[レークブエナビスタ(米フロリダ州) 15日 ロイター] - その「手術劇場」となった会場のすぐ外にいた医学会議の主催者は、ミニー・マウスの耳を頭に着けていた。
会場内では、医師たちが3体の人間の死体を使って実演していた。1体を包んだ何重もの包装の間から、血液がしみ出していた。「漏れるんだ」と、実験技術者が死体を指して言った。
ロイター記者も出席したこのセミナーが11月に実施されたのは、病院や医科大学ではなかった。それは「死体実習」と呼ばれるセミナーの一環として、フロリダ州オーランドにあるウォルト・ディズニー・ワールドリゾートにある施設で実施された。
過去6年間に、同様のイベント数十件が、米国各地のホテルやその会議場で開かれている。
今回のセミナーはヨット&ビーチクラブ・リゾートのコンベンションセンターにある宴会場を使って、医師が神経根ブロックなどの技術の実演を実際の死体を使って行った。ホームページ上でディズニーは、この宴会場について「豪華でまばゆい」と表現しており、普段は結婚式のレセプションに使われるという。
ディズニーは、コメントの求めに応じなかった。
米国では医学実習は通常、専用設備を備え、厳重に管理された実験施設で行わる。だが、常にそうではない。
ロイターは2012年以降、ニューヨークからサンディエゴまで全米数十都市のホテルやその会議場で開かれた、少なくとも90件の「死体実習」を特定した。ホテル大手のヒルトンやハイアット、シェラトンやラディソンが会場として使われていた。
こうしたセミナーで使われる死体は通常「ボディーブローカー」から入手する。ボディ―ブローカーとは、研究のために献体された死体を入手し、医学研究や訓練のため死体の部位を転売したり貸し出したりする組織だ。彼らは一般的に、自らを「移植目的ではない組織バンク」と称している。
だが、これは政府が厳しく管理する移植用の臓器や組織を提供する業界とは完全に異なるものだ。ディズニーの会議場で実演に使われていたような、研究や教育目的の死体やその部位について、販売や貸し出しを規制する連邦法はない。業界は、事実上、野放しの状態だ。
同様に、死体や人体の部位を扱うセミナーが開催される場所についても、規制はほとんどないが、実験教室での医療廃棄物や血液を媒介する病原体の取り扱いについては、連邦政府が規制している。
世界保健機構(WHO)は、「一般的に死体の場合、生きていた時と比べて大きな感染症のリスクをもたらすものではない」と言う。
安全のため、セミナー主催者は使用する死体について、エイズウイルスや肝炎などの検査を行っていると述べている。
だが結核などの病気は、検査で必ず発見されるものではない。取り扱われる死体の中に、脳組織がスポンジ状に変化するクロイツフェルト・ヤコブ病や、抗生物質耐性菌の感染源となり得るものが含まれる可能性を懸念する医学関係者もいる。
人体を切開すると、病気感染のリスクが高まる、とミネソタ大感染症政策研究センターのマイケル・オスターホルム所長は指摘する。
「死体から大規模な感染症が広がったり、事件が起こったことはまだないと、私は証言できる。だが、それが起こるのは時間の問題だ」と、オスターホルム所長は語った。
医療会議で使われる死体について、B型肝炎に感染していたことをボディーブローカーが報告しなかった事例が少なくとも1例あった。この死体の頭部と頸部は2011年、マサチューセッツ州ケンブリッジのハイアットホテルで開かれた会議に提供された。
会議出席者の感染報告はなかったが、ボディーブローカーのアーサー・ラスバーン容疑者は、医療関係者への詐欺行為と、連邦職員に嘘をついた罪で、1月に裁判にかけられる。同容疑者は無罪を主張している。
ハイアット側は2011年の事件以降も、10件以上の死体を扱うセミナーに会場提供していたことが、ロイターの調べで分かった。
ハイアットの広報担当者ステファニー・ラーデル氏は、ロイターの取材を受け、傘下ホテル向けの「この種の医療訓練」に対するガイドラインの見直しに入ったと語った。また、ホテルの施設利用者には「健康や安全のプロトコル順守」を望むと述べた。
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