「面倒だから規制」という風潮をどう覆すか――KDDIが考える「子供とケータイ」の関係性:ワイヤレスジャパン2009 キーパーソンインタビュー(1/2 ページ)
「子供が小さなうちからしっかりと学び、リテラシーを身につける必要がある」――。子どものケータイ利用についてこう話すのは、KDDIで子どもの安全な携帯電話利用に関する取り組みを推進しているCSR・環境推進室 室長の田中和則氏だ。「子どもとケータイ」の関係性はどうあるべきなのか、そのためにどんな取り組みを行っているのかを同氏に聞いた。
「子どもが小さなうちからしっかりと学び、リテラシーを身につける必要がある」――。子どものケータイ利用についてこう話すのは、KDDIで子どもの安全な携帯電話利用に関する取り組みを推進している総務・人事本部 総務部 CSR・環境推進室 室長の田中和則氏だ。“危ないから使わせない”というアプローチではなく、“何が問題なのか”“どう使うべきなのか”を学び、話し合う中から、子どもとケータイの関係性はあるべき姿に向かっていくのではないかと話す。
子どもの安全なケータイ利用をサポートするために、KDDIはどのような取り組みを行っているのか、今後、子どもとケータイの関係性はどう変わっていくのかを、田中氏に聞いた。
KDDIは“使いながら学ぶ”アプローチで
ITmedia(聞き手:神尾寿) ここ最近、業界全体で取り組まなければいけないテーマとして「子どもとケータイの関係」というものがあります。私は子どもにとって携帯電話はとても有益なツールだと考えていますけれども、一方で、一部の学校関係者や行政からは疑問が出ている。この問題に対して、KDDIでは全体論としてどうお考えになっているのでしょうか。
田中和則氏(以下、敬称略) まず、当社を取りまく環境については、一言でいえば風あたりが強いと感じています。一番分かりやすいのは、石川県の携帯電話の所持規制条例ですが、社長の小野寺は(子供に)使わせた方がよいと考えており、我々もそのように感じています。
なぜそのように考えているかと申しますと、携帯電話は、いずれ大人になれば使うものです。それならば早いうちから使い方を子供たちに学んでいただくことの方がより重要なのではないかということです。
例えば、自転車ではいろいろなサイズの自転車があり、最初は補助輪を付けて親が公園に連れて行って、仮に転んでも大丈夫な環境で学ばせます。まさにその形を携帯電話に置きかえれば、ご理解いただきやすいでしょう。
サービス面ではフィルタリングや子供向けの携帯電話を店頭でおすすめしたりケータイ教室を開くなどして、モラルやリテラシーの向上を図っているところです。(携帯電話は)事故というものが分かりにくい。ですから(携帯電話の)教育意識の高まりが遅れてしまっていて、今の親が携帯電話を子供に持たせている状況は、自転車でいうなら自動車の往来の激しいところにポンと放り出すようなことと同じになっている。ですから2009年からは、ケータイ教室の中で保護者や教職員向けの講座も設け、携帯電話やネット社会の危ない部分とあわせて家庭内でのルール作りが必要であるということを訴えているところです。
ITmedia ケータイ教室や教職員向けの講座というのは、KDDIとして年間どのくらいの頻度で行う予定なのでしょうか。
田中 2006年度から2008年度までは合計で1000回程度だったのですが、2009年度は1年間で1000回実施したいと思っています。
ITmedia それは全国規模で行うのでしょうか。
田中 そうです。当社は原則的に社員が行うというスタンスを取っています。全国の800人の社員が社員講師として登録しており、中央の本社で管理しています。業務上の都合もあり、スケジュールを調整しながら行けるところに行って、小学校や中学校などのニーズに応じたものをご案内しているところです。
ITmedia 石川県では自治体や一部の教職員が(携帯電話に対して)アレルギー反応を起こしたわけですが、我々としてもこの業界内で反省しなければいけない部分があるのではないかと思っています。何がいけなかったのか、なぜ、これほどアレルギー反応が出てしまったのか、このあたりの理由についてはどうお考えでしょうか。
田中 インターネットを通じて犯罪に巻き込まれる事例が多々あったというのが一番の問題だと思います。我々としてもそこは反省すべきですし、監視も厳しくしていかなければいけない。しかし、いかんせんイタチごっこのようなところもあるので、サービスやモラル面でのアプローチをどれだけ強化できるかということだと思います。
ハードとソフトといった言い方で正しいのかは分かりませんが、フィルタリングサービスをハードと捉えるなら、ケータイ教室のようなモラル教育はソフト面でのアプローチです。こうしたハードとソフトの両面で、子どもにとって安全な環境作りを積極的に進める必要があります。
ITmedia 石川県の例を見ていて感じたのは、子供たち以上に教育が必要なのは親と学校の先生ではないかということです。彼らの全員とは言いませんが、その議論の内容を見るかぎり、インターネットや携帯電話の利用環境に対する理解度が高かったとはとうてい思えません。一部の親や教職員のリテラシーが低いから、「面倒だから規制してしまえ」という乱暴な議論になっている現状は否めない。
田中 その点はごもっともだと思います。ケータイ教室を“年間で1000回やりましょう”という中で、100回くらいは保護者の方々から(依頼が)来るのではないかと思っていたのですが、すでに6月の時点で100回の申し込みが入ってきており、保護者や教職員の方々の関心が高まってきていると感じています。
先日、TCAからも家族の中でのルール作りを進めましょうという発表がありましたが、まず保護者や教職員の方々のご理解をいただいて(携帯電話を)正しく使うことを子供に学ばせるというスタイルになっていくことが望ましいと思います。
今は過渡期なのかもしれませんが、将来を見据えた場合、子供が小さなうちから“携帯電話やインターネットとはこういうものなんだ”ということをしっかりと学び、リテラシーを身につける必要があります。
ITmedia 学校や教職員の理解が得られているという、手応えのようなものはあるのでしょうか。
田中 それはあります。今回ワイヤレスジャパンのセミナーでも、訪問先の先生からいただいたコメントなどをDVDで流そうと思っています。
先生方にお伺いすると、“早いうちから学ばせないとかえって危ないことになる”という意見もあります。“持たせないというのが根本の解決ではない”という声もいただいています。
ITmedia あとは警察関係者の理解を得る、ということもキャリアにとって重要でしょう。子どもが携帯電話を持つことが、犯罪に巻き込まれる可能性を高めているわけではない。それなのに今の統計データの発表のしかたですと、あたかも“携帯電話があったから、未成年者が事件に巻き込まれた”ように見えてしまう。
田中 そうかもしれませんね。そういった(携帯電話を使った)危険があるというお話が出ている一方で、現実には(子供を)自宅から遠い塾や私立の学校へ通わせている保護者の方々は、安心のために(携帯電話を)持たせたいんですよ。やはり離れたところで連絡が取れるというのは非常に安心です。
ITmedia 子どものケータイ利用に関しては、社会的なコンセンサスをもう一度作らないといけない。このあたりについてはどういった取り組みを行っているのでしょうか。
田中 その取り組みの1つが、今回のワイヤレスジャパンのブースに、敢えてCSRのコーナーを設け、さらにセミナーでもケータイ教室を取り上げたといったところです。
我々の取り組みというのは、多くの方々にご理解いただけているものでもないので、まず、こうしたケータイ教室という取り組みをご理解いただき、かつ保護者の方々もリテラシー向上に向けた勉強が必要――ということをご理解いただきたいですね。
ワイヤレスジャパンに来ていただいた方々には奇異に映るかもしれません。「なんだこれ?ケータイ教室?無線技術を見せるイベントじゃないの?」と。我々としては単に商品を売るのではなく、その商品に危険が潜んでいるのであれば、その危険な部分を正しく吸い上げてフォローしていくのが、当社の使命ではないかと考えています。
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