チケキャン閉鎖 何が問題だったのか カギは「ジャニーズ」「宝塚」「ジャニーズ通信」「宝塚歌劇倶楽部」

» 2017年12月27日 17時13分 公開
[青柳美帆子ITmedia]

 ミクシィが終了を決めたチケット転売仲介サイト「チケットキャンプ」。会員登録数が300万人を突破し、流通額を伸ばしてきたサービスが、警察の強制捜査からわずか20日、急転直下の幕切れとなった。一体何が問題となり、どんな判断があったのか。ミクシィが公表した調査報告書からたどる。

 フンザは2013年4月、チケットキャンプのサービスを開始。その一部として、アーティストやコンサートの情報を掲載したサイト「ライブフリーク」も運営していた。そこで得たノウハウを活用し、順次オープンしていったサイトが「ジャニーズ通信」「宝塚歌劇倶楽部」「EXILE通信」だ。

 主な目的はSEO(検索エンジン最適化)対策。「ジャニーズ」や「宝塚」など、検索されやすい用語に関連するチケットや情報を表示することで、チケットキャンプ全体の検索結果を上位にすることを目指した。15年にはサイトと連動したスマートフォン向けアプリもリリースしている。これらのサイトの運営は、15年3月にミクシィに買収された後も続いた。

「ジャニーズ通信」(=17年11月時点、Web Archiveより)

 “落とし穴”になったのはこうしたサイトだ。「ジャニーズ」「宝塚歌劇」は商標登録されており、知的財産として保護の対象。商用サイトなどでの無断利用は商標権の侵害となる可能性があり、客寄せなどに使えばフリーライド(ただ乗り)として不正競争防止法に抵触するおそれがある。

「ジャニーズ」「宝塚」 誤解を招く可能性「否定できない」

 「ジャニーズ通信」「宝塚歌劇倶楽部」の場合、それぞれの商標がページの最上部中央に配置されていた。フンザは、「ジャニーズ」「宝塚歌劇」を名前に含む情報サイトがほかに多く存在していたため、商標の使用に「特段支障はないと考えた」という。

 だが調査報告書は、「メディアの内容を表示するものにすぎないと判断される可能性もあり得るものの、情報提供サービスのサービス名称として使用されているとの判断される可能性は否定できない。これらの商標を見たサイト閲覧者が、ジャニーズや宝塚歌劇団と何らかの関係を有しているのではないかとの誤解を招く可能性も否定できない」と指摘する。

「宝塚歌劇倶楽部」(=17年7月時点、Web Archiveより)。中央に「宝塚歌劇」が含まれるロゴが配置されている

 その上で、「最終的には司法判断に委ねられるべきもの」と明言は避けるものの、「商標法と不正競争防止法違反の疑念を生じさせるようなものであったことは否定できない」とする。違法と判断されない可能性もあるが、実際に強制捜査という事態を招き、ミクシィとフンザが社会的な批判にさらされている以上、商標利用には問題があった──と結論している。

買収事業が大きなリスクになった

 フンザはジャニーズ事務所や宝塚歌劇団の関連会社から、高額転売に対する複数のクレームを受領していたという。さらに16年10〜11月には「宝塚応援キャンペーン」「ジャニーズ応援キャンペーン」と冠し、両団体の関連チケットの取引手数料を無料にするキャンペーンを実施。関連会社から「公演チケットの出品をさらに助長し、転売目的で購入して高額転売することを一層あおる」との申し入れがあったため、キャンペーンを中止している。

 ただ、こうした申し入れで「ジャニーズ」「宝塚歌劇」の商標について、使用中止を求められたことがなかった。スマートフォンアプリの審査時に拒絶されたものの、フンザは「App Storeの審査が特別に厳しいだけであると安易に考え」、アプリ名を変更して申請し直したという。

 調査報告書は、法令順守意識の低さやリスク感覚の欠如に加え、「それを是正できなかったガバナンス体制にも問題があったと評価せざるを得ない」と組織的な問題を指摘している。

 報告書は次のように締めくくられている。

 「チケットの二次流通仲介事業自体は違法ではないが、結果として、チケットの高額転売を行う場を提供することになる側面も否定できない」

 「高額転売が社会的に強く非難され、転売目的の購入行為について刑事罰まで科されるに至っている現在の状況や、企業活動が社会的な公正や倫理観・道徳観が求められていることを鑑みると、本サービスを今後も存続させるか否かを含めて慎重に検討すべき」――。

 上場企業であるミクシィにとって、チケットキャンプは“将来の柱”ではなく、“リスク”の大きいサービスになってしまったようだ。ちょうど1年前、買収したまとめサイト事業で著作権侵害などを指摘され、大騒動になったディー・エヌ・エー(DeNA)と似た構図とも言えそうだ。

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