これからのビジネス成長に不可欠な“真の顧客起点”とは?IBM中堅企業フォーラム レポート

右肩上がりの時代は終わり、多くの日本企業が市場での生き残りにしのぎを削る中、ビジネスの原点である顧客の視点に立った取り組みが改めて重視されている。日本IBMが開催した「中堅企業フォーラム」では、ビジネスとITの両面から、今後企業が進むべき方向についてのヒントが数多く紹介された。

» 2011年12月15日 10時00分 公開
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 「お客様の視点でビジネスを」――よく耳にするフレーズではあるが、これほど実現が難しいものもない。小手先のサービスや配慮ではなく、経営の根幹に顧客を組み込んでビジネスを展開する真の“顧客起点”を実現するために経営者は何をすべきなのか。11月22日名古屋、11月30日東京で開催された「IBM中堅企業フォーラム」の講演内容から、新しいビジネスの形をひも解いていく。

100周年を迎えたIBMが取り組むSmarter Planet

日本IBMの下野雅承取締役副社長 日本IBMの下野雅承取締役副社長

 東京会場で開かれたフォーラムのオープニングでは、日本IBM 取締役 副社長執行役員 製品・サービス・オペレーション担当の下野雅承氏が登壇。米IBMが2011年6月で100周年を迎えたことについて触れ、「100年前はまだITがなかったが、顧客のビジネスを機械化・自動化するお手伝いから始めてきた。その原点はいまも変わらない」とし、この間にIBMが取り組んできたこと(東京オリンピックのオンラインシステム実現、アポロ11号の月面着陸支援など)を例示しながら、現在、IBMがグローバルで展開する「Smarter Planet(賢い地球)」の取り組みを解説した。

 Smarter Planetは「効率的な仕組みを作ることでビジネスや社会、ひいては地球に進化をもたらすことを目指す」をビジョンに、IBMが取り組む改革や価値創造のスローガン。スマートな都市構築「Smarter Cities」、スマートな顧客起点のビジネスやグローバル化への対応「Smart Enterprise」、ビッグデータやクラウドコンピューティングを活用しスマートな意思決定を迅速化する「Smarter Computing」を柱としている。

 下野氏は、「成長」「統制」「利益」の3つのエンジンと、「営業」「人事」「財務/経理」「IT」「協業/コミュニケーション」「アウトソーシング」「サプライチェーン」という7つのフォーカス領域を中心にしたSmart Enterpriseによって、中堅企業に新たな価値を提供していくと強調した。

従業員は経営者の“姿勢”を見ている

壱番屋の創業者特別顧問 宗次徳二氏 壱番屋の創業者特別顧問 宗次徳二氏

 特別講演に登場したのは、国内最大手のカレーチェーン「CoCo壱番屋」を展開する壱番屋の創業者特別顧問 宗次徳二氏。1978年に創業し、以来、独自の経営哲学を貫き、2002年に会長を引退するまで20年連続で増収増益を果たしてきた。特別顧問に退いてからも壱番屋は快進撃を続けており、2005年には東証一部上場、そして2009年には国内外あわせて1200店舗を突破している。現在では、海外にも60店舗以上を展開する。不況下にありながら成長を続けてきた背景には、まさしく宗次氏が提唱した“顧客起点”に根付いた経営スタイルがある。

 同社の経営理念として、宗次氏は、(1)苦労はすべて報われる(2)率先垂範、お客様第一主義(3)自分第一主義から現場第一主義へ(4)ライバルでなくお客様に向いた経営を(5)経営とは「継栄」(6)3つの標語「お客様 笑顔で迎え 心で拍手」「人生の成功は早起きに始まる」「店(会社)は掃除で蘇る」を挙げた。中でも宗次氏が講演中、何度も繰り返して効果を語っていたのが「早起き」である。

 「毎朝3時55分に起床、5時前には出社を創業以来ずっと続けてきた。この姿勢を貫いていれば、それに共鳴してくれる従業員やお客様が必ず集まってくる。経営者がフラフラしていても儲かったのは昭和まで。今は経営者自身が会社の鏡になっていると考えなくてはならない」(宗次氏)

 また、「ライバルが何をやろうとも関係ない。ライバルを見るのではなくお客様を見るべき」というのも、宗次氏が常に口にする経営哲学の1つだ。その顕著な例が、壱番屋は値下げ競争にはいっさい参加しないというスタイルである。宗次氏は「値下げでお客様を根付かせることなんてできるはずがない。割引券などモノやお金で釣るサービスもいっさいしない」と徹底している。社長時代も積極的に現場に出て行き、厨房で食器を洗いながら顧客を見続けてきた人の言葉だけに、そこには強い真実味が宿る。

 あまりにもシンプルだからこそ、実践が難しい顧客起点の経営。だが、それを愚直に実践し続けていくことが肝要なのだ。

ソフトウェアの活用が企業の競争力向上のカギになる

日本IBM ソフトウェア事業担当の金子岳人専務執行役員 日本IBM ソフトウェア事業担当の金子岳人専務執行役員

 続いて、「勝ち残るためのIT活用術」と題した日本IBMのセッションが行われた。最初に登壇したのは、日本IBM 専務執行役員 ソフトウェア事業担当の金子岳人氏である。

 現在、IBMは1000以上のソフトウェアを提供しているが、金子氏は大きく分けて「情報から洞察を獲得する」「ビジネスの俊敏性を向上させる」「運用効率性を向上させる」「ソフトウェア開発で、業務サービスと製品を変革する」「コラボレーションにより社員の力を強化する」「リスクやセキュリティを管理する」という6つの面で企業競争力の向上を支援するとしている。

 具体例として、「情報から洞察を獲得する」については、顧客ニーズの正確な把握と顧客満足度の向上を図るため、アンケートの一元化、分析結果の迅速なフィードバックやアクションを起こすプロセスを構築し、収益成長の改善などにつなげたゴルフ場運営のパシフィック・ゴルフ・マネージメントや、顧客一人一人に合ったメール配信と結果検証によりレスポンスやリピーター増につなげたファッションサイト「ZOZO TOWN」などが紹介された。

 映画「マネーボール」のモデルになったオークランド・アスレチックスのゼネラルマネジャー、ビリー・ビーン氏が行ったデータ分析手法も例として挙げられた。貧乏弱小球団となったアスレチックスをビーン氏はいかにして常勝集団に変えたのか。その秘訣は選手の年俸や人気にとらわれるのではなく、データから新たな知見を引き出し、武器にしたことが大きかったと金子氏は話す。

「原点に立ち戻る、どのような指標があるのかを洗い出す、重要視する指標を見直す、分析結果を信じて実行する。この4つの極意がビーン氏を支えている。特に結果を信じるというプロセスがなければ、情報には何の価値もない」(金子氏)

 「コラボレーションにより社員の力を強化する」の例として挙げられたのは、ソーシャルウェアを活用し、社内のコミュニケーションを活性化させたベルリッツだ。世界75カ国567拠点でビジネス展開する同社は、全社規模での人材把握と情報共有を行う、いわば“叡智を凝縮する場”を求めていた。そこでソーシャルソフトウェア製品「Lotus Connections」を活用し、企業ポータルという「タテ」のコミュニケーションと、企業内ソーシャルという「ヨコ」のコミュニケーションの融合と促進を図り、グローバルベースのベストプラクティス共有などが進められた結果、教材開発などで大きな成果を上げているという。

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ビッグデータとクラウド、そしてこれらを支えるハードウェアの進化

日本IBM システム製品事業担当の薮下真平専務執行役員 日本IBM システム製品事業担当の薮下真平専務執行役員

 ビッグデータおよびクラウド戦略について解説したのは、日本IBM 専務執行役員 システム製品事業担当 の薮下真平氏だ。薮下氏は現状の課題として、「モバイルデバイスの浸透により、これまでとは比較にならない規模と速度でデータが発生し、データ量が増大する」と指摘する。2015年には2兆を超えるデバイスがインターネットに接続し、Internet of Things(モノのインターネット)が進むと予測する。これに伴い、データセンターで扱うデータ量も増大し、データセンターの維持、運営にかかるコストが膨大になるという。

 データが増えていくのをただ見ているのではなく、よりスマートに活用するためには何をすべきなのか。薮下氏は「データを中心に設計され、ワークロードに最適化され、クラウドで管理されるIT基盤」が必要だと強調する。この未来形ともいうべきシステムが、IBMが4年をかけて開発した「Watson」だ。

 Watsonが米国のクイズ番組「Jeopardy!」において、2人のクイズチャンピオンと対戦し、勝利を収めたのは記憶に新しいだろう。従来、自然言語を分析し、適切な回答を瞬時に導き出すというのはコンピュータが不得意としていたことであるが、WatsonはPower 7搭載サーバがラック10本分、2880個のプロセッサコア、15テラバイトのメモリ、OSにはLinux、分散処理にはHadoopを採用し、自然言語で出題される問題を3秒以内で回答するというシステムなのである。「もちろんWatsonはクイズに勝つために作られたのではなく、ビッグデータを活用するために研究されたもの。他社が同じ能力を持つシステムを作ろうとしたら20倍のラックが必要だ」と、薮下氏はその先進性を強調する。

 ビッグデータを活用するためのソリューションとして、IBMは柔軟に容量を追加するストレージ仮想化技術「SAN Volume Controller(SVC)」と、1台でストレージクラウドを構築できるミッドレンジストレージ「IBM Storewize V7000」を提供している。

 クラウドに関しては、10月に発表した「IBM Starter Kit for Cloud」を紹介した。これまで1、2週間かかっていたITリソースの割り当て作業(申請受付、IPアドレス確認、VM作成など)を数時間で実現し、セルフサービスポータル、自動化、課金などの機能がパッケージとして提供されるため、中堅企業には最適なソリューションだといえよう。

 「自動化、標準化、仮想化という3つがそろって初めてクラウドコンピューティングといえる。顧客の関心も、仮想化・統合化からサービス化・自動化へと移りつつある」と薮下氏は力を込めた。

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中堅企業がグローバル展開するために必要なもの

日本IBM 理事 広域&パートナー事業 広域事業部長の伊藤昇氏 日本IBM 理事 広域&パートナー事業 広域事業部長の伊藤昇氏

 最後のセッションでは、日本IBM 理事 広域&パートナー事業 広域事業部長の伊藤昇氏がIBMのグローバル展開支援について説明した。

 伊藤氏はまず日本企業を取り巻く状況として、「天変地異などの不安定な要素に加え、円高、少子高齢化など構造的な問題も根強く、企業経営はまさにチャレンジの時代にある。こうした中、ビジネスを発展させていくためにはグローバル展開を視野に入れる必要がある」と語り、中堅企業においてもグローバル展開を検討している企業は少なくないとしている。

 そこでIBMはパートナーと提携し、中堅・中小企業のグローバル展開を支援する「Team Global」という活動を推進している。Team Globalが手掛けた顧客事例として、パートナーが展開する中国のクラウドサービスを製造業に提供し、ヘルプデスクも日本語と中国語で対応したこと、自動車部品製造の中国ビジネス3拠点立ち上げを1カ月で実現したこと、産業機械関連メーカーが日本で設計したデータを海外市場で展開するためのネットワーク構築・運用をサポートしたこと、などが挙げられた。

 伊藤氏は「海外でもクオリティの高いITサービスを使いたいというお客様の声に応えていくべく、パートナーと協力してワンストップで届けていきたい」と力を込めた。

 セッション後半では、伊藤氏とラバーソウルの住友英二会長が、「中堅企業のグローバル展開の実際」をテーマにしたパネルディスカッションを行った。

ラバーソウルの住友英二会長 ラバーソウルの住友英二会長

 ラバーソウルは、通販カタログやパンフレットなどのDTP事業を主に展開する印刷企業。現在、東京に16人、中国には200人、ベトナムに80人の従業員を配備し、ミャンマーでも法人設立の手続きを終えたところだという。東京の社員は主に営業要員で、印刷物の制作などは中国およびベトナムで行っている。どのようにラバーソウルは海外展開を推し進めていったのか。

 1995年に設立されたラバーソウルは、当初、100人ほどの社員を東京に抱えていた。しかしコストが膨らみ、札幌に制作部隊を移す。「東京よりはコスト高が解消されたが、根本的なレベルでは改善しなかった。そこで思い切って中国に拠点を移すことに決めた」と住友氏は振り返る。札幌で学んだ遠隔業務のノウハウを生かし、中国事業を開始したのは2003年のことだった。100人の日本人社員を16人に減らすまでいかにドラスティックな改革を行ったか、その本気度がうかがえる。

 ラバーソウルのポリシーは「グローバル体制の下、日本品質を徹底的に追求して提供すること」だ。ラバーソウルの顧客は100%日本企業であるため、中国やベトナムで作っているからといって品質を落とすことは絶対に避けなければならない。このため住友氏は、国民性の違いからくるワークスタイルの意識の差や、顧客が海外の現地社員に抱くセキュリティ上の不安などを徹底して解消すべく、多大な苦労をしたという。その甲斐あって、現在、中国の事業所はほぼすべて中国人社員であり、ベトナムの事業所に対する技術指導は中国人社員が行っているという。

 一方、海外進出に伴う一番の悩みは「人材不足」だという。募集をかければ人材はすぐ集まるが、採用はかなりチャレンジングであり、良い人材を確保するために「大学在学中から声を掛けて、幹部候補生として育てる」こともしている。特に中国はマネジメントも中国人社員に任せているために、高い能力を持つ人材の確保はラバーソウルにとって何より重要なことのようだ。

 最終的には東アジアを中心に巨大なネットワークを構築し、「1000ページのカタログを1日で作成できるくらいシステマティックな組織にしたい」と目標を語る住友氏。グローバル展開を目指す日本の中堅企業に対しては、「現地のスタッフを育てることが大切。任せられているという意識を持てば、彼らのモチベーションは大きく上がる。可能な限り現地のスタッフに任せるべきだ」とアドバイスする。

 少子高齢化などの構造的要因で飽和してきている日本市場だが、海外を目指すにはそれなりの覚悟を持って臨まなければ成功は見えてこない。そのための経験を積み、ITを含む準備をしっかりしておくことが、グローバル展開を成功させる上で欠かせないようだ。

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提供:日本アイ・ビー・エム株式会社
アイティメディア営業企画/制作:ITmedia エンタープライズ編集部/掲載内容有効期限:2012年1月31日

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