そんな話をし終えたAさんは、時折言葉をつまらせながら、胸の奥にしまっていた不満をぶちまけた。
「確かに、この治療は万人に効果があるものではない。でも、私に効いたのはまぎれもない事実ですし、彼らに効いた可能性もゼロではない。なにも打つ手がないというなかで、患者が自分の意志で選択したものを、脅すように潰すのは、医師として異常だと私は思いますよ」
筆者もまったく同感だが、一方でこの担当医たちが、ここまで激しい拒絶反応を示した「背景」もなんとなく分かる。
余命宣告を受けたAさんを回復させ、友人たちが試してみたいと望んだ治療法とは、いまもさまざまな方面からバッシングを受けている「免疫療法」だからだ。
そう聞くと、「ああ、キノコとか食べたら免疫があがってがん細胞をやっつけるとかいう詐欺まがいのやつでしょう」「抗がん剤の副作用を嫌がる芸能人とかがダマされたやつじゃなかったっけ?」なんて思う人も多いかもしれない。
このような認識は、半分当たっているし、半分は間違っている。
確かに、「免疫療法」をうたって、科学的根拠のない治療を提供している悪徳クリニックが存在しているのは事実だ。そのおかげで、日本では「免疫療法=怪しい治療」という認識が社会にすっかりと定着しているわけだが、世界を見渡せば、この認識はかなり時代遅れというか、「勘違い」と言わざるを得ない。
例えば、ゲノム研究の世界的権威として知られる、米・シカゴ大教授でもある中村祐輔氏は自身のブログでこう述べている。
『科学として免疫療法は確固たる位置を築いたことは明白だ。日本では、いい加減な免疫療法が広がることを問題視し、憂慮している人が少なくないようだが、欧米ではいろいろな免疫チェックポイントを対象とする治療薬や多種類の免疫療法の検証が進んでいる。「怪しい免疫療法が広がることを懸念して、まともな免疫療法を抑え込む」ことは非科学的だ』(中村祐輔のシカゴ便り 2017年4月2日)
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