“完全自動化AI”が日本で広まらないワケ PKSHAが分析 ヒントは流行語「チャッピー」にアリ
日本で広がるAIアプリとは何か?──AIベンチャー・PKSHA Technologyはそんな疑問を投げかけた。好調な業績が続く同社では、日本のAI市場をどのように分析しているのか。
日本で広がるAIアプリとは何か?──AIベンチャー・PKSHA Technology(東京都文京区)は11月18日、記者向け説明会でそんな疑問を投げかけた。企業向けにさまざまなAIプロダクトを提供する同社は、2025年9月期通期決算(24年10月1日〜25年9月30日)の売上・収益で約3割の成長を見せ、好調な業績が続いている。そんな同社は、日本のAI市場をどのように分析しているのか。
PKSHAの独自調査の結果、日本の大手企業におけるAIツールの導入率は41%、AIエージェントの導入率は12%だったという。日本でAIの社会実装が進まない理由には、日本のビジネス慣習にあると同社は分析。多重請負が頻発し、調整業務などコミュニケーションのコストがかさむことによる、事業スピードの鈍化などを原因に挙げている。
そんな状況の中、日本で広がっているAIアプリの共通項は何か。同社が考察したところ、「人の仕事を完全に自動化するAIは広がっていない」との見解を示した。同社の上野山勝也代表は「広がっているAIの特徴は人を置き換えるのではなく、『人と共に働く』『人の能力の拡張機になる』などの特徴がある」と話す。
これは日本独自の特徴だと上野山代表は続ける。各国で普及するAIの形はそれぞれ異なっており、AIは各国の文化や人間観の写し鏡になるのではないかと意見を述べる。
「例えば、今米国で作ろうとしているAIは、AGIのような一つの超知能で、それを健全に機能させるためにガバナンスをつくろうという考え方。一方、中国では少し違っていて多くの人を安定させるために、監視AIが受け入れられている。われわれの直感では違和感があるようなものも、他国では受け入れられている」(上野山代表)
このような海外事情の中、日本では人と人の間で動くAIを敵視するのではなく、シンパシーを感じる傾向があるのではと上野山代表。第42回「新語・流行語大賞」に、ChatGPTの愛称として知られる「チャッピー」がノミネートされたことも根拠に挙げた。
「AIがどんどん“人のように振る舞う何か”に進化していく中、それを社内に受け入れようとしたとき、めちゃくちゃ空気の読めない状態だと、きっと浮いてしまう。そのため、迎え入れるコミュニティーの環境に適応できるものが受け入れられやすい。これが国や文化の違いによって、普及するAIが異なる理由だと考えている」(上野山代表)
これらの結論として同社では、人の仕事を置き換えるAIではなく、人の間をつなぎ整えるAIが日本では普及していると説明。上野山代表は「日本語では、ヒトを“人間”と表す。わざわざヒトを“人の間”と表現する言語は日本以外ではない」と文化的背景にも言及した。
“第3の柱”でさらなる成長見込む
PKSHAは11月、25年9月期通期決算の結果を発表。売上収益は217億7100万円(前年同期比28.9%増)、事業利益は39億2200万円(同25.6%増)、純利益は26億8300万円(同28.8%増)で増収増益となった。これまで同社では、カスタマイズ型の事業「AI Solution」、パッケージ型の事業「AI SaaS」の2つを主に展開してきたが、新たに第3の柱として「AI Powered Worker」の事業を始める。
この事業ではAI SaaS事業の提供形態を広げ、プラットフォームの販売を行っていく。上野山代表は「人間ならではの経験やスキルをAIで拡張していく。これまでもAI SaaS事業で、コールセンターのオペレーター業務の生産性を向上させる事例があったが、これをさらにバーティカルに伸ばしていく。働くほど、その人の生産性や創造性が拡張していくようなものを作りたい」と展望を語る。
AI Powered Workerの事業の新設や既存事業の成長継続を見込み、26年9月期(25年10月1日〜26年9月30日)の連結業績予想は、売上収益は350億円(前年同期比60.8%増)、事業利益は50億円(同27.5%増)、純利益は28億5000万円(同6.2%増)と定め、増収増益を目指す。
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