PUPdate流 HDD大研究

MP3野郎に捧ぐ! 大容量デジタルミュージックライフのススメ2〜実践編〜(2/2)

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 実際、音楽スタジオなどでマスタリングを行う際、最近では「96kHz、24ビット」で行うことが多くなっている。これは、音の表現力(分解能)は、CDの500倍以上になる。ダイナミックレンジも144デシベルと格段に広く、倍音も臨場感もかなりのレベルまで再現できる。

 音楽CDは、実はこのマスターデータをあえてダウンコンバートし、“音質を劣化させる”処理を行って、売っているのである。

LPレコードの音をPCで再生する

 CDの音の限界を最も痛感するのが、皮肉だが、アナログLPの再生音と比較した時である。

 筆者はジャズが好きでよく聞くのだが、ジャズのレコードでは、別々に録った音を後からミキシングしたりせず、スタジオで一発録りしたものが少なくない。そうした演奏では、スタジオに漂う緊張感や、人の動く気配、ささいなやり取り、指を動かす音や衣ずれの音さえも、その名演奏の構成物であったりする。本当の名演奏だと、「あ、今、目線を合わせたな」といった、音として再現されているはずのないものまで、伝わってくる(ような気がするのだ)。

 最近では、ジャズもかなり珍しいレコードまでCDで再発売されていて、それはそれでうれしいのだが、聞いてがっかりすることが少なくない。なんというか、LPで聞いた「あの音」と全然違うのだ。

 溝と針で音を再生させるLPと違い、CDでは再生できる周波数帯域ではノイズはほとんどなく、きちんとリマスタリングされたものであれば、音は「きれい」だ。初めて聴いたのがその音ならば、それはそれで満足しただろう。だが……。

 筆者が一番好きなLPレコードに、アート・ペッパーというアルト奏者の「再会(among friends)」というアルバムがある。麻薬中毒から立ち直った晩年のアート・ペッパーが、ピアノのラス・フリーマンら旧友と再会し、なんともいえない濃密なムードの中で、しかし肩の力を抜いて演奏する。

 希代の名奏者として知られるアート・ペッパーにとって、これは決してベストアルバムでも格別人気の高いアルバムでもないが、しかし漂ってくるその雰囲気、息遣い……。聞いているうちに涙が自然とこぼれてくるような、ものすごいセッションだった。

 その上、録音が素晴らしいのだ。スタジオの空気の色まで溝に刻み込もうとするスタジオエンジニアたちの意気込みが、はっきりと伝わってくるほどだ。

 それこそ磨り減るほど聞いた。磨り減っていくのが心配で、保存用にもう1枚買ったぐらいだ。だが、発売から20年以上経ち、そろそろ劣化も気にしなくてはならない。そこでCD-Rで焼いてみたのだが、がくぜんとしてしまった。ペッパーのアルトはそれなりに気持ちよく鳴っている。しかし、あのなんとも言えない雰囲気は、きれいさっぱりどこかに行ってしまっていた。

 ところが最近、CDとしてこのアルバムがようやく再発売になった。もちろんすぐに買った。エンジニアたちの真剣な取り組みがうかがえる出来で、これはこれで十分満足のいくものだった。

 だが、それでもLPで聞いた“あの音”とはやはり違う。実際にLPと聞き比べてみたが、答えは変わらなかった。名誉のために書き添えると、このCDは国内でも最高峰といわれるビクタースタジオでも指折りと言われるエンジニアがリマスタリングしたものだ。その良さはCDからも十分伝わってくる。だからこそ、逆にCDの限界を感じずに入られないのだ。

 ならばLPを聴いていればいいではないか? その通りだが、30センチのあのお皿をとっかえひっかえするには、筆者はデジタル音楽の手軽さに、すっかり馴れきってしまっている。第一、持ち運ぶことができない。わが家一番のオーディオセットがある部屋に行って聴くのが唯一の選択肢。仕事をしながらでは聴けないのだ。

 そうしたこともあってか、最近筆者の周りの30代、40代のオールド(?)オーディオファンの間でひそかに流行っているのが、LPレコードをPC上に取り込んで、「あの音」を再現しようとする遊びだ。

 もちろんCDと同レベルの音で取り込んでも仕方がない。96kHzないし192kHzで24ビットというDVD-Audio並みの音質で取り込む。良質のアナログ入力を選ぶことからサウンドカード、電源周りまでそれなりのコストをかける必要もある(そもそもその周波数に対応しているサウンドカードであることが必要だ)。

 取り込んだ音も、もちろんそのままではダメ、マスタリングツールなどを用意し(最近はなかなかいいものが1万円以内で入手できる)、チマチマ、ノイズリダクションなどを行っていく。プロなら手際よくできるのだろうが、素人仕事。試行錯誤の連続である。

 この手のことはきりがなく、電源を安定化し、良いフェライトコアを使い、さらにPC内部のノイズの除去処理をし、ケーブルをシールドし(このあたりはもう手作りの世界だ)……と追求し始めると、手間もコストも気が遠くなるほどかかる。だが、そこまで十分手をかけられなかった筆者でも、結果として、そこそこ悪くない、少なくとも“あの息遣い”を再現するLPレコードのデジタルリマスタリングができた(気がする)。192kHz、24ビット、ステレオ。音の表現力は計算上はCD音質の1000倍以上、DVD-Audioレベルのはず、である。

 ただし……。

 DVD-Audio規格のデータ転送レートは約10.08Mbps。3分1曲のデータ量は230Mバイトほど。40分ほどのLPレコードを1枚、こうしてデジタルデータ化すると、それだけで3Gバイトほどになってしまう。デジタル化の作業にあたっては、同じLPを“何テイク”かしたので、それだけで10Gバイト超。数枚のLPを同じように作業したら、総容量は100Gバイト近くに達した。こんなリマスタリングを何回か行えば、HDDの容量なんていくらあっても足りない。

 その上、あくまでも趣味・気晴らしでやっているので、ノイズリダクションなどの後処理は気軽にやりたい。デスクに向かったり、寝っころがったり……。その点、Personal Storageのような外付け大容量HDDのいいところは、データだけを持ち運び、デスクトップやノートPCなどに接続し、その時の気分に合わせて好きなところで作業できる点だ。

 加えてもう一つ大事なのは、デザイン性だ。ここまで来れば、パソコンで楽しむ音楽も、完全に「大人のホビー」の世界である。となれば、持つものの良し悪し、デザイン性にまでこだわりたくなってくるはず。その点、Personal Storageなら、そうしたこだわり人間たちにも十分受け入れられるだけの、スタイリッシュさを持ち合わせている。

DVD-Audio品質で求められる「大容量」

 デザインの良いノートPCとHDDを選び、好きなところで自分のお気に入りの音楽の音をマスタリングツールで磨く。やってみれば分かるが、なかなかオツなものである。LPだけでなく、イマイチ音質が気に入らないCDの音を取り込み、これを96kHz、24ビットにアップコンバート。自分好みの音に仕立て直しているといった人は筆者の周囲に結構たくさんいる。

 MP3でPCを使って手軽に音楽を楽しむことを覚えてしまった私たちにとって、次に来るのはきっと音質だ。それは一方ではMP3のような圧縮オーディオでより良い音を求める動き。例えばWMA8のように、MP3より高品質・高圧縮をうたう規格がすでに登場している。

 しかし、その対極で、今後増えるであろうのが、「圧縮なんて必要ない、それぐらいならもっと良い音を」という人たちだろう。音楽CD(CD-DA)の次の規格であるSACDやDVD-Audioクラスの音が当然になる時代ももうすぐそこまで来ている。それをPC上で楽しもうとする動きも、まもなく活発になっていくだろう。

 だが、良い音はサイズが大きい。こればかりはどうしようもない。宿命ですらある。

 Personal Storageのように手軽で大容量な外付けHDDにどうしても目が行ってしまうのは、だからそうしたわけなのだ。200Gバイトの外付けHDDがあれば、何十枚もの古いLPレコードをDVD-Audioレベルの最高品質でデジタル化させ、持ち運ぶといったことさえできるのだから。

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