パソコンの余力でアルバイト
将来は映画作りも? PCグリッドのススメ
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パソコンは、重いアプリケーションを起動しているときはともかく、通常の作業であればその能力の10%程度しか使っていないという。そこで、個人のパソコンの余力を多数まとめることで、スーパーコンピュータ(スパコン)並みの処理能力を得ようとするコンセプトが、PCグリッドだ。
古くはSETI@homeの「宇宙人探しプロジェクト」が有名だが、パソコンの処理性能向上や、ブロードバンド環境が普及したことで再び注目され、2002年12月からNTTデータにより、日本初の大規模実験「セルコンピューティング」も行われている。
セルコンピューティングの仕組み
個人のパソコンで処理したデータを、セルコンピューティングプラットフォームが1つに束ね、スパコン並みの処理能力を実現。「参加者のパソコンは最新のものに入れ替わっていくので、全体の処理能力が常に成長していくのも、通常のシステムにはないメリットです」(鑓水氏)
■セルコンピューティング
www.cellcomputing.jp
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「スパコンのシステムを作るのには、月額のレンタル料でも億単位という莫大なお金がかかります。それに比べて、PCグリッドのシステムは数千万円とコストが安く済みます。また、アメリカのある製薬会社のデータによると、スパコンで1週間かかった計算を、PCグリッドなら1秒で行えたというケースもあるそうです。つまり、安価にスパコン並みの計算が可能なのです。しかし数十万という人の協力がなければ、処理速度は速くなりません。そこで協力を得やすくするため、今回のプロジェクトでは計算量に応じてユーザーにポイントがたまり、プレゼントと交換できるようにしています」と、プロジェクトリーダーを務めるNTTデータ技術開発本部の鑓水訟氏氏は語る。
鑓水訟氏氏(中央)率いる、NTTデータのプロジェクトチームのメンバー。氷川佳子氏(右)と副田祐史氏(左)
利用者はサイトからソフトをダウンロードし、そのソフトを起動させておくだけ。パソコン能力を多く使う作業時には停止し、余裕ができればまた計算し始めるという仕組みで、普段の利用に支障なく、余った力でパソコンがアルバイトしてくれる感覚だ。現在2テーマの実験が行われており、いずれも実験期間は3月20日までを予定する。
4種類のDNAの周期性を調べ、遺伝子病の治療に役立てる「BOLERO」(図)と、どんな方向からでも反射するフォトニック結晶の構造を調べる実験「OPAL」の2テーマを実施。女性や子どもにも親しみやすいように、うさぎのキャラクター「セレスト」を配置。計算量などと連動して、キャラクターのアクションや格好が変化する
「PCグリッドは、1つの計算をしないと次ができないという作業には向かず、単純な並列処理に向いているシステムです。いま注目されているバイオの市場にはこの需要があるので、顧客企業を集めてこの2〜3年で本格的にビジネス化し、利用者が利益を得られる形で展開したいですね」(鑓水氏)
研究分野だけでなく、いずれはゲームや映画作りなど、エンターテインメント的なものへの活用も考えていると鑓水氏。余っているパソコンの能力を提供して、映画作りに参加できる日もくるかもしれない。
現在も進行中の主なPCグリッドプロジェクト
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