生成AI導入に必要なのは「嫌われる勇気」──“オレ流”で貫く、組織改革のススメ:マスクド・アナライズの「AIしてま〜す!」(3/3 ページ)
生成AI導入推進担当者に求められるのは「嫌われる勇気」と「組織変革の実現」ではないか。今回の記事ではそんな仮説を提唱し、あの野球監督のスタンスを参考に、企業のAI導入を円滑に進める方法を考える。
不安と懸念の払拭
生成AI推進で壁になるのは「仕事が奪われてリストラされる」などの不安や、「間違った回答や情報漏えいで問題が起きるのでは」という懸念です。このような否定的な感情をどのように払拭すべきでしょうか。落合氏は監督就任時に選手の解雇とトレードの凍結を明示して、能力を見極める方針を打ち出しました。
1年かけてベテラン選手の退団や成績の悪いスター選手の2軍落ちがあったものの、公正な評価で選手の意欲を引き出しました。企業においては、生成AIをリストラの口実にしないことを明言して、人事評価における基準を提示するなど、生成AIが与える影響をはっきりとさせましょう。
導入後の利用が進まない
生成AI導入後の最も大きな課題は、利用の停滞です。一部しか利用されず、かかった費用に対して得られる成果が少ない状況に陥ることもあるかもしれません。同様の問題について、落合氏は監督時代に失敗には寛容でありながら、怠慢には厳しい姿勢で臨みました。
失敗しても叱責(しっせき)しないものの、怠慢によって役割を果たせない選手は外されてしまいます。企業においても生成AIの利用による失敗において、過度な責任追及は避けて問題を防ぐ仕組み作りが重要です。一方、生成AIを使わずに業務改善に貢献しない怠慢な行動は指導・処分する姿勢で望むことが、より利用を促進する結果につながるでしょう。
「オレ流」による生成AI導入推進
落合氏のスタンスで最も参考になるのは「オレ流」です。オレ流とは周囲に惑わされず自分自身の主義主張を貫くこと。その上で個人の結果やチームの勝利という成果を出して、批判を黙らせることにもつながります。生成AIにおける成功事例が少ない状況では、このオレ流が必要です。
他社の成功事例をそのまま模倣するのではなく、自社に合わせた施策を考えて実行しながら、改善を重ねる。例えば生成AIにおける活用例はSNSなどで多数あるものの、閲覧数を目的に見栄えが良いものだけを選んで紹介している可能性もあり、実際に業務で活用できるとは限りません。
そこで成功につながる要因を分析しながら、どの業務で活用できるか自社流にアレンジする必要があります。このような自社に合わせた導入推進策をオレ流で実現してみましょう。
なお落合氏を主人公とした漫画「落合博満のオレ流転生」という作品も存在します。こちらでは、異セ界ならぬ異世界ファンタジーが舞台。異世界でも自分のバッティング能力で魔法使いに勝利したり、プロ野球チップスで一儲けするなど、無双しています。
嫌われた監督の限界
落合博満氏を生成AI推進のモデルケースとして紹介しました。野球人としての落合氏は現役・監督時代において、独自の言動からファンのみならず関係者からも嫌われてきました。特に監督時代は「嫌われた監督」と称されたほどです。
企業における生成AI推進担当も、社内で反発や批判にさらされる「嫌われた担当者」になるでしょう。そのため自分自身を守ることが重要です。落合監督であれば勝利を積み重ねる結果を出しながら、契約によって自分自身がやるべきことに集中できる環境を作りました。それによって周囲に対する批判をしりぞけて、自分自身の身を守る結果となっています。
同様に生成AI推進の担当者もまずは小さな成果を作って実績をアピールしたり、担当範囲を明確にして生成AIに関する業務に注力できる環境を作るなど、対策が取れるでしょう。生成AI推進の担当者になった以上、簡単に辞めたり投げ出したりすることはできません。しかし嫌われながら無理を重ねることも避けるべきです。
そのために生成AIで「嫌われた担当者」になっても、自己防衛をしながら結果を出しましょう。結果を出せば不満も言えませんし、理解者が増えて社内の雰囲気も変わります。最初は反発した人も、利便性に気付けば意見を変えるでしょう。
このように生成AIによって数字で分かる明確な成果を出すのと同時に、数字では見えない印象や好感度も重要です。嫌われるばかりでなく、好かれることも必要です。
落合氏であっても監督時代は精神的な疲弊を吐露しており、普通のビジネスパーソンであれば嫌われ続けることに耐えきれません。現状において、生成AI担当者が会社で嫌われる現実はあります。そんな環境で生き残るためにオレ流で結果を出しつつ、結果を好感度につなげて自分自身を守り抜く姿勢で生成AIを社内全体に展開していきましょう。
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