小寺信良
「コピーワンス見直し論」に分け入るインテルの戦略(1/3 ページ)
先々週の話になるが、筆者はインテル主催の「デジタル・コンテンツの著作権保護への取り組みに関する説明会」というのに出席してきた。講師役は同社コンテンツ政策・アーキテクチャー担当ディレクターのジェフリー・ローレンス氏である。
ローレンス氏には、2年ほど前にもDRMの日米差についてお話を伺っている。トレードマークの金髪の三つ編みも、以前よりだいぶ伸びている。ここではローレンス氏に伺ったお話を参考にしながら、放送のコピーワンスの行方をもう一度考えてみたい。
EPNは米国流?
以前のコラムにも書いたとおり、2006年8月に発表された情報通信審議会の第3次中間答申では、デジタル放送のEPN(Encryption Plus Non-assertion)方式への転換の現実性について、各メーカーに検討するよう求めている。期限は同年12月であるが、今のところまだ検討結果の公開には至っていないようだ。
EPNについては、最近議論も沈静化していることもあって忘れちゃった人も多いだろうから、ここでもう一度おさらいしておこう。この方式は、コンテンツの記録・出力を暗号化することで、EPN対応機器でしか再生・表示を許さないというやり方だ。原則的にはコピーフリーだが、出力保護機能付きということになる。
EPNはすでにデジタル放送の運用規格の中で規定されているが、現在はコピーワンスで運用されているため、未使用になっている。ARIBの運用規格に対して愚直なまでに対応している機器ならば、原理的にはファームウェアのアップデートなどでEPN運用に変更することは可能だ。しかし実際にそれをやって問題なく動くかどうかは、各メーカーの作り方次第である。
第3次中間答申では、この検証をやれ、と言っているのである。もしアップデートでの対応は無理、ということになれば、デジタル放送関連機器は買い直しということになり、消費者にはとても受け入れられるものではなくなってしまうという危うさを持っている。
EPNは放送に関する著作権管理をすべてを解決するわけではない。守備範囲としては、放送から録画機、そして次のデバイスやメディアへのコピーまで、ということになる。それ以上、あるいはコピーを伴わない利用に関しては、さまざまなDRMを渡り歩く恰好で保護を実現することになる。例えばDVDメディアにコピーした先は、CPRMで保護される。各種ディスプレイに対しては、HDCPを使うことになるだろう。インテルではこのようなDRMの連鎖を、「ライセンス・チェーン」と呼んでいる。
デジタルコンテンツの暗号化は今に始まったことではないが、その上でコピーフリーというのは、日本ではこれまで体験できなかった感覚である。放送よりもケーススタディのバリエーションが多い音楽を例に考えてみると、無制限にコピーが可能なデジタルコンテンツとして、音楽CDがある。これには暗号化がなされていない。
DRMで保護されたコンテンツはコピーフリーのような感覚をもたらすが、実際にはデータの複製には回数制限が設けられている。音楽データから音楽CDを作成すれば、事実上コピーフリーとなるが、この場合は別途料金を払うか、少し高い料金で購入するという方法がとられている。
だが米国の放送では、すでにEPN方式でコンテンツ保護の問題を解決してしまっている。さっきも説明したように、EPN方式を実現するには、対応機器が必要だ。ではなぜ米国ではEPNが導入できたのか。
理由はいくつか考えられる。日本ではデジタル放送開始と同時にデジタル機器がどんどん売れ始めたのに対し、米国ではデジタル放送に対して最初は懐疑的であった。つまり放送が始まっても、デジタル機器はさっぱり売れなかった時期があったのである。このタイムラグは、有効に使えただろう。
さらに日米で売れるデジタル放送関連デバイスは、微妙に方向性が違う。日本では録画機器がよく売れる。そしてコピーワンスが問題になるのも、この部分だ。だが米国ではいわゆる「録画人口」というのは少ない。気に入ったものがあればDVDとかiTunes Storeで買えばいいじゃん、という考え方である。
DVRトップシェアのTivoも、DVDの購入やレンタル費が節約できるアイテムとして取り上げられるという感覚である。このあたりは、日米の再放送率と機会損失の差が顕著に表われた例である。
もうひとつ、米国の放送受信スタイルはケーブルテレビが主流で、テレビのチューナーを使って直接電波受信というのは少ないことが挙げられる。ご存じのようにケーブルテレビはリースのSTBで受信するため、何か方式が変わっても、機材変更に対する消費者負担は少ない。
このEPN導入に尽力したのは、インテルを含む5C(Five Companies)という団体だ。あと4社は日立製作所、松下電器産業、ソニー、東芝。米国の問題を解決したのが、インテルを除いて全部日本企業というのは、ある意味皮肉な話である。
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