エンタープライズ:ニュース 2003/10/23 09:34:00 更新


Oracle 10gのグリッドは「現実的グリッド」

OracleWorld 2003 Parisでデータベース製品を統括するロズワット執行副社長がプレスブリーフィングを行った。「企業ではすぐ使えるグリッドが必要。既にコンポーネントもある」とし、Oracleの現実的なアプローチを強調した。

 Oracleが打ち出した「グリッド」は、欧州でも話題を呼んでいる。「OracleWorld 2003 Paris」会期中のセッションでも、「IBMとどう違うのか」という質問が会場から出されるなど、うまく図が描けないユーザーも多いようだ。10月22日、Oracleサーバテクノロジー担当執行副社長、チャック・ロズワット氏はプレス向けカンファレンスを行い、Oracle 10gのグリッドについて説明した。

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データベース製品を統括するロズワット執行副社長


 9月上旬、サンフランシスコでOracleがグリッド戦略を打ち出して以来、業界の間では「グリッド」という名称は不適切ではないかという声が上がるなど、ちょっとした混乱が起きている。ロズワット氏は、「電気や水道などの公共サービスのように、背景の技術を気にすることなくコンピュータにアクセスする」のがユーティリティコンピューティングで、同社のグリッドは「このユーティリティコンピューティングを得る方法だ」と説明した。

 「10gが画期的な点は、これまで学術分野で開発・利用が進められてきたグリッドを、実際に使える製品にしたところだ」(ロズワット氏)。

 グリッドはインターネット以来の技術的革新であり、その潜在性は未知数。しかし、Linux、安価なブレードサーバの登場、SANやNAS、ストレージ仮想化、ネットワークなど、基盤となる環境は整いつつある。先ずはできるところから実現していこうというのが、Oracleの戦略だ。

 「グリッドを構成するコンポーネントは既にある。現実に構築できる」とロズワット氏は強調する。

 ロズワット氏は「クラスタはグリッドの一部」としているものの、グリッドの中心は同社が2年前に発表したRAC(Real Application Clusters)技術にある。2800以上の顧客を持ち、高い評価を得ているというRACは、複数台のデータベースを接続することで可用性や信頼性の実現を目指した技術。今回は、ストレージをグリッド化するソフトウェアもOracleが提供するとともに、運用管理機能を大幅に強化することで、複雑性をソフトウェア側で吸収し、システムの仮想的統合を実現した。Oracleはそれを「グリッド」と呼ぶ。

 もちろん、Oracleのグリッドは完成されたものではない。今後もオートノミック機能など、ユーザーの適用ペースを見ながら技術革新を製品に盛り込んでいくという。ロズワット氏は、グリッドの展望として、まずは企業のデータセンターで実装され、その後ホスティングサービスやアウトソーシングモデルに移行するのではないかと予想した。

 記者からは、同社が結成しようとしているグリッド標準策定コンソーシアムに対する質問も出た。これまでこの分野は、4、5年前からGlobal Grid Forum(GGF)の下でグリッド技術の標準策定が進められてきた。その作業のリファレンスモデルとして「Globus Toolkit」も提供されている。IBMをはじめ、Oracle自身ももちろん、こうした枠組みに参加しているが、Oracleは9月のOracleWorld San Franciscoで、エンタープライズ環境でのグリッドを推進すべく、新コンソーシアム結成を発表した。

 これについて、ロズワット氏は「学術分野で用いられるグリッドと、政府や企業が必要とするグリッドは違う」とし、「企業や政府で今すぐ使える標準が必要」とコンソーシアム立ち上げの理由を説明した。

 例えば、学術分野のグリッドでは情報共有をベースとしているが、政府や企業のグリッドでは情報は共有せず、セキュリティが重要となる。新コンソーシアムでは、そのような点を踏まえて標準策定を進めていくという。その一方で、GGFでの取り組みも継続する。「(GGFと)競合するつもりは全くない。むしろ、GGFを加速できるのではないか」と話した。

 気になるマイグレーションだが、「Oracleは古いバージョンをサポートする企業だ。(移行を)強制するつもりはない」と主張しつつも、9i、8iの顧客に対し容易なマイグレーションを提供する。変更を加えることなく、直接10gにアップデートが可能という。

 また、「まだまだ多い」というメインフレームユーザーに対しては、10gのメリットを積極的にアピールする。ちなみにこの日、同社は欧州最大手コンピュータベンダーである富士通・シーメンス・コンピューターズとミドルウェアで提携し、富士通・シーメンスのミドルウェア製品群「OpenSEAS」(TPモニタなど)とOracle Application Server 10gを統合することを発表している。

 「グリッドにより、メインフレームから移行できる環境が整った」とロズワット氏は話す。

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[末岡洋子,ITmedia]