2020年に電力自給率64%へ、「脱原発都市」を宣言した南相馬市:スマートシティ(2/2 ページ)
福島第一原子力発電所の事故によって今なお1万人以上の市民が避難生活を余儀なくされている福島県の南相馬市が、全国で初めて「脱原発都市」を世界に向けて宣言した。原子力に依存しない街づくりを進めるために、再生可能エネルギーの導入と省エネルギーの推進に全力で取り組んでいく。
野菜を再生可能エネルギーで育てる
太陽光発電のプロジェクトでは、南相馬市と東芝が2012年から検討を進めている100MW(メガワット)級のメガソーラーを建設する計画がある。沿岸部の複数の地区に大規模なメガソーラーを分散して展開する構想で、実現すれば年間の発電量は1億kWhを超える。この発電量だけで2020年の太陽光発電の目標値の6割以上になる。
当初の計画では2012年度中に着工して、2014年度までに運転を開始する予定だったが、今のところ具体的な建設計画は明らかになっていない。市の復興整備計画では農地を太陽光発電に転用する手続きが進み始めている。2020年の目標達成に向けて早期の着工が望まれるところだ。
この大規模なプロジェクトに先行して、同じ東芝が出資して運転を開始した太陽光発電所がある。新しいスタイルの農業を目指す「南相馬ソーラー・アグリパーク」だ。広さが2万4000平方メートルある市有地に、発電能力0.5MWの太陽光発電所を建設して2013年3月に稼働した(図6)。
同じ敷地内にはドーム型の植物工場が2棟あって、太陽光発電所の電力を使いながら野菜を栽培している。南相馬市の農業は原子力発電所の事故に伴う風評被害の影響を大きく受けた。原子力に依存しない自然のエネルギーを使って、安心して食べられる野菜づくりを実践することで、震災からの復興に向けた農業再生のシンボルに位置づける。
南相馬市は再生可能エネルギーの拡大を通じて循環型の「環境未来都市」を実現していく方針だ。太陽光と風力を中心に再生可能エネルギーを地産地消する環境を整備するのと並行して、30世帯程度の集落を1つの単位にしてスマートコミュニティを形成する(図7)。
産業面では植物工場を活用して、農産物の生産・加工・販売からエネルギーの供給までを一貫して実施できる循環型の地域産業を創造する計画だ。放射能汚染の被害を克服して、次世代につながる街づくりに取り組むことが、大震災からの復興になる。その思いが「脱原発都市宣言」の文章で表されている。
この宣言を電力会社や政府はどう受け止めるのか。震災から丸4年が経過して、原子力発電所を再稼働させる動きが着々と進んでいる。南相馬市をはじめ放射能汚染の克服に懸命に取り組む地域の状況に改めて目を向けたうえで、再稼働の是非を考える必要がある。
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