プライベートクラウド活用の“鍵”はミドルウェアにあり!ITジャーナリスト・新野淳一氏に聞く

企業のさらなる成長に向けて注目を集めるプライベートクラウド。しかし、その活用はまだ進んでいないのが実情だ。では、その理由はどこにあるのか。また、プライベートクラウドの普及に向け、どのような課題が残されているのか。ブログメディア「Publickey」を運営する新野淳一氏がそのポイントを解説する。

» 2014年02月13日 10時00分 公開
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垂直統合型システムが“切り札”に

 イニシャルコストの削減や運用負荷の軽減、さらに環境変化への即応を達成すべく、これまで急速な進化を遂げてきた企業システム。いまやシステム導入や更新時には、サーバ集約によるコスト削減策としてサーバ仮想化が当たり前のように検討され、その先にあるプライベートクラウドもIT基盤の柔軟性をさらに増すための“現実解”として視野に入り始めた。

新野淳一氏 新野淳一氏

 そのための基盤として注目を集めている、いわゆる垂直統合型システムの提供もベンダー各社から相次いでいる。ハードウェアとソフトウェア、さらにSIノウハウなどを事前に一体化して提供される垂直統合型システムのメリットは多岐にわたる。導入が容易であるほか、性能がベンダーによって保証され、手厚いサポートによりトラブル時の迅速な対応も実現されている点で、自社システムの構築時における問題が解決されている。まさに、今後のプライベートクラウドの普及に向けた“切り札”と呼ぶべき存在だ。

 ただし、現実に目を転じると、多くの企業にとってプライベートクラウドはまだ検討段階の一歩手前にあるというのが実情だ。それはなぜなのか。ITジャーナリストで、ブログメディア「Publickey」を運営する新野淳一氏は、その理由を次のように指摘する。

 「単純なサーバ仮想化であれば、仮想化ソフトを導入すれば環境整備が完了します。しかし、仮想環境の機能や能力を十分発揮させようとなると、ライブマイグレーションによるダイナミックなリソース変更のために、サーバやストレージ、ネットワークが連動して動作可能な環境整備が求められます。サーバやストレージ、ネットワークを別々に調達してこうした環境を構築するのは検証にも運用にも手間がかかります。垂直統合型システムは、確かに効率的な統合仮想環境を構築するための現実的な選択肢の1つです。ただし、これをプライベートクラウドに発展させていく上では、まだ技術的な成熟の余地が残されていると思います」(新野氏)

プライベートクラウド活用を阻むミドルウェアの機能不足

 先に新野氏が指摘したプライベートクラウドにおける“進化の余地”。それは、「仮想化の能力を十分に活用できるまでには、まだアプリケーション基盤としてのミドルウェアが成熟していない」(新野氏)という点に集約される。

 新野氏によると、現状、仮想環境は仮想化ソフトと管理ソフトウェアなどのレベルでは成熟が進みつつあり、サーバ仮想化、ストレージ仮想化、ネットワークでは「SDN(Software Defined Network)」など、さまざまな機能が出揃いつつある。

 そこで次の課題の1つはミドルウェアに移りつつある。ここで、より高いスケーラビリティがシステムに求められる場合を想定してみよう。アプリケーションに高い負荷がかかった場合、理想的にはミドルウェアのレベルでそれを検知し、最適な負荷分散方式やインフラ構成を判断してシステム全体を柔軟に再構成するといった処理を実行するのが良いと考えられる。だが、現段階ではまだミドルウェアが、仮想化基盤の持つ柔軟な機能を十分に活用できるほど成熟していないのが実情だという。

 「その結果、仮想化で享受できるメリットは現在のところサーバ集約程度にとどまっています。これがミドルウェアの進化によって、より効率性の高いアプリケーションレベルでの集約化へと進んでいくことが期待できますし、そうしたミドルウェアの進化は、仮想化によって統合したIT基盤がIaaS型プライベートクラウドへ進化したその先、さらにPaaS型プライベートクラウドへと進化する上でも重要なポイントではないかと思います」(新野氏)

アーキテクチャの転換を図れ

 新野氏は今後のミドルウェアの進化について、次のように断言する。

 「1つのミドルウェア上に複数のアプリを乗せ、アプリケーションごとにミドルウェアを分離したり、あるいはミドルウェアレベルでマルチテナントを実現する仕組みを持ち始めることは有効です。そうなれば、仮想化層とミドルウェア層のどちらでテナントを分離させるかといったことが柔軟にできるようになるでしょう。もちろん、選択の幅が広がる分、逆に設計は難しくなる可能性があります。しかし、現状よりはるかにアプリケーションの運用効率を高められるはずです。例えば、情報子会社であれば、グループ企業に対して、各種サービスの提供をより迅速に行いやすくなるでしょう」(新野氏)

 エンタープライズ分野で代表的なミドルウェアの1つであるJava EEでは、今後のロードマップにおいてミドルウェアレベルで仮想化基盤やIaaS型クラウドと連係したスケーラビリティの実現や、同一ミドルウェア上に異なる組織のアプリケーションを分離しつつ共存させるマルチテナントの実現などが予定されている。今後さまざまなミドルウェアで、こうした機能の実装が期待できるという。

 現在、仮想化したサーバやIaaS型クラウドでアプリケーションを稼働させている状況は、従来の単一サーバ上にミドルウェアをのせ、その上でアプリを稼働させるという、昔ながらのアーキテクチャの延長線上にあるものと言える。この先、クラウドの価値を引き出すためには、そこからの脱却につながる新たなミドルウェアへの転換が必要というのが新野氏の考えだ。

 「この1、2年で新たなミドルウェアの進化が目に見えるようになり、続いてアプリケーション側の対応やプログラミング技術の蓄積が進むはず。こうしたプロセスを経て、初めて真の意味でのプライベートクラウドの活用が実現されるはずです」(新野氏)

自社運用かアウトソーシングか

 こうした技術課題以外にも、プライベートクラウドの発展に向けた“壁”はいくつも存在する。例えば、仮想化やクラウドでは従来からのシステムと構成が大きく変わるため、ベンダーによってはソフトウェアライセンスの考え方が変わるケースがあり、適切な導入コストの見極めが困難になる場合がある。こうした中、調達の最適化のために不可欠となるのが、言うまでもなくベンダーとの継続的なコミュニケーションである。

 また、プライベートクラウドに加え、運用も含め外部にアウトソーシングする、いわゆるパブリッククラウドを採用する選択もある。両者には一長一短があるため、どちらを選択するべきかを慎重に検討している企業も少なくないだろう。

 もっとも、プライベートクラウドを選ぶかパブリッククラウドを選ぶかは、企業のITに対するガバナンスポリシーが大きな影響を与えるだろう。例えば、パブリッククラウドを選択した場合、トラブル発生時にもパブリッククラウド側の対応を見ているしかない。逐一対応状況を報告してくれるかどうかはパブリッククラウドベンダー次第であり、原因報告もWebサイトに掲載された情報を参照するだけ、というケースもある。

 「そういったガバナンスでも問題ない部分であれば、導入や運用を大幅に効率化できるパブリッククラウドによるアウトソーシングを採用するのも1つの手です。一方、細かな部分にまでガバナンスをきかすためITリソースを自社保有し、責任を持って自ら面倒を見るシステムもあるでしょう。その見極めは各企業の判断によって異なってくるでしょう」(新野氏)

 どちらを選択しても、クラウドでは従来型システムよりも運用負荷を軽減でき、アプリケーションの短期導入を期待できる点は共通する。それによって、IT部門に時間的な余裕が生まれ、より付加価値の高い業務に多くの人員と時間を充てられるようになる。

アプリケーション層のクラウド対応が業務部門にもメリットをもたらす

 ミドルウェアの進化によって、今後、クラウドの使い勝手がさらに高まることは確実だ。ハードウェアも進化を続けており、CPUやメモリ、HDDなどのリソースを小さな単位で多数配置し、各ハード間を高速なインターコネクトで結合しておくことで、必要に応じてリソースを切り出し、システムを構成するファブリック・コンピューティングの実現に舵を切るベンダーも登場している。これにより、複数台のサーバで構成される現状のクラウド基盤よりも、リソースの利用率や性能、障害発生時の保守性の向上が期待されている。

 「ファブリック・コンピューティング化が進めば、コンピュート、ストレージ、ネットワークを非常に緊密に連係させることになるため、これらのコンポーネントのすべてを持つ総合ベンダーが有利になって、ベンダーの合従連衡が進む可能性もあります。一方で、これらすべてに必要なコンポーネントをまとめて提供するベンダーの動きもあり、それによって各ベンダーの独自色が薄れ、製品選定は難しくなるかもしれません。こうした将来に備えて、ユーザーは今からでも幅広く情報交換に取り組むべきかもしれません」(新野氏)

 クラウドへのIT基盤の移行はまさに一大プロジェクト。その決断にあたっては、コストやリスクに見合うだけメリットが重要だ。それに対して大きな訴求力を持つと新野氏が力を込めるのが、アプリケーションレイヤーまでを含めたクラウド対応である。「ミドルウェア、さらにアプリケーションまで包含したクラウドのアークテクチャの策定が、クラウド利用の高度化に向けた“鍵”となるはず」と新野氏は強調する。

 クラウドの技術革新が基盤、ミドルウェア、アプリケーションの順に進むことはいわば必然と言える。古い基盤上では、いくら努力を重ねても劇的な成果は見込みにくいからだ。現状はミドルウェアが進化中だが、アプリケーションレイヤーでの進化が始まれば、IT部門はのみならず、業務部門まで広くメリットを享受できる。

 「ミドルウェアやアプリケーションの進化までにはあと3、4年を要すでしょう。それまでの間に、いち早く活用に乗り出せるよう、基盤の整備を済ませておくべきです」(新野氏)

 競合他社の成果を知り、あわてて活用に乗り出したのでは、競争が激しい今の時代において「時、既に遅し」である。プライベートクラウドの動向に敏感になり、早めに準備に取り掛かっておくことが、成功の“肝”と言えそうだ。

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アイティメディア営業企画/制作:ITmedia エンタープライズ編集部/掲載内容有効期限:2014年3月12日

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