「砂漠の下を通る約3000年前の古代地下水路」を“冷戦時代のスパイ衛星”とAIで大量に発見:Innovative Tech(AI+)
スペインのカタルーニャ古典考古学研究所やICREAなどに所属する研究者らは、スパイ衛星の画像と物体検出AIを組み合わせたシステムで古代の地下水路システムを発見した研究報告を発表した。
Innovative Tech(AI+):
このコーナーでは、2014年から先端テクノロジーの研究を論文単位で記事にしているWebメディア「Seamless」(シームレス)を主宰する山下裕毅氏が執筆。新規性の高いAI分野の科学論文を山下氏がピックアップし、解説する。
X: @shiropen2
スペインのカタルーニャ古典考古学研究所やICREAなどに所属する研究者らが発表した論文「Deep learning-based detection of qanat underground water distribution systems using HEXAGON spy satellite imagery」は、スパイ衛星の画像と物体検出AIを組み合わせたシステムで古代の地下水路システムを発見した研究報告である。
これらの地下水路システムの中でも、北アフリカと中東に広く分布するカナートと呼ばれるものが最古とされ、その歴史は古代にまでさかのぼる。カナートは、高地や山岳地帯から砂漠地域へ水を運び、主に農地に水を効率的に供給するかんがいを機能させるために設計されていた。
これらのシステムは、数十kmに及ぶ地下水路と、定期的なメンテナンスや適切な空気循環を確保するための垂直シャフトから構成されている。カナートの存在により、以前は人が住むことすら想像できなかった乾燥地域での定住が可能となり、人類の生活圏を大きく拡大させた。
研究チームは、人工知能を活用してこれらの古代水路を発見するシステムを開発した。このシステムでは、1971〜1986年にかけて運用されていた米国の冷戦時代のスパイ衛星「HEXAGON」が撮影した白黒画像を主に用いて、AIモデルを訓練した。
これらの画像は、現代の衛星画像よりも古い景観を捉えており、現在は失われてしまったカナートの痕跡を見つけられる可能性がある。さらに、AIの性能を向上させるため、地下水路の人工画像を追加で作成し、訓練データを補強し汎用性を高めた。
研究チームは、物体検出のための深層学習アルゴリズムである「YOLO v9」を採用し、地下水路につながる垂直シャフトの開口部を示す特徴的な穴の列を探し出すよう設計した。
この手法の有効性を検証するため、カナートの存在が既知のいくつかの地域でシステムをテストした。具体的には、アフガニスタンのマイワンド地域、イランのゴルガン平原、モロッコ東部のリッサニ町の衛星画像を使用した。
その結果、開発したモデルは平均で88.1%の精度(カナートの位置を正しく検出した割合)と62.7%の再現率(実際に存在するカナートのうち、モデルが正しく見つけることができた割合)を達成した。特に乾燥した砂漠地域での性能が高く、アフガニスタンの事例では最高の結果(精度99.3%、再現率73.9%)を示した。
一方、イランのゴルガン平原のような複雑な景観を持つ地域では課題が残った。この地域は農地や都市部、河川など多様な土地被覆を含み、カナートの保存状態もさまざまであったため、誤検出が増加した。
Source and Image Credits: Nazarij Bu?awka, Hector A. Orengo, Iban Berganzo-Besga, Deep learning-based detection of qanat underground water distribution systems using HEXAGON spy satellite imagery, Journal of Archaeological Science, Volume 171, 2024, 106053, ISSN 0305-4403, https://doi.org/10.1016/j.jas.2024.106053.
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