並列コンピューティングは既に存在する
米Microsoftの研究戦略最高責任者、クレイグ・マンディ氏が未来を占い、並列コンピューティングは次のコンピューティング革命になると予言したのは実に正しかった。ただしマンディ氏が見ていたのは過去だった。並列コンピューティングは既に存在し、何年も前から世界を変えつつある。
現代の並列コンピューティングの問題は、われわれがその存在を見ようとしないことにある。ちょうど、商用の相互接続ポイントCIX(Commercial Internet Exchange)とWebが90年代初頭に登場して世界を変える、その数十年前からインターネットが存在していたのと同様、マルチコアプロセッサと超並列処理(MPP)が既に引き起こした変化に、われわれのほとんどは気付いていない。
インターネットの商業利用を可能にしたCIXのおかげで、ネットから利益を上げられるようになった。Webはキラーアプリケーションだった。
現在、マルチコアプロセッサとMPPは既に実用化されている。Webによるインターネット以前の時代からFTP、電子メール、Gopherが使われていたのと同じだ。Sony Vegas Movie StudioやNeroといった動画編集プログラムのような一部のアプリケーションは、現在既にデュアルコアプロセッサと並列処理を活用している。
動画だけではない。スーパーコンピュータはIntelやAMDのプロセッサを数百、数千個という単位でMPPアレイを作ってLinuxを実行している。現在首位のスーパーコンピュータである米ローレンスリバモア研究所のIBM Blue Gene/Lは、何万ものPowerPCでLinuxを実行して478.2テラFLOPS(テラFLOPS:1秒間に1兆回の浮動小数点演算処理)のパフォーマンスを達成できる。世界トップ500のスーパーコンピュータのうち、実に85.2%がLinuxで動いているのだ。
例えばヒトゲノムの情報を解析したり、天気予報を経験則よりも科学に近いものにするといった、日常生活では気付かないことをするほかに、デジタル特殊効果を使った映画を見ることは、ほぼ確実に、Linux、マルチコアプロセッサ、並列処理の働きを見ることになる。
例えばAutodeskのLinux向けデジタル視覚効果プログラム「Flame」は、「シャーロットのおくりもの」といった子供向け映画から、リメイク版のジェームズ・ボンド映画「カジノ・ロワイヤル」、「パイレーツ・オブ・カリビアン/ワールド・エンド」、そしてもちろん「ファンタスティック・フォー:銀河の危機」といったSF作品にも使われている。「Autodesk Maya」のような画像処理プログラムには、Windows版とMac OS X版もある。
追い上げを狙うMicrosoft
つまり、マンディ氏が語っていたようなソフトは既に実在する。ただし、ある意味で同氏は正しい。Microsoftはインターネットの時とまったく同じで、追い上げを狙っているのだ。例えばMicrosoftは、並列処理とマルチコアプロセッサを有効利用するためのプログラミング言語を持っていない。
一方Linuxには、GNU Compiler Collection(GCC)の標準的なコンパイラのMPP対応バージョンが10年近く前からある。最新版のGCC 4.3には、多くのC++ Standardライブラリアルゴリズムの並列実装が含まれている。
まだ存在しないのは、並列処理をインターネットのように誰でも知っているものにする、新しいビジネスモデルとキラーアプリケーションの組み合わせだ。
並列処理の転換点が迫っているようには見えない。それよりも、すべてのアプリケーションの大幅な高速化につながる処理能力は着実に高まっている。
2008年現在、478.2テラFLOPSは目覚ましい数字だ。しかし2018年になれば、自宅のPCがこれと肩を並べても驚きはしない。目に見えないところで驚くようなことが起こっていても、わたしのような開発者でないユーザーに分かるのは、自分たちのコンピュータがかつてなく高速になっているということだけだ。
それでも十分高速とはいえない。われわれが決して満ち足りることのないせっかちな種族である限り、十分高速なコンピュータなど作れはしないだろう。
Editorial items that were originally published in the U.S. Edition of “eWEEK” are the copyrighted property of Ziff Davis Enterprise Inc. Copyright (c) 2011. All Rights Reserved.
この記事の著者
関連記事
こんなメディアも見られています
ITmedia NEWSに関連する情報をお探しであれば、こちらのメディアもお役に立てるかもしれません。
SpecialPR
本日の新着記事
アクセスランキング
-
1
IDCFクラウドへのランサム攻撃、495の企業・自治体に影響 一部には「復元難しい」との通達も
-
2
IDCFクラウドへの不正アクセス、ランサムウェア攻撃と明らかに 運営会社が回答
-
3
バイブコーディングで作った公開中のWebアプリ、9割に脆弱性 MSの研究者など調査
-
4
損保ジャパン、約6万件漏えいか 大和証券・シチズンと同じ委託先への不正アクセスで
-
5
相次ぐ不正アクセス受け、古川デジタル相がコメント 国民に3つのサイバー対策呼び掛け
-
6
IDCFクラウドに不正アクセス 東日本の第1リージョンで障害
-
7
HIS子会社からパスポート情報流出か、最大627人分 昨年の不正アクセスを公表
-
8
Google広告の代理店アカウントに不正アクセス 顧客アカウントからカジノ広告無断配信 パスキー設定も侵入許す
-
9
「楽天ドライブ」に不正アクセス 保存したデータなど1.5万アカウント分が取得・閲覧のおそれ
-
10
Anthropic、「Claude Haiku 5.5」公開 「Haiku 4.5」から大幅性能向上で利用コスト約75%減
ITmedia NEWS SNS
インフォメーション
注目情報をチェック
ITmediaNEWSをフォロー
あなたにおすすめの記事PR