日本の生産性が低いのは「たばこ後進国」だから?:スピン経済の歩き方(1/5 ページ)
数年ほど前から「日本企業の生産性が低い」といった話をよく耳にする。労働時間を短縮したり、効率化を図ったり、さまざまな取り組みをしているが、喫煙者の問題はあまり話題にならない。仕事中に「ちょっと一服」と言って、何度も離席する人は生産性がいいのだろうか。
スピン経済の歩き方:
日本ではあまり馴染みがないが、海外では政治家や企業が自分に有利な情報操作を行うことを「スピンコントロール」と呼ぶ。企業戦略には実はこの「スピン」という視点が欠かすことができない。
「情報操作」というと日本ではネガティブなイメージが強いが、ビジネスにおいて自社の商品やサービスの優位性を顧客や社会に伝えるのは当然だ。裏を返せばヒットしている商品や成功している企業は「スピン」がうまく機能をしている、と言えるのかもしれない。
そこで、本連載では私たちが普段何気なく接している経済情報、企業のプロモーション、PRにいったいどのような狙いがあり、緻密な戦略があるのかという「スピン」に迫っていきたい。
先週、愛煙家のみなさんを絶望の淵に追いやるようなニュースが報じられた。
厚生労働省研究班が、全国162店舗のファミリーレストランを対象に「全席禁煙」と「分煙」を導入した前後での営業収入への影響を調査したところ、「全席禁煙」は2年目に3.4%も増加しているのに対し、「分煙」は1%未満にとどまった。
また、東京大学の五十嵐中特任准教授らが、喫煙や受動喫煙によってどれだけ余分な医療費が出ているのかを推計したところ1兆4900億円(2014年度)にものぼったという推計を出してきた。これは国民医療費の4%にも及ぶという。
こういう「カネ」にまつわるエビデンスが相次いで発表されたということは、受動喫煙防止対策をめぐる熾烈(しれつ)な「情報戦」もいよいよ最終章に差しかかってきたということでもある。
飲食店全面禁煙などの喫煙規制がある国の「導入プロセス」を見てみると、最初は受動喫煙による「がん」などへの不安から規制を求め、やがて「妊婦や未成年者への影響」という公衆衛生へとステップアップ。世論が高まってきたところで一気に「カネ」という社会的コストを持ち出して勝負を決める、というのが「勝ちパターン」となっているからだ。
なぜ「カネ」を持ち出せば、喫煙規制が勢いづくのかというと、実はこうすることで「たばこ」が「健康被害」とともに抱えている「弱み」を暗に浮かび上がらせることができるからだ。
それは、喫煙でもたらされる「社会的コスト」である。
分かりやすいのが、2013年に発表されたオハイオ州立大学のチームによる試算だ。勤務中の「たばこ休憩」による経済的損失、健康管理にかかる保険料の上昇などを加算していくと、喫煙者の社員に対して会社は年間で6000ドル(約66万円)も余計なコストを払っているというのだ。
このような「たばこの損」にスポットを当てることで、「たばこが吸えないと飲食店が潰れるとか言ってるけど本当は喫煙規制したほうがお得なんじゃないの?」という世論を喚起していくのだ。
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