SAP導入でグループ共通の経営基盤を確立し、少子化の逆風下でもグローバルな成長を目指す − ベビー用品のコンビ SAP導入事例

» 2006年03月16日 00時00分 公開
[ITmedia]
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  ベビー用品の製造、販売を中核事業に、新たに通販チャネルを利用したベビー関連のアパレル事業を展開しているコンビ株式会社。 創業は1957年で、来年50周年を迎える老舗企業である。現在はフィットネスや健康機器を扱うヘルス事業のコンビウェルネス、育児環境支援事業としてオムツ替え用のベビーシートやベビーキープ、さらに保育事業を展開するコンビウィズという国内3社体制で事業を展開している。さらに、アジア地域や米国にも販売や製造のグループ企業を複数擁し、グローバル企業としての位置を確立しようと「ブランド認知度」「クォリティ(広義の品質)」「人と組織の活性度」の3つをビジョンとして掲げている。

 コンビでは、ビジョン及び中長期戦略計画の実現を想定し、社内のITシステム整備が求められていた。世界中のコンビ関連企業でコミュニケーションをうまくとり、業務のスピードを上げるために、経営や在庫の情報を1カ所に集める必要があった。さらに、グループ内のどの会社で働いていても、全く同じように仕事ができる環境を構築することも目的だった。それを目的にまずは国内、そして将来的には海外の各拠点でも利用できるERPの導入を実施することになった。

「グローバル企業」コンビのERP導入の背景と選択基準

 コンビは、いきなりERPパッケージを選定するのではなく、最初に業務改革プロジェクトの活動を始めた。ここでは、業務のあるべき姿を考え、業務の標準化を検討することになる。業務改革プロジェクトには、ERPの導入とは関係のないコンサルタントが参加し、業務改革について検討していた。その過程では、業務改革のために全社的規模でのERPを導入しようという話題が議論されたという。

コンビ株式会社 IT&業務改善室 室長 山田 徹也 氏

 「業務改革プロジェクトで十分検討をして、そのあとにERPを活用して実際の改革を実施したので、現場での理解は比較的早かったと思います。経営層も業務を標準化することには理解を示していたので、その面でもプロジェクトをスムーズに進めることができました」と話すのは、コンビ株式会社IT&業務改善室 室長の山田徹也氏。同氏は、コンビ株式会社のITシステムの企画、運営の責任を持つだけでなく、コンビグループ全体を俯瞰してIT戦略を立て、それを実施していく立場にある。

 同じシステムをみんなで使って情報共有を図り「見て、触れて、感じることを共有する」がコンビのIT化の概念だ。そのために、世界で利用できるERPを導入することになる。実施に当たり、複数の統合パッケージが検討された。

 山田氏は「最初に自社の業務領域に関する450個ほどのQ&Aを各ベンダーに提示し、それに対する回答を基に製品の一次的な絞り込みを実施した。その後は個別にベンダーと向き合い、最終的にSAPのR/3(mySAP ERP)を採用するに至った」と話している。

導入プロジェクト成功のポイント

1. 導入コストの抑制 

 ERPパッケージの導入費用の大きな部分を占めるのがコンサルタントなどの人件費なので、それをいかに抑えるかが1つの課題だったという。

「SAP導入で問題になったのはコストです。特に、導入費用が高くなりそうなことが懸念されました。SAPジャパンの協力により、信頼でき、経験に基づいた効率のよいリーズナブルな開発を行ってくれるパートナー企業を紹介してもらいました。導入期間が長くなればコストがかさみます。なるべく短期間で終えたい。なおかつ、社内のみんながプロジェクトに対し熱い思いをもっているうちに導入したいと考えました。1年半、2年という長い期間を掛けては、事業計画が変わってしまうかもしれません。そのため、導入に1年以上かけるつもりはありませんでした」(山田氏)

 今回のプロジェクトでは、実際に1年余りでSAPシステムの導入を終えている。生産管理や販売管理など一気にすべてのモジュールを導入したかったが、国内での四半期開示の必要性から、まずは決算の早期化を目指して会計モジュールの国内3社への導入が優先されたという。

 実際に、会計システムの導入は半年以内に行われた。国内3社の会計システムは、従来別々のものが稼働しており、統合に手間取っていた。行っている事業も異なるので、3社間で勘定科目も異なる。ここで、複数の勘定科目表があっても1つの会計システムとして取り扱えるSAPの機能が威力を発揮することになる。

2.派遣社員とウェルカムルームの有効活用 

導入にあたって特に大変だったのが、社内に専任としてプロジェクトに参画できる人員があまり多くなかったこと。ほとんどのメンバーが現業の業務との兼任だ。これに対し、数名の派遣社員を採用して、専任でプロジェクトに参加してもらうという方法が採用された。

 導入するモジュールごとに、最低一人の専任の派遣社員が担当することになる。派遣社員に最初に依頼することは、SAP導入後の新しい仕事のやり方をしっかりと身につけてもらうこと。そして、ユーザー向けの説明会では、派遣社員自身が講師となり説明を行う。さらに、新しいシステムのユーザーマニュアルの作成も派遣社員の仕事だ。

本番が始まる3カ月前には、ウェルカムルームが開設された。ここは、全社への説明会後でも、新しい業務について知りたければいつでも説明をしてもらえるという場所だ。もちろんここには、先に登場したプロジェクト専任の派遣社員がいて、新しいSAPシステムの使い方についてレクチャーしてくれる。本番稼働後には、派遣社員は社内のヘルプデスク担当となり、稼働後のサポートを引き続き実施するという形をとった。コンビは、派遣社員の活用というアイデアで、コスト削減だけでなく、実際に現場で利用しやすい優れた環境を構築できたのである。

 「コンサルティング会社に頼めば細かい運用マニュアルから教育に至るまですべてを提供してくれます。しかしながら、コンサルタントに何から何まで頼んでしまってはコストが増大してしまいます。そこで、派遣社員の参画に踏み切りました。SAPのパッケージはもちろん、コンビの業務のことも知らないために最初はかなり苦労しましたもののが、逆に、派遣社員は「何も知らない」という最大の武器を持っていました。結果的に、まっさらな状態から知識を身に付けた派遣社員は、誰よりも分かりやすいマニュアルを作ってくれるなど、社内でも評判になるほど質の高いアウトプットを提供してくれたのです」

 特に海外のERPの導入においては、トップダウンでコンサルタントに任せることが多い。今回のコンビの事例では、会社全体がプロジェクトに参画する方法を取れたことが成功のポイントになった。実際に、現場ですぐにシステムを利用してくれるようにできたのも、「習うよりも慣れろ」で100%出来上がっていなくてもどんどん使ってもらう。そのための方法として、ウェルカムルームを作ったり、派遣社員を活用したりするといったアイデアが、結果的にプロジェクトを成功させた大きな理由と考えられる。

顕著だった導入効果

1.定量的効果:決算処理日数短縮、在庫削減、システム運用コスト削減 

具体的なシステムの導入効果はどうだったのだろうか。決算処理に関しては、従来は実働で50数日を費やしていたが、SAP導入後は30日を切っているとのこと。さらに、在庫に関しても、54日ほどだったものが現状は40日分くらいまで削減されている。

 システムの運用コスト面でも効果は出ている。従来は、生産管理システム、販売管理システム、そして関係会社ごとに存在していた会計システムに対し、それぞれにIT担当者が付いていた。これが、システム統合により1カ所で管理する体制を実現できたため、生産管理システムでは5人いた担当者を2人に、そして関係会社のIT担当者の削減にもつながった。

2.定性的効果  ◆2-1 「見える化」による社内統制の強化 

さらに、SAP導入以前はモノの流れとお金の流れ、つまり、物流と商流が連携していなかったという同社だが、今ではしっかりとつながっている。導入後も過去の仕事のやり方のまま業務を続けていた部分も残っていたが、SAPでは「何かおかしいぞ」という数字で見えてきたという。

 例えば、過去においては、月単位、ひどい場合は年度内であれば、最終的に数字の辻褄が合えば問題ないという仕事のやり方をしている部分も一部あった。それがSAPの導入により「数字の異常」として発見できるようになった。それを発見して業務のやり方を改めるような活動は、今後早急な対応が求められる日本版-SOX法にも適用できると山田氏は指摘する。これらは、個別に業務プロセスを洗い出していても、属人化していてなかなか発見できるものではない。

◆2-2 業務とITの融合による情報システム部門の役割変化  

 かつて、山田氏が所属する部門の名称は「情報システム部」というものだった。いわゆるヘルプデスク的な問い合わせが多く、情報システム部という名前があるにもかかわらず、EDP室(電算室)と呼ばれることもあったという。これがSAPの導入を機に、組織の名前も「IT&業務改善室」へと変更された。社内で新たな業務を企画推進しようというときには、最初にIT&業務改善室に相談するという雰囲気がでてきたという。

 「今回の導入により、業務の流れイコールシステムだという認識が社内に出来上がってきました。今では「こういうことをしたいがどうしたらいいのか」という業務に関する質問が多く来るようになりました。業務運用に関することを常に考えなければならないので大変です。とはいえ、まず業務を意識し、それをSAPに載せてうまく回っていくかを考える。IT部門の仕事そのものが、いま変わってきました」

◆2-3 サプライチェーン体制の強化 

 さらに、従来は生産管理システムや販売管理システムも全く別のシステムが稼働していたので、それぞれのシステムの中間で人が行う作業がたくさんあった。人が介在しないとデータ連携できず、そのせいで会計処理にも時間が掛かっていたのだ。

 現在では、これらがSAPソリューションで1つに統合されたため、自動仕訳も実現して業務全体の効率アップが図られている。また、かつては生産物流部と販売管理部門がお互いに協業しながら需給調整を行っていたが、SAPを導入した段階で新しい組織として「サプライチェーンセンター」を設立した。同センターがサプライチェーンソリューションを使って一括して需給調整を実施する新しい体制となっている。

 「生産管理関連で問題になったのは有償支給に対応する部分でした。支給関係のモジュールがあるかないかでこの対応は大きく違ってきます。支給関連のモジュールがきちんとそろっていたことが、導入をスムーズにしたと言ってもいいでしょう。こういったモジュールは、国産のパッケージでないとなかなか提供されていないものです」

 山田氏は、コンビに入社する前に外資系企業などでERPパッケージの導入プロジェクトを幾つか経験している。その経験から、さまざまなプロセスがあってもSAPならプロセスを一本化せずに対応できることは理解していたという。さまざまな事業領域を持つ企業の場合には、同じモジュールを使いながら、複数のプロセスに対応することが現実的な解になることが分かっていたのだ。

今後は情報系システムと製品ライフサイクル管理に着手

 山田氏は、SAP導入を次のように振り返っている。「"お金の掛け方"としては、今回のプロジェクトは成功したと考えています。ただし、最初から100%理想通りにはいかないものだということも実感しました。今回の導入プロジェクトで、仕事のやり方、会社の体質が少しずつ変化してきています。この変化も踏まえると、100点満点で80点という点数がつけられると思います」

今後は、情報系システムとの連携や、製品の開発、技術との結びつきが課題となる。ここでは、製品ライフサイクル管理関連のソリューションについて、現在プランを立てているところだという。製造して販売する企業として、本来やらなければならない分野に力を入れるのだ。CAD、PDMを中心に、基幹系と連携し、製品開発から販売、利益の獲得、コストの回収までを管理できる仕組みを構築するわけだ。

日本のマーケットだけをみると、今後は少子化の影響でベビー用品の市場は厳しい状況が予測される。そんな中で、いかにコストを下げ、マーケットの拡大を見込める製品を生み出すか。そのために、システムをどう活用するかを考えていかなければならない。一方、海外については、国内と異なり少子化傾向があるわけではない。今後の展望として、海外のビジネスボリュームの増加に伴い、海外のグループ企業すべてにSAPを導入するという。また、アパレルの通販事業は規模が小さいながら成長率が高い。ここがさらに伸びてくるようであれば、現在システムとし外部に委託しているシステムを、自社運営も含めた新たなシステムとして仕切り直す構想も出てくることになる。

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提供:SAPジャパン株式会社
制作:ITmedia エンタープライズ編集部/掲載内容有効期限:2006年3月31日