富士重工とSUBARUのフォレスター:池田直渡「週刊モータージャーナル」(3/4 ページ)
SUBARUが7月中旬に新型フォレスターを発売した。と書き出すと「なぜ9月も半ばなのに、今それが記事になるのか?」と思う人もいるかもしれない。実は新型フォレスターのパワートレーンは2種類で、そのうち「e-BOXER」と名付けられたマイルドハイブリッドモデルがこの9月14日に追加発売になったのだ。出来栄えはどうなのか、意見を述べたい。
クルマのリズムがしみじみと良い2.5
一方で、2.5リッターユニットはとても鷹揚な構えで、動き出しから高速レンジまで、どの回転数でもスムーズで穏やかながらしっかり力強い。そういうユニットに合わせたクルマの挙動のリズムがしみじみと良い。
フォレスターは室内に座った瞬間、どっしりたっぷりとした大ぶりで柔らかいシートと、握り心地の柔らかいステアリングに出迎えられる。クルマを作った人は、硬質なスポーツ感ではなく、優しくて穏やかでフレンドリーな世界を作りたかったに違いない。少なくとも内装の世界観はそういうものになっている。
その世界観の延長にあるのがどちらのユニットかと言えば、それはまごうことなく2.5リッターである。筆者の感想としては、今年乗ったクルマの中で屈指のできだと思う。自分の生活にこのクルマがあったら少し幸せになるだろうと思えるクルマ。そんなクルマは滅多にない。自動車に対する手慣れた見識と作り込みがそういう完成度にフォレスター2.5を仕立てさせたとも言える。それは富士重工が長きに渡ってクルマを造ってきた集大成であり、手の内に収めた技術で仕上げた卒業制作のようなものだろう。
フォレスター2.5は、2018年の今、とても良いクルマだと思う。恐らく何十年か経って思い出したとき、「あれは良かったなぁ」と思えるだろう。しかしながら、とここでまた主張が裏返る。それは過去の集大成であって未来を志向していないのではないかと思う。
富士重工とSUBARU
環境規制が年々厳しくなる中で、より実走行に近いWLTP(Worldwide harmonized Light vehicles Test Procedure)での燃費や、CAFE規制(企業平均燃費)といった規制をクリアしていくためには、いやもっと直截な言い方をすれば、自動車メーカーとして生き残るためには、2.5リッターと言う大排気量水平対向はいずれ切り捨てざるを得なくなる確率が高い。
現状では「2.5とe-BOXERの燃費の差は乗り方次第」とSUBARUは言うが、両者の間には残された伸び代の差があるはずだ。だからこそ富士重工はSUBARUに社名変更をし、e-BOXERで未来のためのチャレンジを行なっている。筆者は、2.5は富士重工のクルマであり、e-BOXERはSUBARUのクルマに思えるのだ。
チャレンジは試行錯誤であり、蹉跌(さてつ)を伴うのはやむを得ない。e-BOXERはそのための一歩なのだと思う。変わらなければ未来はないし、未来がなければ技術があることの意味がない。
だから乗り手はそのどちらを選ぶのか、選択を求められている。「失われゆく佳きもの」として富士重工の集大成である2.5を選ぶのか、はたまたSUBARUの「未来への期待」を込めてe-BOXERを選ぶのか。SUBARUによれば、4割の人が試乗車すらない状態でe-BOXERを選んだという。
関連記事
- 新型フォレスターのふくよかなリズム
スバルは新型フォレスターを7月19日に発売する。フォレスターはスバルブランドの最量販車種となるSUVであり、それに新世代シャシーであるSGP(スバル・グローバル・プラットフォーム)が導入されたことが今回の最大のポイントだ。では、実際に乗ってみてどうだったかというと……。 - え!? これクラウンだよな?
トヨタのクラウンが劇的な進化を遂げた。今まで「国産車は走りの面でレベルが低い」とBMWを買っていた人にとっては、コストパフォーマンスがはるかに高いスポーツセダンの選択肢になる可能性が十分にあるのだ。 - 世界が知らない“最強トヨタ”の秘密 友山副社長に聞く生産性改革
トヨタがレース活動を通じて働き方改革を推進する理由。トヨタGRカンパニーのプレジデントである友山茂樹副社長へのインタビュー取材によって、なぜそんな大胆な改革が可能なのかを究明した。 - 名車の引退を惜しむ スズキ・ジムニー
スズキ・ジムニーが引退した。直接の理由は道路運送車両法改正による「横滑り防止装置」の義務付けだ。現代の名車としてのジムニーを多くの人に知ってもらいたいと今回筆をとった。 - 雪上試乗会で考えるスバルの未来
スバルは、青森市内から八甲田山、十和田湖を経由して安比高原までのコースを走るアドベンチャー試乗会を開催した。日本屈指の過酷な積雪ルートでスバル自慢のAWDを検証してくれというわけだ。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.