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まるで“狂気の沙汰”──ジョブズ時代のAppleを感じさせる「iPhone Duo」のヒンジと製造工程本田雅一のクロスオーバーデジタル(3/5 ページ)

Apple初の折りたたみスマホ「iPhone Duo」。1台ごとにヒンジの個体差を測り、樹脂を印刷して折り目を消す“狂気”の量産工程に迫る。ハードとソフトが融合した唯一無二の端末は、今後のAppleの試金石となるか。

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曲げるべきフィルムの束を”接着”

 ここからが、筆者がiPhone Duoの折り目を巡る話でいちばん重要だと思っている点である。折りたたみディスプレイの積層は、曲げるたびに層同士がずれる。多くの折りたたみ可能なディスプレイでは、最上層の保護フィルムを貼り替え前提の弱い接着にとどめ、中間層は接着せず、レイヤーを強く結合しない作りを採用していた。

 各レイヤーが自由に動けば、強い曲げにも耐えられるが、そのぶん折り目の周辺に空気が入ったり、浮きが出たり、使ううちに剥離が進むことがある。折りたたみスマートフォンの歴史は、この問題を解決する歴史でもあった。

 折り目が「時間とともに目立ってくる」のは、多くの場合、段差そのものより、そこで起きるこうした劣化が原因である。

 一方、iPhone Duoではこうしたディスプレイを構成するレイヤーを接着している。その上で、接着剤に粘弾性を持たせ、曲げのときの”逃げ”を接着剤そのものに担わせている。折り曲げるとレイヤー同士は「本のページを開いた時のように」相対的に滑り、開けば元の位置に戻る。粘弾性とは、ゆっくり動かせば流れ、止まれば固体のように位置を保つ性質のことだ。

 レイヤー同士は接着しているから空気も浮きも入らず、折り目の部分の光学特性が使ううちに変化して表示が乱れにくい。Appleが「時間が経過してもパネルはゆがまない」と言い切った根拠は、ここにある。

 その上に、Nano-texture(ナノテクスチャ)の仕上げを行っている。iPadやMacのナノテクスチャはガラスの表面を加工して反射を散らすが、iPhone Duoのナノテクスチャ加工は、ガラスではなくポリマー素材のカバー層に対して行われ、しかも曲げに対して耐性を備える。

 Appleは「マスクレスレーザーリソグラフィで、マイクロレンズを1つずつ画素単位で書き込む」と説明した。その狙いは「人間の目は、光の反射によって平らかどうかを認識する。ナノテクスチャがあることで反射光が分散し、目は平らなものとして解釈する」というものだ。

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人によっては鳥肌が立つイメージかもしれない

 つまりわずかに残るうねりがあったとしても、反射を抑えることで目立ちにくくしているということだ。

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iPhone DuoのインナーディスプレイはNano-textureガラス仕上げになっている

 だから、開いたiPhone Duoを普通に眺めると、そこにヒンジがあることを忘れる。光にかざして角度を変えれば、段差の存在を識別することは可能だ。完璧はない。

 ただ、光にかざして「折り目がある」「ない」を論じるのは、この製品に対しては的を外している。1台ごとに平滑性を確認して加工し、ディスプレイを構成するレイヤーを接着して劣化を防ぎ、残った段差を感じさせない。問われるべきは、今見えるかどうかより、1年後、2年後に同じ状態かどうかだろう。

 同じようなことを思い付く技術者は世界中にいるだろう。試作機で1台だけ作ることも可能に違いない。しかし、それをiPhoneのように世界中で流通させる製品の量産ラインでやる、という判断に、”あの時”と同じ狂気を感じざるを得ない。

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