未来のコンピュータ、本命は“脳組織”? iPS細胞から作り出された「BPU」とは何か(3/3 ページ)
人工で作った“小さな脳”を、新しいコンピュータとして利用できないだろうか。ソフトバンク先端技術研究所と、東京大学生産技術研究所の池内与志穂准教授らが共同で進める「BPU(Brain Processing Unit)」構想は、まさにその野心的なアイデアを形にしつつあるプロジェクトだ。
脳コンピュータはSFか、現実か
BPU構想は「量子コンピュータと並ぶ将来の計算アーキテクチャになるかもしれない」というビジョンから始まった。現状、脳オルガノイドはまだ「赤ちゃん脳」の段階だが、将来的には成長し、子供レベル、さらには大人の脳に近い機能を発揮できる可能性が期待されている。
例えば、視覚や聴覚による判断が可能になれば、まずは小型かつ省エネなセンサーとして利用され、運動予測やロボットの制御に応用できるだろう。最終的には、未知の環境下での自動運転やゼロから新たな価値を創出するクリエイティブなタスクへの応用も視野に入れ、CPU、GPU、量子コンピュータ(QPU)に匹敵する新たな計算アーキテクチャとして実用化を目指すという展望が示されている。
現段階では、わずかな報酬・刺激で学習する初期のオルガノイドの姿が既に大きなインパクトを持っている。これが将来的に、単なるゲームやロボット制御にとどまらず、未知環境への適応や高度な推論能力を発揮する可能性があると、研究者は語っている。ソフトバンクと東京大学は、このビジョンを実現するため、実験と観測を重ねているという。
研究とアートが交差する意義――社会と共有する“脳の未来像”
“生きた脳”を扱う研究は極めて専門的でありながら、将来のコンピューティングや倫理面に関わる社会的テーマでもある。そこで今回、アートと組み合わせることで、来場者に直感的な体験を提供しているのが大きな特徴だ。
たとえ学術的には初歩的な学習であっても、脳オルガノイドの電位変化が可視・可聴化されると、「確かに何かを感じ、反応している」ように見える。真鍋氏が生体ならではの不確定性をデザインに落とし込むことで、研究の抽象度を下げ、未知の可能性を分かりやすく伝える効果が生まれている。
CPUやGPUに量子コンピュータが加わる現代、その先に“BPU”が本当に到来するのかはまだ定かではない。しかし、少なくとも今ここで行われている実験は、「脳を使った新しい計算手段」が単なる空想でないことを証明している。音楽を学習し、ロボットを制御し、自分のリズムを再認識する――そこには、生きた細胞が演算処理を担う未来図のほんの片りんがあるのかもしれない。
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