なぜ社長は自分を棚に上げて「スゴい人になれ!」と叫ぶのか:常見陽平のサラリーマン研究所(2/3 ページ)
4月は何かと社長のスピーチが話題となる季節。このスピーチが味わい深いのは、自分のことを棚にあげて「スゴイ人になれ!」と叫んでいることである。
「スゴい人になれ」と言うようになった理由
以前、「できる人」という幻想』(NHK出版)という本を書いた。その中で、1989〜2013年までの入社式における社長スピーチ報道を分析したことがあった。1996年あたりを境に、入社式における社長スピーチは厳しいものになっていく。これから会社に入るというのに、「会社人間はいらない」みたいなメッセージになっていくのだ。
しかも、「お前はできとるんか」と言いたくなるような「スゴい人になれ」メッセージになっていく。
1996年が節目になっているのには、ちゃんと理由らしいものがある。前年の1995年5月には、日経連(当時)が『新時代の「日本的経営」』を発表している。このレポートでは、日本的雇用慣行の見直し、特に正規雇用と非正規雇用を分けていく指針になったとされている。
終身雇用はもう維持できないのではないかという議論が盛り上がった時期でもある。かつての入社式は、長期雇用のスタートを象徴するものだったが、この頃から、労働者は一律ではなく、そして会社に入っても安泰ではない時代になるのではないかといった機運があったのだ。
なお、個人的に最も笑った入社式の社長スピーチは、2012年のアサヒグループホールディングスの泉谷直木社長(当時)のこのコメントだ。
「同質のひとが集まる『金太郎飴』では対応できない。犬・猿・キジといった個性が集まる桃太郎集団ではなくてはならない」
要するに多様性のようなことを言っているのだが、分かりにくい。結局、日本昔話、太郎シリーズか、と。鬼を倒すことが目的化している。もっと頑張らなくても済むストーリを提示したら、新しいと感じたのだが。
関連記事
- 「今年の新人は◯◯型」シーズンに思うこと
世間で話題になる「今年の新人は◯◯型」なるものをうのみにしてはいけない。世間が騒ぐ新人像ではなく、自社の新人を分析すること。これこそが、今すぐ使える処世術なのだ。 - 僕ら“40男”が抱えているこれだけの憂鬱
「就職氷河期世代」「ロスジェネ」とも呼ばれる世代が40代になり始めている。昭和という時代の恩恵を受け、楽しい10代を送ったものの、社会の変化に常に直面しつつ生きてきた世代だ。常見陽平氏がさまざまな憂鬱(ゆううつ)を抱えている“40男”に提案したいこととは? - 名言や社訓に洗脳される若き老害たち
「若き老害」――。自分自身も若いのに、後輩や部下をマウンティングする社員を指す。特に顕著なのは「名言」や「武勇伝」などを押しつけるマウンティングである。その実例や背景について考えてみる。 - なぜ日本人は“世代論”が大好きなのか
常見陽平が職場にはびこる「若き老害」という現象を全6回で読み解くシリーズ。第2回は日本人が大好きな「世代論」「世代闘争」が若き老害を生み出している……という話。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.