インタビュー
» 2017年08月25日 07時30分 公開

刀剣乱舞、ユーリ、けものフレンズ:「新たなファン層」に本を届ける、河出書房新社のSNS術 (1/4)

河出書房新社の本が、本来のターゲットとは違う層に届いて売れている。本を新たに手に取ったのは「刀剣乱舞」「ユーリ」「けもフレ」ファン。どうやってその層にリーチしたのか? 河出書房新社Twitterの“中の人”に話を聞いた。

[青柳美帆子,ITmedia]

 河出書房新社の本が、“本来のターゲットとは違う層”に届き、売り上げを伸ばしている。例えば「日本刀 妖しい魅力にハマる本」は、メインターゲットは50代以上の男性だったが、帯をとある文言に変更したことで、20代女性による購入が爆発的に伸びた。当初は1万部ほどを見込んでいた本が、9万5000部の大ヒットとなった。最近はあるアニメの影響で、11年前に出版された「家庭で作れるロシア料理」が重版を果たしている。

「刀剣乱舞」「ユーリ」「けもフレ」ファンが河出書房新社の本を新たに手に取っている

 河出書房新社は1957年に設立した中堅出版社(河出書房の創立は1886年)。日本文学や翻訳文学を数多く刊行しており、「河出文庫」を手に取ったことがある方は少なくないのでは。作家の池澤夏樹氏による個人編集の「世界文学全集」と「日本文学全集」は異例の大ヒットを果たすなど、本好きや文学好きに固定読者を抱える出版社だ。格調高いイメージもある同社が、どうやってゲーム・アニメファンにリーチしたのか。

 その答えはSNSだ。公式Twitterアカウントで情報を発信したことで作品が広まり、結果につながった。

 どうすれば“新たなファン”を見つけることができるのか、公式アカウントの情報発信に求められているものはなんなのか――河出書房新社のTwitterの“中の人”に話を聞いた。

“初めてのバズ”は「刀剣乱舞」

――河出書房新社アカウントのTwitterフォロワー数は4万人を超えています。最初からアカウント運営に関わっていたのでしょうか。

 Twitterをサービス開始直後から個人的に利用していたため、2009年に河出書房新社がTwitterアカウントを立ち上げた時にサブ担当として関わりました。3〜4年ほど前に広報に異動し、メイン担当になりました。現在はSNSとWeb全体の広報活動を担当しています。

 これまで出版社は書店を介してしか読者とコミュニケーションを取れませんでした。ですがSNSが生まれたことで、読者と直接つながり、呼びかけられる場所ができた。「どこの会社も始めつつあるし、やってみよう」ということで、当初は大人しめの告知アカウントとしてスタートしました。ただ、当初から、「既存の読者とコミュニケーションをすること」と同じくらい、「今まで河出書房新社の本を知らなかった層にアプローチすること」も重要だと考えていましたね。

――Twitterをきっかけにして、新たな層に本を届けることができるようになったのはいつからなのでしょうか。

 最初に大きな反応があったのは「日本刀 妖しい魅力にハマる本」です。14年9月に刊行した、日本刀の基礎知識を1冊で身に付けられる文庫本で、想定ターゲットは日本刀好き・歴史好きの50代以上の男性。ターゲット層にはきちんと届けられ、1万部ほどの結果が出ていました。

 ところが15年1月中旬、突然あるネット書店で1日数十冊の売り上げがありました。刊行から半年というタイミングで単店でそこまで動く商品はベストセラーです。「これは何か理由があるぞ」と考えて……「そういえば、DMM.comの和物ゲームが先行登録受付段階から盛り上がっていたような」と思い至りました。それがゲーム「刀剣乱舞」でした。

刀剣擬人化ゲーム「刀剣乱舞」

――15年1月にDMMがリリースした、刀をイケメンに擬人化したブラウザゲームですね。若い女性の間で大ヒットし、“刀剣ブーム”が巻き起こるきっかけになりました。

 実際にユーザー登録してプレイしてみて「売れている理由はこれだ!」と確信しました。がっつり就業時間中だったので、同僚からプレイ画面をのぞき込まれて「よく分からないが、何かと戦っている……?」とヒソヒソされましたが(笑)。

 「刀剣乱舞」は開始直後からこれだけ本が売れるほど、ユーザーの知識欲が刺激されているので、これからますます人気が上がっていくだろうと思いました。そうなると、各社から“刀剣入門”本がどんどん出てくるはず。埋もれてしまう前に「刀剣乱舞」ファンに「日本刀 妖しい魅力にハマる本」を届けるためにはどうすればいいか、どうすれば一番早く書店の棚に届くことができるか――そう考えて、プレイしたその日のうちに即、Twitterで「気付いたぞ!」とメッセージを送りつつ、プレイヤーに向けて新しい帯のデザインを始めました。

――その日のうちにですか?

 この本に関しては、機動力が勝負でした。「審神者(さにわ)様、必携!!」「刀剣の過去エピ満載!!!」「今、刀剣が熱い!!」と、「刀剣乱舞」ユーザーなら分かってくれるであろう文章と、ゲームに登場する刀剣の名前を帯に入れ込みました。さすがに社内では反対意見もあり、「審神者って何? なんて読むの?」「もっと帯で説明した方がいいんじゃないの?」と意見ももらいましたが、「これでいいんです、審神者様はこれで分かってくれるはずです!」と通しました。

――審神者とは「刀剣乱舞」のプレイヤーのことですよね。帯の反響はいかがでしたか?

 1月末に「目印はこの帯だ!」と画像付きでツイートしたところ、1時間で3000回以上リツイートされて、反響の大きさに驚きましたね。河出書房新社のTwitterアカウントが元々のフォロワー以外からここまで注目されるのは初めてのことでした。SNSだけではなく実際に売れ行きもよく、当初は1万部を見込んでいた本を累計9万5000部まで売り伸ばすことができました。社内でも「刀剣乱舞」「審神者」の認知度が一気に高まりました。

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