誰でも“しなやかな運転”になるクルマ――「これ、何か違う」から生まれたi-DM:マツダアクセラ開発者に聞く(4/4 ページ)
マツダは近年の自動車業界における「エコ一辺倒」の風潮とは一線を画しているように見える。そして同社のクルマ作りに対するビジョンとは何か。
ストレスフリーな運転が本当の意味での経済性や安全性につながる
──i-DMを通してマツダが提唱する「しなやかな走り」は、いわゆるエコドライブとはまったく異なるものですね。アクセルを踏むべきところでは、しっかり踏まないとブルーのランプは点きません
猿渡さん クルマは本来、移動手段を提供するものです。そして移動手段を構成する要素は、「距離」「時間」「運ぶもの」です。エコドライブは、「時間」の要素を無視しています。
これはクルマ本来の在り方としては、かなり不自然だと感じます。移動時間を短縮するために、ドライバーのニーズに応じたスピードで移動することが、クルマ本来の目的です。それを最高の効率で行うにはどのような運転が適切なのか、ということを教えてあげるのが本来の運転アドバイスだと私は考えています。
それに、たとえエコドライブを徹底してクルマ1台のレベルで省エネが達成されたとしても、アクセルを踏まなかった結果として渋滞を引き起こしてしまっては、交通社会全体から見た場合の経済性や安全性には、むしろマイナスの効果をもたらすでしょう。
エコ運転のスペシャリストの方々は、「このとおりに運転すれば最高の燃費が達成できる!」とおっしゃられますが、自動運転ならいざ知らず、クルマは人が運転するものですから、机上の計算どおりにはいきません。結局は、どのドライバーもストレスなく気持ち良く走れることが、本当の意味での経済性につながるはずです。
──なるほど。効率だけを追い求めていても、豊かなクルマ社会は決して実現できないということですね
猿渡さん 今回、アクセラを開発するに当たって、最初に開発陣のメンバーと話したのが、「クルマの価値って一体何だろう?」ということでした。
クルマの本来の目的は移動手段です。移動した先で、家族や友人と楽しい思い出を作ったり、個人的な見識を深めたり……、人生を楽しむためにクルマで出掛けるわけですよね。それが、移動手段がストレスのモトになってしまって疲れるようなものだったら、楽しむどころではありません。それこそ、クルマ以外の移動手段を使った方がマシだし、わざわざ高いお金を出してマイカーを持つ意味がありません。
やはりクルマの価値とは、早く快適に移動できて、乗ってる人みんなが楽しめて、その結果として「また出掛けようね!」「また乗りたいね!」「今度はもっと遠くまで出掛けてみようよ!」という気持ちにさせてくれるところにあると思います。じゃあ、そのような価値を実現するためには、クルマのハードウエアや性能、サポート技術には何が必要なのか。われわれはそれを今、一生懸命考えているのです。
こうした本来の価値を無視して、効率とパッケージで語られるようになると寂しいですよね。結果、数値だけで判断され、バーゲンセールのように買い叩かれて、クルマ業界全体が自滅の道をたどりかねません。クルマの未来の在り方としては、これはちょっと違うのではないかと私は思うのです。
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