かつての闘将が重視するのは「コミュニケーション」 柱谷哲二さんが語る強いチーム作りの本質とは?

現役時代はキャプテンとして黄金期のヴェルディ川崎や、サッカー日本代表を率いた「闘将」こと柱谷哲二さん。現在はJFLに所属するヴァンラーレ八戸FCで監督として指揮を執っている。そんな柱谷さんに強いチーム作りの勘所を聞いた。

» 2017年08月30日 10時00分 公開
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 現役時代はキャプテンとして黄金期のJリーグチームのヴェルディ川崎や、サッカー日本代表を率い、「闘将」と呼ばれた元プロサッカー選手の柱谷哲二さん。引退後は、J1にとどまらず、さまざまなカテゴリーのチームで指導者としての経験を積み、現在はJFLに所属するヴァンラーレ八戸FCで指揮を執っている。

 ヴァンラーレ八戸は、現在J3昇格を目指し、JFLセカンドステージでは現在3位(8月20日現在)。監督として、どのようにチーム作りに取り組んでいるのか。「勝てるチーム」を作るためには何が必要なのか。伸び盛りのチームを率いる柱谷さんに話を聞いた。

JFLのヴァンラーレ八戸FCで監督を務める柱谷哲二さんが「勝てるチーム」の作り方を語った JFLのヴァンラーレ八戸FCで監督を務める柱谷哲二さんが「勝てるチーム」の作り方を語った

選手の「レベル」に合わせた指導が必要

――柱谷さんは、2016年末にヴァンラーレ八戸の監督に就任されました。どのようなことから、チーム作りに取り組んでいったのでしょうか?

 うまい選手は結構いるけれど、「戦う」ことに関しては残念ながら物足りない。それがチームを見たときに最初に感じたことでした。トレーニングを見ていても、やはりアマチュアですから、自分たちの気持ちが乗っているときだけ頑張るといった部分が見受けられました。

 僕は、選手のレベルによって指導法を変えていくべきだと考えています。言っている内容は同じでも、言い方を変えるなどして選手たちのレベルに合わせていく必要がある。なので、このチームには、まずプロとしての心構えを教えていきました。「ここはプロを目指しているチームなんだから、プロとしての心構えを持つべきだ」ということを繰り返し選手たちに伝えたのです。

 アマチュアとプロの差は何か。アマチュアは、自分がやりたいときに好きなことをやって、やりたくないときはやらないでいい。そこに仕事としての責任はありません。しかし、プロは、試合に勝って自分の給料、つまり自分たちの価値を上げていかなければいけません。そのためには仲間と協力して、どんな状況でも自分の役割を果たす必要がある。

 プロであれば、「忙しいから」「疲れているから」なんて言えません。「特別この一戦だけ戦う」というのは、アマチュアの態度です。どんな試合であっても常に全力でやるのがプロです。こうした「プロとして戦うのが当たり前」というメンタルをチームに植え付けることから始めました。

――これまでアマチュアとしてプレーしていた選手たちに、そうした意識改革を促すには、困難な部分もあったと思いますが。

 僕はこれまで指導者としてさまざまな経験をしてきました。その中で、「失敗した」と感じるケースの多くは、レベルがあっていないことが原因でした。選手たちの意識やトレーニングのレベルが、自分の想定するレベルと大きく離れていれば、効果は出ません。

 ヴァンラーレ八戸でも、いきなり選手たちに「プロ意識を持て」と言っても難しかったと思います。ですから、最初は誉めました。やはり仕事しながらサッカーするのは大変ですから「おまえたちは、すごいな」と。

 こうした場面では、Jリーグが開幕する以前、僕自身が日産自動車でプレーしていた時の経験がいきましたね。チームメートの半分以上が午前中仕事して、昼過ぎから練習していましたから。

――選手たちの意識や技術のレベルに合わせた指導を使い分けているわけですね。

 そうしないと監督としてのメッセージが届かないと思います。僕自身はどちらかと言えば、戦術家というよりもモチベーターで、選手たちのメンタルをいかに良い方向にもっていくかということを非常に大事にしています。

「チームファースト」の意識を徹底させる

――サッカーにおいては監督と選手だけではなく、選手間のコミュニケーションを活性化することが重要だと思います。チーム内のコミュニケーションを活性化するために工夫していることはありますか。

黄金時代のヴェルディ川崎を主将として率いたときの経験も生きている 黄金時代のヴェルディ川崎を主将として率いたときの経験も生きている

 そこは非常に重要だと思います。このチームに関していえば、キャプテンを1人ちゃんと決めた上で、残りのメンバーは全員副キャプテンだという話をしています。「キャプテンが引っ張る」のではなくて、「全員がキャプテンを支える」という意識をもってもらいたいのです。そうやって1人1人が責任を持つことで、チーム力が上がっていくと考えています。

 そもそも、「サッカーというのは人のためにプレーする」というのが僕の考え方なのです。自分が他人のためにプレーするからこそ、他の10人が自分のために動いてくれる。それがチームワークです。

 例えば、トレーニングの中で紅白戦をやるとします。サブチームの選手たちが、仮想敵チームとしてシステムもポジションも変えてプレーする。そういうサブの選手の協力がなければレギュラーは勝てない。つまり、レギュラー以外の選手も含めて、チーム全員が同じ方向を見て、チームのためにプレーしなければいけない。そういう状況を作るために、すべきことをキャプテンは考え続けるべきですし、残りの選手はキャプテンを支える必要があるわけです。

――現役時代は黄金期といわれたヴェルディ川崎を主将として率いていたわけですが、その時とは別のアプローチでチームをまとめているのでしょうか?

 基本的な部分は変わりません。人間同士ですから、うまい下手は関係なくコミュニケーションを大事にしています。どんなときでも、伝えるべきことは伝えるという姿勢が必要です。

 当時、チームの勝利という目的を達成するためには、たとえラモス(瑠偉)さんが相手であっても「それは駄目でしょ、ラモスさん!」と言わなければいけませんでした。そうしたことを現にやっていたのです。

 ヴァンラーレ八戸では、キャンプの時に選手と個別に面談して、僕の評価をしっかりと伝えました。選手は、「監督が自分をどう評価しているか」を非常に気にしています。だからこそ、そういう評価をチームメートの前で言うのではなく、膝を突き合わせて1対1で話をしているのです。

 このように、目的や状況に応じた適切なコミュニケーションの取り方が重要です。

――選手たちとコミュニケーションを取る際に意識していることはありますか。

 まず誉めるということですね。1つ何か悪い部分を指摘する前に、3つぐらい誉める。良いところを伸ばして、悪い部分をせめて平均レベルにしようという話を選手たちにしています。

 今の若者たちは、僕らと育ち方が違います。僕らは練習中に「水飲むな」と言われたり、はたかれたりもしました。しかし、今はそういうことはあってはなりません。僕は娘が2人いるのですが、子育ての中で誉めれば人は伸びるということを実感しました。娘と同じ世代の選手たちは、怒るよりも誉めた方が伸びる。であれば、指導者がそうした指導法を選ぶ必要があります。

 僕自身も指導者として駆け出しのころは、「何とか言うことを聞かせよう」といった意識を持っていました。自分の考えが伝わらず、「なぜ自分の考え方が浸透していかないのか」という葛藤が常にありました。

 それでも僕は失敗のたびに、次のチャンスの時に向けた準備をしてきました。どんな選手のレベル、どんな状況でも対応できるように、しっかりと準備をするように取り組んできたのです。そういう試行錯誤を繰り返しながら、その時々で最適な指導法を選択するようにしています。

 だから、練習中でも選手たちが疲れているなと感じたらメニューを変えます。これまでは「練習をやらせた」ということで自己満足してしまったときもありましたが、求める効果を置き去りにして、監督の自己満足の練習をやらせても意味がないのです。

 指導者は、いかに選手たちに良いプレーをさせるかを考えるわけですから、自分が満足するのではなくて、選手に「やった」という実感をもってもらわなければいけないですよね。

サッカーで最も重要なのはコミュニケーション

――先ほどから、「チームのために」ということを強調していますが、サッカーというゲームを考えると、個人の力を押し出した方がいいというケースもあるように思います。チームと個人のバランスについて、どのようにお考えですか。

 僕は選手たちに「自分が組織として作っているのは50%。残りの50%は個々の発想、アイデア、技術なんだ」という話をしています。監督は、組織としての土台を作っているだけなのです。

 サッカーの競技としての魅力は、野球と違ってタイムもなければ、バレーボールのようにワンプレーごとのサインがないことです。試合中は監督の顔色をうかがわず、常に選手間でコミュニケーションをとっていかなければ駄目です。

 だからこそ、選手たちは自分のやりたいことをもっと周囲に伝える必要があります。周囲とコミュニケーションを取らずに、自分のやりたいことをやるのは、単なるわがままです。ラモスさんであれ、カズ(三浦知良選手)であれ、「俺はここにボールがほしいんだ」ということを他の選手とコミュニケーションを取りながら要求していました。

 選手たちには、「黙ってサッカーするなよと。そんなレベルじゃないだろ」とよく言っています。ベテランには、「体が動かなくなったら、口をうごかせ。自分が動けないなら、周りを動かせよ」と言い聞かせています。実際に、ヴァンラーレの10番はかなりのベテラン選手なのですが、メンタルとフィジカルを整えて、コミュニケーションをしっかり取って人を動かすようになったことで、今シーズンはほとんどの試合で90分間プレーしています。

 サッカーは自分だけが頑張るのではなく、相手に自分の意思を伝えるコミュニケーション、あるいはコーチングが非常に重要だと思いますよ。

――コミュニケーションを重視するのが、柱谷流の指導法ということですね。

 選手たちには、コミュニケーションの能力を大事にしてほしいということを繰り返し伝えています。それはサッカーだけではなくて、人生に役立つことだからです。サッカー選手としてプレーするのは、せいぜい10年ぐらい。その後は、サッカー以外の仕事をすることになりますが、そのときにコミュニケーションがなかったら何もできません。だからこそ、最も重要なコミュニケーションのスキルを磨いてほしい。僕も進行形で磨いています。

 サッカーのうまい下手はあるけれど、コミュニケーションにはありません。誰でもすぐに工夫して取り組めるし、努力できる。コミュニケーションの質を高めていくことに、僕のチーム作りのベースがあると思います。


 「サッカーはコミュニケーション」。スポーツとビジネスの違いはあれども、同じく組織で“闘う”企業にとってもこれは当てはまる哲学だろう。企業が飛躍するためには個々人の力だけでなく、社員が一丸となるようなチームワークが不可欠であり、それを下支えするのがコミュニケーションであることは間違いないはずだ。

チームの進化形

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