SAPのビッグバン導入をパワーユーザー主導で成功させたジーシーSAP導入事例

 旅行で海外を訪れたときに言葉や商習慣、人々の考え方の違いに触れることがある。だが、企業が海外でビジネス展開する際には、それとは比較にならないほど厳しい現実に直面する。こうした高いハードルを越えるために、株式会社ジーシーはSAPというグローバルスタンダードのERPを採用した。同社では、各業務部門からメンバーを選出してプロジェクトチームを編成、ユーザー主導でシステムの検証、評価、導入を行った。ジーシーは、BPR(業務改革)とERP導入を同時に行ったが、グローバル展開の戦略ツールとしてSAP導入に成功したことで、自社の強みである品質管理を強化することができた。

» 2006年03月17日 00時00分 公開
[ITmedia]
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グローバルに展開するジーシーのERP導入背景

 

 ジーシーは、歯科材料および関連機械器具の設計、製造、販売を行う会社で、「1. 口腔保健の向上を通じて地球社会に貢献する」「2. 企業品質の向上を図り、お客様の信頼にお応えする」「3. 敬愛に満ち、明るく活力にあふれた”なかま集団”を形成する」という経営理念の下、製品の品質を重視したグローバル経営を展開している。

 歯科医療における技術革新や新素材開発のスピードは日々加速している。市場の変化に対応したスピード経営を実現するためには、経営における迅速な意思決定をサポートするITが必要不可欠となっていた。また、自社の強みである品質管理や市場に対応した製品の供給を、グローバル市場でも実現できるインフラの確立も課題になっていた。

オフコン20台を撤去、SAPをグローバル展開の起点に

 SAP導入以前のジーシーの基幹システムはオフコン20台で構成し,財務会計、管理会計、販売管理、生産管理、在庫・購買管理を行っていたが,多くは自社開発のバッチシステムでシステム間の整合が複雑になり経営情報を始め各種の資料作成に時間がかかっていた。新システムの再構築にあたり、システム間がシームレスであり,原材料から製品、販売先までの一気通貫のトレーサビリティ機能が必須であった。さらに、リアルタイム情報を経営に提供する事が課題であった。 将来的には海外子会社への展開を踏まえた情報システムが求められていた。

 そこで、次のような狙いを定めてSAP導入を決定した。

◆迅速な意思決定によるスピード経営の実現 

◆市場の変化に迅速に対応できるよう「スピードは2倍、コストは1/2」

グループ経営・業務基盤の再構築 

生産・受注・在庫情報のリアルタイム共有化、グループ経営に必要な、ITを活用した情報システムの革新と情報の一元化


    導入手法 

◆トップのSAPビックバン導入への強い意思表示による導入キックオフ 

◆SAPおよび導入パートナーのコンサルタントを非常駐として、パワーユーザーによるプロジェクトチーム主導で導入 

◆各業務部門から選出したメンバーをパワーユーザーとして養成 

◆導入目的とシステム操作の理解を得るために、プロジェクトの早い段階からエンドユーザー教育をパワーユーザーが実施 

◆社内業務とSAPの適合性を確かめるために、3回の検証プロトタイプ評価を実施 


    導入状況 

◆導入拠点:本社、2子会社、1工場(導入時) 

◆導入期間:1年6カ月 

◆導入範囲:財務会計、管理会計、販売管理、生産管理、在庫・購買管理。なお、現時点では拠点展開およびR/3 Enterpriseへのアップグレードなども実施している。 

SAP導入による成果

 ジーシーにおけるSAPは「GREENシステム」という名前で1999年9月より稼働した。そのシステムの完成度は高く、日本科学技術連盟からのデミング賞実施賞*1・日本品質管理賞*2の受賞の一翼を担った。主な導入効果は次の通り。

◆全製品のトレーサビリティと品質管理レベルの向上に成功。国内向け製品のみならず海外輸出製品の短納期化を実現 

◆在庫の30%削減(金額ベース)、並びに品切れ率の40%改善(1%→0.6%)に成功 

◆月次連結決算データの5営業日化を実現 

◆生産計画サイクルを月次から週次に見直し、在庫精度を上げリアルタイムの販売実績データを活用し、売れ筋商品をタイムリー生産することに成功 

◆情報システム費用の削減(オフコン20台分のリース費用を削減) 

◆経費の内訳を社員や使途、日付に至るまでブレークダウンできるようになるなど、業務の透明性や社内の情報開示が飛躍的に向上 

ERP導入成功の要因

 ジーシーがSAPの導入に成功した要因は2つ挙げられる。

 1つは、情報システム部門にシステム構築を任せるという従来型の考え方から、各業務部門の実務担当者を選出し、彼らへ徹底したSAP導入教育を行いパワーユーザーにSAPの機能を理解させる事から始めたことである。これにより、BPR(業務改革)をエンドユーザー主導で行うことが可能になった。この事により業務とSAPの適合性を3回の検証プロトタイピングで評価し自社の業務にマッチした完成度の高いシステムとする事が出来た。

 もう1つは、モジュール単位の導入ではなく、財務会計、管理会計、販売管理、生産管理、在庫・購買管理といった複数モジュールのビッグバン導入(一括導入)を実現し、個々の部門の枠を超えて経営情報を共有したことだ。これは、従来は20台ものオフコンに分断されていた情報が、経営意思決定情報として統合的かつ迅速に利用できるようになったことを意味する。

 この導入では、全社員がプロジェクトに参画したパワーユーザーを介して目的を共有することができた。結果として、社員が全社最適を強く意識しながら、新システムへのスムーズな移行も可能になるという好循環を生み出したのだ。

ジーシーのERP導入事例は、多数の事例の中でも「ERPを戦略ツールとして使いこなした」という意味で非常に優れている。ERP導入を単なるITのリプレースプロジェクトとせず、全社レベルの「意識改革プロジェクト」として位置付けたことが、高い導入効果とプロジェクト成功の要因となったと言えよう。

ポイントは何よりも、業務部門より選出したSAP導入メンバーをパワーユーザー化し、かつ主導でERPのビッグバン導入にチャレンジしたことにある。

*1 - デミング賞実施賞:TQM(Total Quality Management)を実施して顕著な業績の向上が認められる企業に対して授与される年度賞。経営理念,業態,業種,規模および経営環境に応じた明確な経営の意思のもとに、積極的な顧客指向の経営目標・戦略が策定されていて、経営目標・戦略の実現に向けてTQMを適切に実施且つ著しい効果をあげている企業が受賞対象。

*2 -日本品質管理賞:デミング賞実施賞受賞後、受賞年度を含め3年以上、企業環境の変化の中で「TQM」を継続して重点的に実施し、着実かつ効果的に企業目的を達成しつつある企業または事業部に対して授与される。

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提供:SAPジャパン株式会社
制作:ITmedia エンタープライズ編集部/掲載内容有効期限:2006年3月31日