藤田社長が「AbemaTV」に“ムキになる”理由夏目の「経営者伝」(2/3 ページ)

» 2017年10月08日 06時00分 公開
[夏目人生法則ITmedia]

まず社長がヘビーユーザーになること

 ここで疑問が生まれる。「AbemaTV」が、今まさに「リスクとリターンのバランスがいい」事業であるなら、彼は「リターンが大きい分野」をどのように見抜いているのか。

 「常に心掛けているのは、多少面倒でも、新しいサービスを自分自身で体験してみることです。続けていると『このサービスはもうすぐ爆発的に広がっていくかもしれない』などと分かるようになってきます」

 「そもそもインターネット黎明期のころ、日本の大企業がIT化に遅れ、その間にベンチャー企業が成長した背景には、企業のトップが新しいサービスやアプリを実際に使って試さなかったからだと思うんです。使わないと成長性を見抜けないですし、そういう人は常に一歩出遅れてしまいます」

 だから、藤田氏の毎日は多忙だ。彼は「AbemaTV」を部下や外部任せにせず、できる限り自身で番組を見て、企画を考え、アプリの機能開発まで口を出す。

 「2017年のゴールデンウィークに『亀田興毅に勝ったら1000万円』の試合を、その後に将棋の藤井聡太四段の対局を配信して『AbemaTVのコンテンツは尖ってる』と注目が集まりました。オリジナル番組は、視聴習慣をつけるようなレギュラー番組か、尖ったコンテンツ、どちらかに絞って考えています。他では見られない『エッジの効いたもの』をつくる必要があるんです。中途半端なものは作りません」

 バラエティ、音楽などジャンルは問わず、制作のキーワードは「AbemaTVならではの尖っている」番組を創ることだ。ここでしか見られないというコンテンツは視聴習慣につながる。

photo 1420万を超える視聴数を記録したAbemaTVの企画「亀田興毅に勝ったら1000万円」

 「そのためにも、私は番組づくりを人任せにしません。例えば、アイドルソングが好きな人が全員、秋元康さんになれるわけではないけれど、なるためにはやっぱり興味がなければいけませんよね。まずは自分(トップ)がコンテンツに興味を持たないと」

 藤田氏がやっていることは、テレビ局の社長が毎日寝る時間を惜しんでコンテンツを見て、自分も現場に顔を出すようなものだ。だが、自分なりの基準や世の誰も気付いていない問題意識を持たなければ、オリジナリティーは獲得できない。だから藤田氏は、恐ろしいほどの多忙の中、地道にコンテンツを見て、結果としてオリジナリティーを獲得した。

 「たまに、『既存のテレビと同じでしょ』と言う方がいるんですけど、そこは、きちんと見てほしいですね。テレビと同じようなクオリティーで制作することを心掛けていますが、画面の構成は違います。テレビは華やかなセットにテロップも多いですが、スマホの小さい画面で同じことをやると、とても見にくい。スマホで見ることを前提にしながら、テレビに映しても遜色ないものを、オリジナルで考えています。制作現場もテレビのやり方を踏襲はしていません」

 「広告(広告主)を意識するというメディアの常識も、1回切り離したいんです。一方、ネット広告自体が伸びている背景があるからこそ、ユーザーさえ大きな規模になればきちんと収益は出せる、と楽観していますけどね」

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