科学なニュースとニュースの科学
【第4回】まん延するニセ科学と、対峙する科学者たち
読者の皆さんは、去る12月19日、NHKの「視点・論点」という番組で、大阪大学の菊池誠教授が、「まん延するニセ科学」と題して、ニセ科学の問題点や本来の科学との違いについて語ったことが、ネット上で大きな話題となったことを知っておられるだろうか?
もともと、一見科学的な装いをまとった非科学的な主張も、科学の発達と平行するかのように次々に現れ、そのまま生き残ってきている。中世ヨーロッパにおいては占星術と天文学は不可分だったし、血液型性格診断のようにいまだに科学的だと思いこまされてしまっている人が多いものもある。こう言えば、菊池氏が言うところの「ニセ科学」とはどういうものか、だいたいのイメージはできるだろう。
こういったニセ科学は、英語では「pseudoscience」と呼ばれ、従来は「疑似科学」という訳語をあてられることが多かった。だが、1999年に翻訳されたマイクル・シャーマーの著書「なぜ人はニセ科学を信じるのか(I/II)」(岡田靖史訳/早川書房刊)を読んだ菊池氏は、「疑似」という言葉には価値判断が含まれないが「ニセ」という言葉は否定的な意味合いを強く含むため、以降は「ニセ科学」という呼称を採用することにしたという。
菊池氏が危険視しているのは、この手のニセ科学が、教育の現場にまで幅をきかせようとしてきている点にある。
例えば、小学校の道徳の授業で「水にありがとうと声をかけるときれいな結晶ができる」という説を説かれていたり、教育関係者やPTAのあいだで「テレビゲームをしすぎると、脳の機能が壊れる」といういわゆる「ゲーム脳」説の講演会がおこなわれていたりするということが、今の日本で実際に起きているのだ。
しかも、悩ましいことに、それらの説を流布している人たちの多くは、善意から行動しているというのである。本人たちは「良いこと」をしているという確信を持っているのだから、その説の科学的な問題点や論理的な欠陥を指摘しても、なかなか納得してもらえないし、なによりも「善意の行動に横やりを入れている」ように見えかねないというところが難しい。つまり、場合によっては、善意の第三者の中には、ニセ科学の問題点を指摘している側が悪役に見えかねないってことにある。まあ「正義の押しつけ」は、バランス感覚の優れている人ほど、気持ち悪く感じるもんかもしれないしね。
さらに言えば、教育やしつけの現場で、そんな「ニセ科学」によりかかりたくなってしまうという状況が存在するということこそが、大きな問題であると言えるだろう。
菊池氏に言わせれば、人がニセ科学に魅入られやすいのは、ニセ科学が単純な二分法で複雑な問題に明快に白黒をつけてくれるからだという。しかし、現実の世界というものは複雑なものであり、その複雑さを少しずつ読み解いていく課程こそが「合理的思考」であり「科学的思考」だとも、菊池氏は言う。
菊池氏の取り組みがユニークなのは、自らの活動によって、今すでに「ニセ科学」を信じてしまっている人を説得できるとは、必ずしも考えていないという点にある。
それよりも、今はまだそういう説を知らない人たちが、ふとしたはずみでその存在を知り、おかしな考えにとりつかれてしまう前に、「こういう説は科学的なように見えて、実は非科学的で何の信憑性もないんですよ」ということを広めておこうというのである。病気に例えれば、感染してしまってからでは治療は困難だから、しっかりと予防措置をしておきましょう、というようなことかもしれない。
近年、菊池氏以外にも、こうした「ニセ科学」への警鐘を鳴らすという啓蒙活動を、ネット上でおこなっている科学者たちが現れてきている。
これらの試みが、大きな実を結び、ニセ科学の広がりに少しでも歯止めがかかることを期待したい。
(次回はポアンカレ予想の話題を取り上げます。2月9日掲載予定)
堺三保氏のプロフィール
作家/脚本家/翻訳家/批評家。
1963年、大阪生。関西大学大学院工学研究科電子工学専攻博士課程前期修了(工学修士)。NTTデータ通信に勤務中の1990年頃より執筆活動を始め、94年に文筆専業となる。得意なフィールドはSF、ミステリ等。アメリカのテレビドラマとコミックスについては特に詳しい。SF設定及びシナリオライターとして参加したテレビアニメ作品多数。仕事一覧はURLを参照されたし。2007年1月より、USCこと南カリフォルニア大学大学院映画学部のfilm productionコースに留学中。目標は日米両国で仕事ができる映像演出家。
ウェブサイトはhttp://www.kt.rim.or.jp/~m_sakai/、ブログは堺三保の「人生は四十一から」。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
この記事の著者
関連記事
こんなメディアも見られています
ITmedia NEWSに関連する情報をお探しであれば、こちらのメディアもお役に立てるかもしれません。
SpecialPR
本日の新着記事
アクセスランキング
-
1
資さんうどん、従業員の退職理由などが外部から閲覧可能に 委託先の勤怠システムに設定不備
-
2
松屋の公式アプリとWebサイトが停止 不正アクセスを検知、モバイルオーダーや弁当予約も使えず
-
3
グッスマ、顧客の2800人のカード番号全16桁+セキュリティコードなど流出か 下4桁は40万枚分
-
4
「PayPay連携の銀行から、お金全部盗られた」被害報告……原因と対策は? PayPayに聞いた
-
5
NEC、委託先の情報漏えいで謝罪 「セキュリティ事業を手掛ける企業として反省」
-
6
ベネフィット・ワンの委託先に不正アクセス セゾン会員向け優待サービスで約2.9万人分の個人情報漏えい
-
7
JALの予約システムに不正アクセス 約9万人分の予約情報が漏えい 一部ではパスポート番号も
-
8
VTuber「兎田ぺこら」グッズにSNSで風評被害→示談成立 「保護者同伴で謝罪などがあったため」
-
9
渦中のGMO、熊谷代表の発信は“火に油”か? 「経営トップが自ら広報」の功罪
-
10
ソニー生命に不正アクセス、個人情報約38.5万件漏えい 氏名や住所、契約内容など
ITmedia NEWS SNS
インフォメーション
注目情報をチェック
ITmediaNEWSをフォロー
あなたにおすすめの記事PR