なぜSAP ERPを導入するのか――女性衣料品通販ピーチ・ジョンの場合


 ピーチ・ジョンは、女性向け下着や衣料品などのカタログ通販で人気を集める企業だ。1994年6月に設立後、順調に業績を伸ばし、2006年5月にはワコールがピーチ・ジョン株の49%を取得して資本提携、その後2007年11月にはワコールによる完全子会社化(2008年1月執行)が発表された。

 注目の急成長企業だが、正社員数は約150名と企業規模としては中堅だ。そのピーチ・ジョンが、来年の稼働を目指してSAP ERP導入プロジェクトに取り組んでいる。かつては大企業向けというイメージが強かったSAP ERPをピーチ・ジョンが導入するに至った理由は何か。プロジェクトをリードしているピーチ・ジョンの執行役員 菊組 経営戦略部 部長の守安 智氏と、SAPジャパンのバイスプレジデント 営業統括本部 地域営業本部の神戸利文氏が導入までのいきさつを振り返る。

ERP導入決断のきっかけは?

 両氏の出会いは、2007年10月28〜31日の4日間にわたり、宮崎のフェニックス・シーガイア・リゾートで開催された「SAPPHIRE '07 MIYAZAKI SEAGAIA」でのことだった。

ro_moriyasu01.jpg ピーチ・ジョン 執行役員 菊組 経営戦略部 部長 守安 智氏

神戸 SAP ERP導入プロジェクトに着手した目的を教えてください。

守安 核となるシステムは、2000〜2001年ごろに導入したオフコンベースのものです。通信販売の受注・在庫・配送管理が中心で、業務のカバー範囲は狭く、それ以外の部分は継ぎ足しで実装してきています。その結果、データの整合性の問題や現場・顧客の状況を素早く把握できないといった課題が顕在化しつつあります。

また、機能の修正に時間とコストが掛かるのも問題です。ビジネスのやり方を変えたくても、実現するためのシステム変更ができないといった状況が頻繁に発生します。放置すればビジネスに悪影響を及ぼすことが目に見えてきました。

 例えば、現在はインターネット販売・店舗販売がどんどん拡大しています。これまでカタログ通販時代の仕組みに継ぎ足すような形で対応を図ってきました。日に数回のバッチ処理でのシステム連携で対応していたのが実態です。受注システムの機能の不足によって、ウェブでの商品販売方法が制約を受けることもありました。

 2007年11月には、ワコールの完全子会社になることが発表されました。いわゆる日本版SOX法への対応を進めており、業務効率を損なうことなく、内部統制をより強化する必要があります。

神戸 SAPのお客様の中にも、残念ながらあいまいな問題意識しか持たない企業も少なくありません。しかし、ピーチ・ジョン様はWeb/e-コマースを含めた、成長のための仕組みづくりという明確な目標意識を持ち、検討されていたと認識しています。様々な背景の中で、SAP ERPを選定された理由は何でしょうか?

守安 ERPパッケージを選ぶ際にベンダー数社と話しました。一番気にしたのはビジネスプロセスのカバー範囲です。ピーチ・ジョンにはIT、特に基幹システム系のビジネスアプリケーションに関する知識を持つ人材は少ないからです。ERPパッケージがカバーできる範囲が足りない場合、ほかのシステムを組み合わせて補う必要が出てきます。そうした問題を社内で解決するには時間が掛かるので、最初からカバー範囲の広いERPパッケージが良かったのです。

 自社内で「プロセスのあるべき姿」を細かく描こうとは考えていませんでした。SAPはいわゆるベストプラクティスに基づいてシステムを設計しています。日本の市場に合うかどうかという判断は細部にはあるとしても、全体としては製品を信頼できます。

 一方、パッケージとはいいながら、実際には(現場の業務プロセスにERPパッケージを合わせる)カスタマイズの範囲が広く「やりたいことを言ってもらえれば対応します」というベンダーもあります。当社の場合、これだと、業務設計に必要な期間が期待より長くなってしまいます。全体最適を満たしつつ全領域について細部の設計をするスキルがあるという自信が持てないため、逆に導入期間が長くなり、コストも膨れ上がる懸念があったのです。そのようにカスタマイズして構築したシステムが本当に良いシステムになるかどうかも疑問です。

 システム化の範囲である「スコープ」で対象を絞り、さらにERPシステムの設計思想という点を評価したところ、ピーチ・ジョンが置かれた現状に対してはSAPのパッケージがベストだと判断しました。

パッケージへの抵抗感は?

 日本の企業ではカスタマイズを望む例が多いという。ピーチ・ジョンはこの点をどう考えたのか。

ro_kobe01.jpg SAPジャパン バイスプレジデント 営業統括本部 地域営業本部 神戸利文氏

守安 われわれの最大の強みは、消費者に喜ばれる商品の企画力やカタログ制作のノウハウにあります。それ以外の業務はERPパッケージで運用する方が、トータルで考えると業務精度があがると判断しました。効率が落ちる部分は部分的にあるにしてもです。ただし、事業特性や導入目的に照らして、標準機能では実装が難しい部分を極力絞り込み、あらかじめ明確にしておきました。

神戸 ピーチ・ジョン様からは現在の仕事のやり方を見せていただきながら、われわれはSAPならではの解決策を提示しました。当然違いがあるので、それを一覧にして、改善策を議論しました。また、「今はないけれども将来始めたい業務」もありました。それらも含めたシステムとしての実現性を検討しました。

守安 SAPならではの方法論を教えてもらいましたので、的確に判断できました。

神戸 お客様の業務にSAPのパッケージが合うのか、どのような差異があるかを判断するプロセスを、SAPでは「フィット−ギャップ」と呼んでいます。導入プロジェクトによっては、フィット−ギャップがプロジェクト開始後に実施されることもあります。後からギャップが出てきてしまい、対応に予想外の負担が掛かることもあります。ピーチ・ジョン様の場合は、SAPと契約してもらう前に、その時点で可能な範囲でのフィット−ギャップ作業を完了できました。そのため、後の進捗が円滑だった点も良かったですね。

 今回、一番時間を割いたのは「将来やりたいことをどう実現できるようにするか」という部分の検討です。

守安 システム導入を担当してもらうシステムインテグレーターについて、ピーチ・ジョンの場合は社内のスキルや予算、時間の制約があるため、SAP ERPを上手に使って、なるべく標準のまま導入できるベンダーを選ぶという方針を立てました。

 現場のユーザーの細かい要求を必要以上に聞くと時間も予算も膨らんでしまうので、要求を管理しながらもなるべく標準のまま導入作業ができるシステムインテグレーターを選びました。

神戸 従来型のITに強い導入ベンダーの場合は、システムをユーザーの業務に合わせて変更しようと考えがちです。そうするとお金も時間も掛かってしまいます。現場のユーザーは希望通りになって幸せかもしれませんが、会社としては無駄なコストかもしれません。

SAP ERP導入に不安はなかったか

 SAP ERPを導入する際に、規模が合わないのではないか、予算と合わないのでは、といった中堅規模の企業に多い悩みはなかったのか。その辺りにも踏み込んでみよう。

神戸 2007年10月末にSAPPHIREというイベントがあり、そこで初めてお会いしました。ピーチ・ジョン様は「何をしたいか」を率直に語ってくれました。SAPとしても、できること、できないことを明確に提示できたのです。有意義なコミュニケーションがカギでした。

守安 SAPというと、システム規模も大きく、高額の予算がないと難しいという印象が以前はありました。最近は中小規模の企業向けのビジネスを強化しており、購入しやすいパッケージを発売したという話もあったので、まずは話を聞いてみることから始めました。そこで、予算の目安などを教えてもらった結果、導入可能であると分かりました。

神戸 予算の見通しをきちんと持った上で、システムで実現したい内容のイメージも確立していたので、SAPとしても答えやすかった。円滑な話し合いをする際には重要です。

守安 以前はSAPのERPパッケージを導入するためには売上規模がもっと大きくないと難しかったかもしれませんが、今はピーチ・ジョンの規模なら充分に導入対象になるとのことでした。

 もう1つのポイントが導入期間でした。会計系から販売、物流などを含めると、一般に導入期間が長期に及びます。ピーチ・ジョンは、売上規模はあまり大きくありませんが、事業範囲は幅広いので、導入にも相応の時間が掛かる可能性があります。

 実際には、予想よりも短期で導入している例も多いという話でした。われわれの方針としても、なるべく標準のままで導入すると決めていたので、その点も、導入の見積もり期間が短い理由になっています。導入に前向きになった決め手です。

ro_pj01.jpg

SAP ERPのメリットとは

 さて、ピーチ・ジョンはSAP ERPを導入することで何を実現するのか。最も重要な点を聞く。

守安 よく言われるように、SAPのパッケージ導入によって、「PDCAサイクル」が回せるようになるのが最大の利点と考えています。従来は「売り上げ」という指標でしか把握できなかったものが、より細かい視点から事業状況を分析できるようになります。

 経営層、販売・仕入部門のみならず、商品企画やカタログ作成の現場からは「知りたい」という要望が出ています。現場は、思い入れを持ってつくったカタログなどの実際の効果が知りたいわけです。それを見ながら、商品や販売のやり方を変えていくという作業を繰り返すことで組織力が高まるのです。ピーチ・ジョンの次の成長のためには避けて通れない取り組みです。

 また、パッケージ導入というプロセスを通じて、業務改革を行い、カタログ通販・インターネット通販・店舗販売というマルチチャネルで、よりお客様に満足いただけるような商品・サービスの提供をしていきたいと考えています。

株式会社ピーチ・ジョン

女性向け下着を中心とした通信販売会社。
「元気・ハッピィ・SEXY」をコンセプトに、下着のほか洋服や小物、コスメなどを展開。
年4回・約200万部発行の通販カタログ「pj」のほか、全国に23店舗あるピーチ・ジョン・ザ・ストアやwebでも購入が可能。
www.peachjohn.co.jp




提供:SAPジャパン株式会社
企画:アイティメディア営業本部/制作:ITmedia エンタープライズ編集部/掲載内容有効期限:2008年7月31日