世界一の「安全」を目指すボルボの戦略:池田直渡「週刊モータージャーナル」(2/5 ページ)
世界で初めてクルマに3点式シートベルトを導入したのがボルボだ。それから55年余り、同社の「安全」に対する徹底ぶりは群を抜いているのだという。
安全の原点はシートベルト
例えば、鉄の箱に卵を入れて、一定の高さから落としたとき、箱は無事でも卵が割れるということはかなりの確率で起こる。鉄の箱に多少の衝撃吸収構造があっても、それで万全とは言い難い。だから、次に必要なステップは、ぜい弱な人体を生存空間の中で拘束して、車外への放出を防ぎ、頭や胸部をステアリングなどに打ち付けるリスクを軽減する取り組みである。ここで大事なのは、シートの形状とシートベルトの設計だ。どちらがダメでもリスクが高まる。
人体は非常に弱い。前方への衝突に対してベルト状のもので身体を拘束し、時速30キロ以上の衝撃に備えようと思えば、体重にあらがいベルトで拘束できる位置は唯一、骨盤だけである。
「クルマの時速30キロなんて遅い」と思われるかもしれない。余談だが、100メートルを10秒で走るときの速度は時速36キロ。42.195キロを2時間で走るときの速度は約20キロだ。クロマニヨン人から20万年で人体がどう発達してきたかを考えれば、自分で出せる速度以上の衝撃に耐えられるようにはなっていないと思う。自動車の歴史はまだ130年に満たないのだ。人類の進化で対応するには少なくとも数万年はかかるだろう。30キロを超える速度はそれだけ深刻なものだと言える。
大事なのは骨盤だ。ほかの位置にベルトを掛ければ、腹部には骨がないので簡単に内臓が損傷するし、胸部はぜい弱な肋骨(ろっこつ)しかないため、骨の強度が持たない。鎖骨の強度も肋骨と変わらない。つまり、よほど大きな面拘束を考えるのでない限り、腰骨が唯一、体重にかかる加速度に抵抗して保持可能な部位なのである。
上述の通り、シートベルトは腰骨に掛けないとそれ自体が凶器になりかねない一面もあるのである。だからこそ、ベルトが腰骨にしっかりとかかるように作られるのだが、最終的には装着時の座り方やシートベルトの掛け方にも依存する。締めておけば良いとばかりに適当にお腹にベルトを掛けるのは自殺に等しい。こうした問題をできる限り軽減するために、衝突時に火薬などの力(XC90は電動式)でベルトを巻き取り、できる限り理想に近い位置で締め上げる工夫もなされているが、これで是正できる程度は限られており、万全とは言えない。
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