エンタープライズ:ニュース 2003/10/14 02:06:00 更新

Oracle vs. DB2――仁義なき戦い データベース編
第8回 オートノミック機能を組み込んだIBM DB2こそ「データグリッド」の先駆け

「エンタープライズグリッド」をうたうOracle 10gが国内でも正式発表された。しかし、グリッドに最も力を注ぐベンダーの1社であるIBMは、DB2こそ「データグリッド」の先駆けと反論する。

 9月上旬、サンフランシスコの「OracleWorld 2003」で披露され、先ごろ国内でもデビューした「Oracle 10g」がその後、ちょっとした物議をかもしている。「g」が「グラム」に読めるといった類のことではない。この「g」が「グリッド」であることは、既にいろいろな記事で紹介したが、どうやら正統派からはOracle 10gがグリッドコンピューティングの要件を正しく満たしておらず、勇み足だという指摘がある。ITベンダーにありがちな、マーケティングのためのネーミングだというのがその主張だ。

 実際、Globus Allianceのリーダー格であるアルゴンヌ国立研究所のイアン・フォスター氏(シカゴ大教授)は、グリッドコンピューティングのことを「異機種、分散で組織を超えた仮想的なコンピュータが1つの仕事を処理するもの」と話している。Globus AllianceはIBMらと共同で、グリッド技術をビジネス分野にも応用できるようにするため、Webサービス標準をベースとしたグリッド管理ソフトウェア「Globus Toolkit」を開発している。

 彼らによれば、グリッドコンピューティングは、3つの基本的な特徴を持つという。一つは、さまざまな管理ドメインに分散しているユーザーを統合・調整すること。もう一つは、標準でオープンなプロトコルとインタフェースを利用すること。そして最後は、「QoS」(Quality of Services)を提供することだ。

 最初の「分散」という特徴については、CPU資源をかき集める「コンピューティンググリッド」やデータの格納先をかき集める「データグリッド」など、既に多くの取り組みが知られている。例えば、あのティム・バナーズ・リー氏がWebを生み出したことでも知られるスイスの高エネルギー物理学の研究所、「CERN」(欧州原子核共同研究機関)の試みがそうだ。加速器を用いた素粒子物理の実験から生成される膨大なデータを解析するため、欧州全土のコンピュータを接続するプロジェクトが数年前から進められている。

 実はCPUとデータのグリッドというのは不可分といえる。計算させるためにはデータが必要になるからだ。Globusでも科学技術分野で使われるフラットファイルのためのデータグリッドに取り組んでいる。

 しかし、データはフラットファイルだけではない。企業の情報はむしろデータベースに格納されていることが普通だ。次にスポットライトが当たるのは、データベースのグリッドだということはだれもが同意するところだ。さらに、Globusのフォスター氏も指摘しているが、企業などに広く採用されていくためには、QoS(サービス品質)、つまり電力サービスのような安定さが必要になる。

 Globusと共にグリッドのためのオープンな標準プロトコル「OGSA」(Open Grid Services Architecture)を提案したIBMは、グリッドに最も力を注いでいるベンダーと言っていい。現CEOのサム・パルミサーノ氏は、就任を翌月に控えた2002年2月、「IBMの将来はグリッドにあり」とさえ話している。あらゆる製品にオートノミック(自律型)コンピューティングの機能を組み込み、来るべきグリッドコンピューティングの礎としようとしているのだ。

グリッドに欠かせないオートノミック

 パルミサーノCEOの下、全社を挙げて「e-ビジネス・オンデマンド」を推進するIBMは、それを支える技術として、「グリッド」(仮想化)、「オートノミック」および「Webサービス」という3本の柱を位置付けている。メインフレームによる集中処理から、異機種混在環境における分散コンピューティングへと主役は交代したが、システムの安定稼動という点では多くの課題を残したままだ。

 「グリッドに欠かせないのがオートノミック技術。そこに最初に着目したのはわれわれIBMだ」と話すのは、日本IBMグリッド・ビジネス事業部の関孝則技術理事。

 IBMでは、異機種分散型でシステムを構築しようという先進的な顧客、例えば、チャールズシュワブ、三菱銀行、ボーイングらの声を聞くことによって、システムを構成する各コンポーネントが自律的に管理され、あるポリシーに従って運用されていくことの重要性を早くから認識していたという。e-ビジネスのインフラにおいては、組織を超えた連携が前提となる。異機種分散型のシステムであっても、高いサービス品質を実現し、なおかつTCOを引き下げるためには、管理の簡素化が避けて通れない。リソースをかき集めて1台の大きなコンピュータを作り上げるグリッドは、同時に効率的なシステムの構築を目指す先進企業らが求めていることでもあるのだ。

 関氏は、「同じ課題に違う方向から取り組んでいた」とオートノミックとグリッドの関係を表現する。

DB2“II”はグリッドの先駆け

 30年前、シリコンバレーのIBMラボで産声を上げた「リレーショナルデータベース」は、現在データベース管理ソフトのメインストリームとなっている。その本家とも言うべきDB2のイノベーションは、分散と仮想化の歴史でもある。1980年代の「R Star」(分散データベース機能)、1995年の「Starburst」(マルチメディア対応)、1999年の「Garlic」(フェデレーション機能)、そして現在改良が進められている「Xperanto」(XML対応で情報統合)などが特筆すべきマイルストーンだ。

 企業の情報は、そもそも一カ所に集めることが極めて困難だ。自動車を購入した顧客のデータベースを例にとってみても、メーカーとディーラーがばらばらに管理しているに違いない。顧客から見れば、一つのつながりのある情報なのに、組織を超えて共有されていないのが現状だ。

 「組織を超えた異機種分散型において、“このデータベースで統一してくれ”というのは本来無理がある」と関氏はOracle 10gのアプローチに異を唱える。

 DB2は、その進化の歴史の中で、先に触れたフェデレーション機能によって、さまざまなRDBMSにまたがる仮想ビューを既に実現している。5月に正式発表された「DB2 Information Integrator 8.1」は、それらを切り出し、さらに拡張を図ろうという製品群だ。

 「オープンなグリッド標準が確立されていない段階だが、DB2 Information Integratorはデータグリッドのための基本的な機能を備えている。これはデータグリッドの“先駆け”となる製品。標準が確立されればいち早く対応していく」と関氏は話す。日本IBMでは11月7日、都内で「DB2 Day Autumn 2003」カンファレンスを開催し、同社のデータグリッドソリューションを披露するという。

関連記事
▼グリッドの幕開け、Oracle 10gが国内デビュー
▼日本IBM、金融市場向けグリッドコンピューティング事業強化
▼Opinion:Oracleのエンタープライズグリッドを解体する
▼OracleWorld 2003 San Francisco Report
▼Oracle vs. DB2――仁義なき戦い データベース編
▼IBM、自社製品のグリッドコンピューティング対応を拡大
▼IBM Software World直前レポート:第2回 DB2 Information Integrator正式発表へ

関連リンク
▼DB2 Day Autumn 2003サイト
▼日本IBM

[浅井英二,ITmedia]