにくるのではないだろうか。
重量は依然として重く、長時間の装着には負担感もある。価格も一般消費者向けとは言いがたい。アプリのエコシステムも発展途上だ。しかし、M5チップの搭載により、Vision Proがようやく“使える”デバイスになった。それは、これからの空間コンピューティング市場の拡大において、極めて重要なマイルストーンだ。
今後、より多くの企業がVision Proを業務用途に採用し、より多くの開発者が魅力的なアプリケーションを提供するようになるだろう。そして、数年後には一般消費者向けの廉価版が登場し、空間コンピューティングが本格的に普及する可能性もある。M5チップ搭載のVision Proは、そうした未来への道筋を、より確かなものとしてくれるだろう。
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