総務省「青少年のインターネット・リテラシー指標」の中味(1):小寺信良「ケータイの力学」
総務省が定めた青少年のネットリテラシー指標「ILAS」。その第2回の調査結果が発表され、リスク対応能力の向上が明らかになった。しかしネットの利用時間については結果に“矛盾”が見られる。
高校生のスマホ化は、その傾向が出始めた時点からこの連載でウォッチしてきた。いわゆるケータイとはできることが大きく違い、よりPCに近いアクセスビリティを持つスマートフォンに対して、早急なネットリテラシー教育の必要性を訴えてきたところではあるが、一体何をどう教えればいいのか、その指標がない事が問題となっていた。
総務省ではいち早くこの問題に対応すべく、青少年がインターネットを安全に安心して活用するためのリテラシー指標(ILAS:Internet Literacy Assessment indicator for Students)を作成するため、2012年から調査を行なってきた。今年9月3日に、第2回目の調査結果とともに、ILASの中味が公表された。あわせて青少年のネット利用傾向の調査結果も公開されているので、今回はこの調査とILASの内容について検討する。
ILASは、インターネット上のリスク対応能力の項目を設定し、それに対するテストを実施、正解率で現状を把握するという仕組みである。青少年に必要なリスク対応能力として、以下のように設定してある。
- インターネット上の違法コンテンツ、有害コンテンツに適切に対処できる能力
- a.違法コンテンツの問題を理解し、適切に対処できる。
- b.有害コンテンツの問題を理解し、適切に対処できる。
- インターネット上で適切にコミュニケーションができる能力
- a.情報を読み取り、適切にコミュニケーションができる。
- b.電子商取引の問題を理解し、適切に対処できる。
- c.利用料金や時間の浪費に配慮して利用できる。
- プライバシー保護や適切なセキュリティ対策ができる能力
- a.プライバシー保護を図り利用できる。
- b.適切なセキュリティ対策を講じて利用できる。
内容はシンプルだが、現時点の問題点を包括的に押さえている。今年の調査では、全国24の公立・市立の高校にて、およそ3500人の1年生を対象にテストを行なっている。
高校生の利用傾向
公表されたテスト結果によれば、わずかではあるが前回よりはリスク対応能力が上がってきていることが確認できる。特に、1aの違法コンテンツへの理解、2aの情報リテラシー、2cの金銭的、あるいは時間的浪費に対するリスク対応は成績がいい。
その一方で、2bの電子商取引の問題、3bのセキュリティ対策で難が見られる。ただ、現実として高校生のEコマースといったら、せいぜいキャリアへの課金決済ぐらいしか手段がないわけで、その点は2cの利用料金リスクと重なる。2cは正解率が高いわけだから、自分たちの使える範囲のことはそこそこ分かっていると思ってもいいのではないだろうか。
3bのセキュリティの問題に関しては、そもそも大人でもバンバン個人情報ぶっこ抜きアプリにひっかかっている現状もあり、問題があったことにすら気付いていないケースも相当あるはずだ。子供たちに限らず、スマートフォンのセキュリティリスクについては、社会全体のリスクとしてさらなる啓蒙が必要であろう。
インターネットを利用する際の機器に関しては、ほぼスマホ一択状態になりつつある。携帯電話からの乗り換えが起こっているのは当然として、2012年からはPCの利用が半減している点も注目しておきたい。
その一方で、利用機器別に正解率を比較すると、PC利用者のほうが正解率が高いという結果が出ている。これには2つの解釈がありうるだろう。1つはPCの方が情報の俯瞰性が高く、さまざまなリスクが見えやすいということ。もう1つは、リスクを分かっている子があえてPCをメインにしているということだ。
インターネットの利用時間については、スマートフォンの利用時間が2時間を超える子供が半数を超えるというグラフがあるが、このデータには矛楯がある。凡例を見れば分かるが、このグラフには「30分未満」「30分〜1時間」と来て、いきなり次が「2時間以上」となっている。その間の「1時間〜2時間未満」というデータがどこにもない。おそらくこの部分のデータは、「2時間以上」のデータに編入されてしまっているのではないだろうか。
丁度総務省がこの公表の翌日に、「『スマートフォン安心安全強化戦略』の公表」として、いくつかの資料を公開している。この中の「第III部 スマートフォンのアプリ利用における新たな課題への対応」という資料に、三菱総研が今年3月に調査した、スマートフォンの利用時間のデータがある。これによれば、高校生の利用時間の120分以上を積算しても43%にしかならない。
調査対象が違うので同じ結果にならないのは当然としても、大事なポイントで大きく間違っているため、この資料に信憑性はない。よりによってこの部分を取り出して「スマホ所有高校生の過半数が『1日2時間超』」などとセンセーショナルに報じたメディアもある。図らずも、情報を出すメディア側に情報リテラシーがないことを露呈したようなことになっているのはいかがなものか。たとえ官公庁発表の資料と言えども、情報を鵜呑みにしない姿勢を持つべきであろう。
小寺信良
映像系エンジニア/アナリスト。テレビ番組の編集者としてバラエティ、報道、コマーシャルなどを手がけたのち、CGアーティストとして独立。そのユニークな文章と鋭いツッコミが人気を博し、さまざまな媒体で執筆活動を行っている。最新著作は、ITmedia Mobileでの連載「ケータイの力学」と、「もっとグッドタイムス」掲載のインタビュー記事を再構成して加筆・修正を行ない、注釈・資料を追加した「子供がケータイを持ってはいけないか?」(ポット出版)(amazon.co.jpで購入)。
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