眼の専門家に聞く、LEDディスプレイから出る「ブルーライト」は何が悪い?(2/4 ページ)
5月26日、眼科医や医療分野の専門家らで設立された「ブルーライト研究会」の第1回発表が行われた。いくつかの講演を紹介したい。
ブルーライトカットめがねは眼精疲労を軽減するのか?
シンポジウムの講演の先陣を切ったのは、南青山アイクリニックの井手武副院長の「ブルーライトと眼精疲労について」だ。
井手 ブルーライトと眼精疲労ということでお話をさせていただきます。研究会の第1回ということで、まずは基礎知識のまとめとして、患者さんやスタッフに「ブルーライトとはこういうものだ」と説明できるようになっていただければ、発表の意義はあるかなと思います。
みなさんもPCがなければ仕事ができないと思いますし、携帯端末やテレビも液晶になっているということで、VDT作業時間(PCなどを使った作業の総称)が非常に増えている。幼い子どもからご高齢のかたまで、たくさんの人がVDT作業しているという現実があります。
これまでの紙情報ベース、アナログからデジタルに情報が変わると、どういうことが違うのか。ここにあるのは「コントラスト」という文字をインクジェットプリンターで印刷したものと、画面上に表示したものをマクロで写真に撮ったものです。
インクジェットプリンターなので少しにじんでいますけども、斜めの線、例えば「コントラスト」の「ン」とか「ラ」の斜めの線というのは、スッとしていますよね。
でもPC画面上では、ドットがギザギザと見えてしまう。ここでは、VDT情報というのは印刷のものよりも、にじみがあるということを頭にとどめておいてください。
モニターによって同じ色でも青色成分が異なる
井手 モニターは、昔と比べて彩度もよくなって、明るさもすごく良くなって見やすくなったといわれています。何が違うのか。
これは発する光のスペクトルを示したものです。以前のブラウン管モニターですと、右側の赤い波長のもの(が多い)。LEDの液晶モニターですと、左側の青い波長のほうに高い分布が出ています。モニターの変化によって、同じように見える色でも、青色成分が増加しているということが見て取れると思います。
じゃあ、青い光とは何だろうか。みなさん、理科の時間に習ったと思いますが、人間の目に見えない、波長の長い赤外線波長、より波長の短い紫外線領域。そしてその間に挟まれた人間の目に見える可視領域。その可視領域の間で波長の短い部分を青い光、ブルーライトと呼んでいます。
波長の長い赤い光というのは、大気中の水分だとかチリだとかの間を通りぬけますが、青い光というのはそこにぶつかって散乱してしまいます。これをレイリー散乱といいます。
これをみなさんがどういったことで日常的にみているかというと、例えば宇宙船から地球を撮った写真。宇宙のところは真っ黒で光は見えません。でも、地球の表面の輪郭ははっきりしない。これは大気中の水分やチリに、おもに青い光が散乱してぼやけているという状態です。ですから、こういった青色成分が多いと網膜像のぼやけを引き起こすかもしれないということが考えられます。
簡単な実験として、青いレーザーポインターと赤いレーザーポインターを使って、スキムミルク(粉ミルク)の溶液中に光を通してみました。波長の長い赤い光は、しっかりまっすぐの線が見えます。でも、青いレーザーポインターは途中で減衰してしまって、奥まで光を通さない。このことからも青い光は散乱するということがお分かりになると思います。
網膜像のぼやけということでもう1つ。可視色光というのは短波長から長波長までの幅広い光が一般的に含まれていますから、同じ光学系を通っても、これによって収差ができてしまう。例えば、プリズムを通した光が虹のようになるというのは、みなさんご存じだと思いますけ。
デジタルカメラなどで高倍率の写真を撮りますと、ちょっとぼやけて写ります。色収差で像がぼやけてしまう。でも、一眼レフのレンズだとこういう収差をなくす工夫がされていますのできれいな写真が撮れる。
ブルーライトの影響を「理論的に」まとめると?
井手 光のエネルギーというのは、波長に反比例します。紫外線を思い出してもらうと、日焼けしますよね。青い光というのは波長が短いので、エネルギーが高いという知識も覚えておいてください。
視力がない状態、ERG(網膜電図)がフラットのような症例でも対光反応が起こるということは知られていました。遺伝的に錐体、桿体が欠損したマウスでも対光反応が起こるということから、いろいろ研究が続けられまして、視細胞から視覚情報なくして脱分極するような網膜神経節細胞(mRGC)というのが発見されました。
この細胞というのは特に青色の波長、470ナノメートル付近の短波長の光に反応しまして、いわゆる体内時計、サーカディアンリズムに影響するメラトニンの産生を抑制する、というものが見つかっております。
ちょっと話が飛んだので、まとめます。これは「理論的に」というのを覚えておいてください、まだはっきりとはすべて分かっているわけではないので。
青い光、波長の短い光というのは、波長の長い光よりも散乱しやすいので疲労を起こすのではないか。にじみ信号、もしくは収差によって調節反応を誘発することで疲労を引き起こすのではないか。そして長期間、もしくはエネルギーが高いと黄班変質などの眼疾患に至るかもしれない。
mRGC細胞関連でいいますと、瞳孔反応を誘発するということで疲れてしまうのかもしれない、長時間あるいは夜間の青色光曝露によって体内時計がくるってしまうかもしれないということが考えられます。
モニター別による青色光の強度
井手 モニターと青色光ということで、実際にDellのノートPC、Macbook pro、iPhone、iPad、ブラウン管、グレアの液晶、アンチグレアの液晶で、ある時間を計って、積分した量を示しました。
左側の400と500ナノメートルの間にはさまれてピークがありますが、ブラウン管は非常にピークが低いですよね。でも、ほかのものは非常にピークが高くて、青色光が非常にたくさん出ているというのがお分かりになると思います。
同じような実験をグレア液晶、アンチグレア液晶、そしてブラウン管で、単色を全面に表示しまして、ある時間測定して積分した量をグラフにしてみました。そのときに、ブルーライトカットのめがねを着けたときと、着けないときでどれくらいの差があるのかというのを示してみます。
ブルーライトカットめがねなしの場合では、例えばアクアとかネイビーといった青っぽい光は、グラフで赤線が引かれている「0.0001」というところを超えていますよね。グレアにしても、アンチグレアにしても。でも、ブラウン管はそれらより低い。
ブルーライトカットめがねありの場合だと、「0.0001」を下回る。これは当然の結果だと思いますけども、ただやっぱりブラウン管モニターに比べるとグレア液晶にしろアンチグレアにしろピークは高いというのがみてとれると思います。
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