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出光が恐れているのは何か、昭和シェルが嫌っているのは誰かスピン経済の歩き方(1/4 ページ)

出光興産と昭和シェル石油の合併が難しくなっている。国内ガソリン市場が縮小する中で出光にとってシェルとの統合は決して悪い話ではない。それなのに、なぜ出光の創業家は合併に反対しているのか。

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スピン経済の歩き方:

 日本ではあまり馴染みがないが、海外では政治家や企業が自分に有利な情報操作を行うことを「スピンコントロール」と呼ぶ。企業戦略には実はこの「スピン」という視点が欠かすことができない。

 「情報操作」というと日本ではネガティブなイメージが強いが、ビジネスにおいて自社の商品やサービスの優位性を顧客や社会に伝えるのは当然だ。裏を返せばヒットしている商品や成功している企業は「スピン」がうまく機能をしている、と言えるのかもしれない。

 そこで、本連載では私たちが普段何気なく接している経済情報、企業のプロモーション、PRにいったいどのような狙いがあり、緻密な戦略があるのかという「スピン」を紐解いていきたい。



出光興産と昭和シェル石油の合併が難しくなっている(写真と本文は関係ありません)

 出光興産と昭和シェル石油の合併に暗雲が立ち込めている。

 出光の株式の33.92%を握る創業家が、定時株主総会の場で「自主独立の道を」と統合へ待ったをかけ、その後の経営陣との話し合いも平行線が続いているのだ。

 国内ガソリン市場が縮小し、業界再編が加速するなかで生き残り策を模索する出光にとってシェルとの統合は決して悪い話ではない。むしろ、力を入れている地熱・風力発電など自然再生エネルギーやアジア進出ではメリットのほうが大きい。紆余曲折はあったものの昨年11月、「対等統合」という方針も決まったはずだ。

 なぜここにきてちゃぶ台返しともいうべき、「創業家の乱」が起きてしまったのか。前会長であり、創業者・出光佐三氏の息子さんである昭介氏の代理人を務める、浜田卓二郎顧問弁護士はこのようにおっしゃっている。

 「体質や文化の異なる企業の合併で効果を出すのは難しい」

 だから、それを乗り越えるためにいろいろ協議しているんでしょ、という意見もあろうが、確かにこの指摘には一理ある。

 出光と昭和シェルは、周囲から「あの2人、どう考えてもすぐ別れそう」と囁(ささや)かれる男女のように、「相性」がいいとは言い難いからだ。

 例えば、石油元売がなによりも大切にしなくてはいけない中東に対するスタンスからして真逆だ。出光は百田尚樹氏の出光佐三氏をモデルにした小説『海賊と呼ばれた男』(講談社)でも描かれたように、国際的な石油カルテルに抵抗し、英国艦隊のイラン封鎖をかいくぐって石油を輸入したということもあって、いまだイランとつながりが深い。

 昭和シェルは第二の大株主がサウジアラビアの国営企業サウジアラムコ。ご存じのように、イランはシーア派が多く、サウジはスンニ派で歴史的に対立を繰り返しており、今年頭には国交を断絶している。

 両国の対立は激化しており、2カ月ほど前にもイスラム教の聖地メッカへの巡礼で、サウジ側がイラン人巡礼者へのビザ発給を困難にしている、と国際的にも大きな話題になった。


出光は1952年(昭和27年)、国内初の高オクタン価「アポロガソリン」(出典:出光のWebサイト)
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