イオンもライバル視 知る人ぞ知る快進撃のゆめタウン:小売・流通アナリストの視点(2/3 ページ)
総合スーパーの多くが減収かつ低収益の状況から脱していない中、増収かつ高収益率を確保している地方の企業がある。「ゆめタウン」などを運営するイズミだ。
熊本に新しい街を作り出した
このように、流通業界のキャスティングボードとも言えるイズミグループであるが、この会社は、他にも知る人ぞ知る、地方創生のエピソードを持っている。
地方の田舎町に郊外型大型商業施設を中心とした新しい街を作り出した、という全国でも珍しい流通企業の地域貢献事例だと思われる。知る人ぞ知る企業なので、前段の前置きが長くなったが、今回、主に紹介したかったのは、以下のエピソードである。
熊本県熊本市に隣接する菊陽町という町に、2004年に「ゆめタウン光の森」という大型ショッピングモール(売場面積約4万平方メートル)が忽然と出現した。このモールができたときは、周囲には宅地開発計画はあったものの、まだほとんど住宅は建っておらず、周囲の道路にはコンビニさえない、寂しい畑の真ん中のようなところだった。
ところが、今ではこのゆめタウン光の森を中心に住宅地が広がり、周辺の道路にはロードサイド型の店舗、飲食店が数多く店を構える状況になり、街の中心が新しく生まれた。このゆめタウンの近隣にはJR豊肥本線の線路が通っていたが、光の森駅が新設されて通勤、通学にも便利になった。
この商業施設の周囲には、ホンダの熊本製作所、ソニーセミコンダクタマニュファクチャリングの熊本テクノロジーセンター、富士フイルム九州といった製造業大手の工場があり、そうした工場の従業員と家族がこの新しい街に集まってきたというラッキーな背景はあるものの、街の中心がゆめタウン光の森であることを疑うものはいない。
05年に3.2万人であった菊陽町の人口は、18年時点で4.1万人を超え、現在でも毎年人口が増加し続けている。人口減少が進行する地方圏で、人口増加を維持している自治体は他にはほとんど存在していない。この街に隣接する周辺地区(熊本市東区、合志市など)も同様に人口増加傾向にあり、この街が地域の活性化をけん引している。仕事柄、地方郊外の大型商業施設を数多く見てきたが、ここまで地域の活性化に貢献している商業施設は知る限りではほかに存在していない。
ゆめタウン側も、この活性化の成果を享受していて、ゆめタウン光の森の売り上げ、収益はイズミグループの旗艦店としての存在感を維持し続けているという。大都心圏ターミナル駅前という超恵まれた立地にあっても、商売がうまくいかない百貨店や総合スーパーがいくらでもある時代に、田舎町で地域と協調して街を創出することで、自らの商売も成長させたという実績は、注目されるべき事例である。専門家の方々にはぜひ、分析、検証をお願いしたい。
実を言うと、かみさんの実家がこの街の周辺にあったことから、ゆめタウンができる前から、街の変わっていく様子を、偶然、定点観測してきた。最近でも行くたびにロードサイドには新しい店が増えているし、周囲の空き地は今でも分譲住宅が新築されていて、この街が新陳代謝していることが感じられる。
関連記事
- 瀬戸大橋30周年、四国は本州スーパーの草刈り場に
瀬戸大橋が開通して今年で30周年。その後、明石海峡大橋、瀬戸内しまなみ海道が開通したことで、2000年代以降、本州〜四国間は実質地続きになった。その影響で四国のスーパーマーケットの勢力地図が激変したのだ。 - 地方ドラッグストアの戦略がマス広告を遺物にする?
地方のドラッグストアチェーンがベンチャー企業と始めた、ある取り組みに注目している。これは従来のマス広告や広告業界に大きな影響を与える可能性を秘めているのではなかろうか。 - 企業不祥事続発から、サラリーマン国家になった日本を考える
大企業の不祥事が後を絶たない。金融業界に長く身を置いていた筆者としては、とりわけスルガ銀行の不正融資疑惑にはあきれてしまった。なぜこうした事態が起きてしまうのか――。 - 路面電車を残した地方都市の共通点
クルマ移動が主流となって以降、中心部が空洞化した地方都市は多い。しかし一方で、依然として中心市街地が存在感を維持している街もないわけではない。共通するポイントは「路面電車」の存在である。 - 24時間営業縮小から思う「地方創生」の真実
早朝深夜営業における人手不足などによって24時間営業の小売店や外食チェーンなどが減少している。そうした社会情勢と地方のつながりについて考えてみたい。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.