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インタビュー

「秘伝のたれ」を捨て、ルンバは生まれ変わる――iRobotチャプター11申請も「ワクワクしかない」とアイロボットジャパン新社長が語る理由IT産業のトレンドリーダーに聞く!(2/3 ページ)

コロナ禍以降、さまざまに移ろう世界情勢の中で、IT企業はどのようなかじ取りをしていくのだろうか。大河原克行さんによるインタビュー連載の第20回は、米本社が連邦倒産法11条(チャプター11)を出したばかりのアイロボットジャパン 代表執行役員社長の山田毅さんだ。

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買収元の創業者が“電撃訪日” 日本市場への本気度を示す

―― 個人的には、ルンバが取得した部屋の間取りなどのデータが中国企業傘下となることで、今後どう扱われるのかが気になります。

山田 その点で強調したいのは、ルンバのデータは、AWSの中に残り続けるという点です。iRobotの本社は米国内に残りますので、米国国内でデータを保存し、それが他国に持ち出されることはないといえます。

―― 日本におけるアイロボットのビジネスには、何か変更がありますか。

山田 日本法人には、大きな影響はありません。また、体制についても何も変わりません。パートナーとの関係も変わりませんし、お客さまに対する販売/サポート/リペアの体制にも変更がなく、そして、アプリケーションも継続的に提供することになります。

 米本社では、連邦倒産法11条(チャプター11)の手続きが2026年2月までに完了した後、それに基づきPICEAによる買収と再建計画がスタートすることになりますので、再建計画の詳細はまだ分かりません。しかし、PICEAは基本的にはiRobotの雇用を守りたいという意思を示していますし、むしろ米国では雇用を拡大したいと述べています。

 PICEAがiRobotを買収する狙いの1つに、強いブランドを持ちたいということがあげられますから、欧米/日本/アジアといった主要地域では、アイロボットの事業をそのまま継続することになると考えられます。私は、日本でのビジネスは加速することになると見ています。

アイロボット ジャパン iRobot 連邦倒産法11条 チャプター11 ロボット掃除機
iRobotを買収したPICEA GroupのWebサイト

―― ここ数年、アイロボットのブランドが毀損(きそん)していることを感じます。今回の件によって、日本においても、ルンバを購入しても大丈夫なのかと、心配する声が高まるのではないでしょうか。

山田 実際、報道を見た方々から「アイロボットは大丈夫なのか」といったご心配の声をいただいています。一方で、「頑張ってほしい」という声も多くあります。ただ、公式オンラインストアでの販売状況を見てみますと、現時点では売れ行きには思ったほど影響は出ていません。私たちにできることは、アイロボットがしっかりとビジネスを立て直し、お客さまの生活に貢献し、再びブランド価値を高めていくことしかないと思っています。

―― 社内に対しては、どんなメッセージを出したのですか。

山田 米本社で発表があったのは日本時間の12月15日早朝です。その日の午前中は、ちょうど、アイロボットジャパンの全社員がオンラインで参加するオールハンズを開催する日でしたので、そこで社員に向けてメッセージを出しました。

 私が話したのは、この時点で最先端のビジネスモデルを構築できることは、むしろラッキーだという内容です。私は、この新たな仕組みはいいことしかないと思っています。また、12月18日には、PICEAの創業者が日本にやってきて、アイロボットジャパンの社員と直接会い、話をしてくれました。このときは、アイロボットの米国本社からもプレジデントが駆けつけました。

―― このエピソードを聞いても、PICEAの動きが速いことを感じます。しかも、発表から3日後に日本を訪れたことには驚きです。

山田 新たな体制になっても、日本市場を重視していく姿勢を明確にしたといっていいでしょう。PICEAがどんな会社なのか、今後の方針はどうなるのかといったことを、アイロボットジャパンの社員に対して丁寧に説明してくれました。

 PICEAの創業者から言われたのは、「PICEAの特徴はモノ作りと研究開発であり、アイロボットの特徴は営業力とマーケティング力である。PICEAから営業やマーケティングに対して口を出すことはしない。逆に市場ニーズを元に、私たちに『こうしたものを作ってほしい』と提案してほしい」ということでした。

 日本のユーザーが、どんなロボット掃除機を求めているのかということに強い関心を持っており、それを実現するための方法についても議論することができました。PICEAとアイロボットが一緒になって、日本のロボット掃除機市場を創出していくという姿勢が明確に示されたといえます。

 アイロボットと製造する企業との距離が、これまでにはないほどグッと縮まりますし、PICEAがアイロボットに開示していなかった技術なども、今後は開示される可能性があります。2社が1つになって、深いレベルで戦略を練ることができますから、これまで以上に製品のラインアップを強化したり、ポートフォリオを広げたりといったことが可能になるでしょう。

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 ルンバは創業以来、創業者のコリン・アングルさんのアイデアを元に機能を付け足し、製品を進化させてきました。まさに継ぎ足して完成させる「秘伝のたれ」のようなものですね。しかし、2025年春にラインアップを刷新した際に、この「秘伝のたれ」を捨て、新たな「たれ」を作り始めたわけです。

 新たな設計を元にして最新の工場で生産を開始し、新たなモノ作りのスキームへと移行したことで、製品化までのスピードが圧倒的に速くなり、設計にも自由度が出ています。こうしたベースが生まれましたから、2026年に投入する新製品の中には、私自身が日本ではこういった製品が欲しいというリクエストを出し、それを反映した製品が登場することになります。

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