第59鉄 「C61 20」復活、碓氷峠鉄道文化むら――青春18きっぷで行く機関車王国ぐんま:杉山淳一の +R Style(2/5 ページ)
D51、C61と蒸気機関車が高崎〜水上間を走り、信越本線横川〜軽井沢間跡地には、本物のEF63形を運転することもできる「碓氷峠鉄道文化むら」がある。そんな機関車王国、群馬県へ日帰り旅。シメはもちろん、峠の釜めしだ。
高崎駅に早く到着したい理由はもう1つ。発車の40分ほど前に、構内に蒸気機関車が姿を見せるからだ。「SLみなかみ」が発車するホームは2番線。その2番線ホームの線路の向こう側のこの付近にSLが停車してくれる。まるで撮影タイムを作ってくれたような演出だ。この時の撮影位置を確保するためにも、早く到着した方がいい。上野駅07時23分なら高崎駅に09時07分着。新宿駅06時59分発の湘南新宿ラインなら高崎駅に08時51分着となる。
機関車がいったん水上方向に引き上げると、2番ホームに客車がゆっくりと入線する。青い車体に白い帯の12系客車が、ディーゼル機関車に後押しされてきた。茶色い旧型客車のほうが蒸気機関車に似合うと思うけれど、暑い夏なら12系のほうが冷房付きでありがたい。それに、いまや12系も貴重な客車。大阪万博の臨時列車用をきっかけとして、各地の団体列車や急行列車に向けて作られた。その後、イベント用客車に改造されたほかは廃車が進み、当初の塗装の車両は少ないのだ。
乗ったら見えないSLは「音と匂いを楽しむ」
私の指定席は6号車17番のD。水上行きの客車の先頭で、機関車の直後だった。窓際だが、進行方向とは逆向き。20日前に思い立って予約したらここになった。
向かいのA席は空席で、通路を挟んだ隣には母親と男の子2人、女の子1人の家族がいる。窓際が取れず、後ろ向きに座った子が不満そうだ。「ここ(A席)はいないのかしら」という母親に「来ないかもしれませんね」と席を勧めた。普通列車の指定席は510円。当日、都合が悪くなっても払い戻す人は少ない。手数料320円を差し引くと、戻ってくる金額は190円だけだから、窓口から遠い人はキャンセルしてくれないのだ。A席が空席のままの可能性は高い。
それがきっかけで親子と話をする。きっぷを買ったタイミングは私より後で、窓口の人に「後ろの1号車から埋まっていく」と言われたそうだ。それはなぜかと聞かれたから、「SL列車は乗ったら機関車が見えなくなってしまう。でも、後ろの方の客車なら、カーブ区間で窓から機関車が見えるかもしれない。そんな期待で後部車両を選ぶのではないか」と言ってみた。
「しかし、私のオススメは機関車に近い席。つまりココ」と親子に説明する。SL列車に乗ったら、当然機関車の外観は見えない。だから、乗った時の楽しみは「音」と「匂い」だ。響き渡る汽笛、シュッシュッドッドッという駆動音は後ろの車両では聞こえない。煙の匂いも後ろに行くほど薄まってしまう。機関車に近い席なら、窓を開ければ最高の臨場感となる。
ただし、冷房付きの12系客車で窓を大きく開けると、他のお客さんに迷惑かも……と思ったら、この客車は下段の窓が約2センチメートルしか開かないようになっていた。このくらいがちょうどいい。さっそく開けて、向かいに座った子ども達に「聞こえる? 匂う?」と話しかけてみた。姿を見るだけなら写真やビデオでもいい。せっかくホンモノの機関車に乗ったんだもの、音と匂いを体験してもらわなくちゃ。
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