「1本3000円」のシャープペンをヒット商品にした、“近寄りがたさ”自動で芯が出てくる(1/4 ページ)

» 2018年08月22日 07時30分 公開
[加納由希絵ITmedia]

 1本3000円の高級シャープペンシルが、2017年の文房具市場を象徴する存在になった。ぺんてるが発売した「orenznero(オレンズネロ)」だ。手作業で組み立てることから大量生産ができず、発売直後はなかなか手に入らないと話題に。現在は月1万本強の生産体制を整えており、これまでに約16万本を出荷している。

 芯の太さは0.2ミリと0.3ミリという極細の2種類のみ。本体の色は黒だけ。シンプルだが、最大の特長は機能にある。極細の芯でも折れない「オレンズシステム」、ノックしなくても芯が出てくる「自動芯出し機構」という2つの技術だ。

 一般的に、高い技術を搭載した高価格商品は、愛好家やプロ向けになることが多い。ところが、オレンズネロは、シャープペンのメインユーザーである10代の学生にもよく売れているという。幅広い層のユーザーにとって“憧れ”の品になったのだ。

 どのように多くの人の心をつかみ、オレンズネロを同社のフラッグシップモデルとして確立させたのか。オレンズネロの商品企画を担当する、マーケティング推進部プロダクトマーケティング課の飯塚愛美さんに「商品の見せ方」について聞いた。

photo 「オレンズネロ」の商品企画を担当した、ぺんてる マーケティング推進部 プロダクトマーケティング課の飯塚愛美さん

「そんなに売れない」という認識

 オレンズネロが生まれるきっかけになった商品がある。14年に発売した極細芯のシャープペンシル「オレンズ」だ。ペン先のパイプがスライドすることで芯を守り、書いている途中で折れることを防ぐ「オレンズシステム」を初めて搭載した。0.2ミリと0.3ミリという極細芯にニーズがあるのか、社内でも半信半疑だったが、販売してみると反響は大きかった。

 「極細芯の良さが伝わったという手応えがありました。一方で、芯が細いとすぐに減ってしまい、ノックの回数が多くなります。その煩わしさを解消したい、と考えたことが、オレンズネロ開発のきっかけです」と、技術開発を担当するシャープ企画開発部部長の丸山茂樹さんは振り返る。

 ぺんてるが約20年前に持っていた自動製図機向けの自動芯出し技術を掘り起こし、極細シャープペン用に開発。2年かけて、自動芯出し機構を完成させた。

 オレンズネロの部品点数は28点で、一般的なシャープペンの2倍以上。それを1本ずつ手作業で組み立てる。販売価格は必然的に高価格になり、社内でも「そんなに売れる商品ではない」「愛好家向け」という認識だった。

 飯塚さんが商品企画を任されたのは、その技術が完成したタイミングだった。

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