自発光ならではのコントラスト、LGエレの有機ELテレビ「65EG9600」を試す:山本浩司の「アレを観るならぜひコレで!」(2/2 ページ)
パナソニックのプラズマテレビ事業撤退で家庭用自発光ディスプレイの灯は消えた。そこに一石を投じたのが、韓国LGエレクトロニクスのOLED(有機EL)テレビ。液晶タイプに比べて値段こそ高いが、自発光タイプならではのコントラストのしっかりとした高精細映像で筆者を魅了した。
なんといっても、漆黒の表現がケタ違いにリアルなのだ、液晶タイプに比べて。この黒々とした漆黒の表現にはげしく心を掴まれてしまう。直下型バックライト&ローカルディミング採用の液晶テレビの黒再現はとてもよくなっているとはいえ、平均輝度レベルが低い場面に白ピークが入ってときにその周囲がぼわっと明るくなる不自然なハロと呼ばれる現象が起きたり、シーン・チェンジでディミング制御が遅れて画面全体の明るさがガタついたりすることがあるが、自発光の65EG9600ならばそんな現象に出会うことはない。この安心感はとても大きい。
また液晶テレビの主流であるVAパネル採用機のように、座る場所で色合いがシフトしたりコントラストが変化する不安定感がないのも本機の大きな魅力だ。狭視野角の問題は、液晶テレビが最後に解決しなければならない大問題だと、65EG9600の映像を見て改めて強く実感する。
4Kタイプならではの精細感の表現も、液晶タイプとは一味違う精密さを実感する。スカパー!4Kで放送された東京の夜景を空撮した番組を観ると、微小サイズで捉えられた幹線道路を走るクルマのヘッドライトがにじむことなくくっきりと左右の分かれて見え、おおいに驚かされた。液晶タイプではとてもこうはいかない。こういう精細感の表現はやはり自発光タイプならではだろう。
Blu-ray Discで映画ソフトも何枚か観てみた。部屋を暗くした状態で、じっくり映画を楽しむ画質モードとして「シネマ1」「シネマ2」の2つが用意されており、後者は色温度6500ケルビンを守ったモニター調の画質、前者はLGエレクトロニクス・ジャパンの画質担当エンジニアが感覚重視で造り込んだ画質で、色温度も6500ケルビンよりも高めに設定されている。
この「シネマ1」の画質がとても好ましく、ハリウッド映画の白人女優のスキントーンの表現など実になまめかしい。55型の55EG9600は(試作モデルを観たかぎりでは)、ノイズ処理がうまくいっておらずザラついた画調だったが、65V型の本機はノイズも極小でとても見通しのよい映像が実現されている。
少し不満に感じたのは、本機の映像処理エンジンの性能。パナソニックの最高級BDレコーダー「DMR-BZT9600」との組合せでは、BZT9600で4Kアップコンバートして本機にHDMI出力したほうが断然高精細でハイコントラストな画質が得られるのである。
パナソニック「DMR-BZT9600」。HDMI 2.0に対応し、4K/60pの4:4:4(輝度信号と色差信号の比率)/24bit(各8bit)、または4:2:2/36bit(各12bit)伝送が可能だ
BZT9600からフルHD出力して本機で4Kアップコンバートした映像は、比較すると全体に甘く映像にキレがない印象となる。本機を使いこなすポイントは、できるだけ良質な4Kアップコンバート信号を入力してあげることだと思う。
それから、ハーマンカードンの技術協力を得たという音質だが、これは4K高精細を実現した画質にバランスするレベルには達していない。アンダースピーカー・タイプなのが1番の問題で、4K高精細の魅力が味わえるように近接視聴すると、音が画面下から聴こえてきて画像と音像が一致しない違和感が生じてしまうのである。本機のユーザーは、ぜひ本格的なステレオ・スピーカーを組み合わせて映画や音楽コンテンツを楽しんでいただきたいと思う。
曲面も意外と面白い
さて、これまで筆者は曲面ディスプレイの意義をまったく感じていなかったのだが、実際に本機を前にしてみて、その面白さを実感させられたことにも触れておきたい。
スカパー!4Kで放送された「世界遺産 4Kプレミアム・エディション」のイタリアの古い教会の壁面を映し出した番組を、ゆるくアールがつけられた本機で見続けていると、映像に好ましい奥行感が付与され、あたかもの現実を直視しているかのようなパースペクティヴが得られることを実感させられたのである。
LGディスプレイはすでに「ウォールペーパー(壁紙)テレビ」の試作モデルをIFAで発表しているが、バックライトを必要とせず、極薄化と自由な造型が可能な有機ELテレビにはデザイン上の計り知れない自由度があるわけで、これまでの常識を打ち破る、ぼくらをワクワクさせてくれる斬新な意匠をまとった製品の登場にも期待したい。
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